『櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展』レポート 水道橋博士も感嘆した72人2,000点超の未体験アートを目撃!

SPICE

2019/4/19 18:00


東京・文京区の東京ドームシティGallery AaMo(ギャラリー アーモ)で現在開催されている『櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展』。2019年5月19日まで開催中の本展は、既存の美術史や概念では語れないアウトサイダー・アートにおける日本唯一のアウトサイダー・キュレーター、櫛野展正が選ぶ72名2,000点以上の作品が一堂に会する特別展だ。開幕前日には記者発表会が行われ、櫛野本人と櫛野と交友のある芸人の水道橋博士によるトークショーも開催された。ここではその様子も交えつつ、驚きの昆虫アートやヤンキー芸術など、只者ではないアウトサイダー・アート作品の一部をご覧いただこう。

日本唯一のアウトサイダー・キュレーターによる特別展


日本ではまだ馴染みの薄いアウトサイダー・アートとは、一般的に美術の教育を受けていない人々の創作のことを指し、2010年にパリで開催された『アール・ブリュット ジャポネ展』をきっかけに今、世界的に注目を集めている。知的障害者福祉施設に長く務めた経験のある櫛野展正(くしの・のぶまさ)は、この分野において障害者アートをはじめ、ヤンキー文化や老人芸術に関する作家など、表現せずにはいられない独自の感性を持った人間たちを追い続けている。
記者発表会に登場した櫛野展正
記者発表会に登場した櫛野展正

トークショーでは、まずキュレーターを志したきっかけや作家たちとの出会い方について語った櫛野。これだけ大きな展覧会は初めてということで「多くの人に作品を見てもらえる機会ができてうれしいです」と喜びを語り、続けて「(展覧会名の)頭に僕の名前がありますが、主役は70名を超える表現者の方たちです。本展では作家ご本人にも来ていただき、イベントを開いたり、いろいろな企画をしていきたいと考えています」とコメントした。
ゲストで登場した水道橋博士
ゲストで登場した水道橋博士

続いてゲストの水道橋博士が登場。書籍の帯にコメントを寄せるなど、以前から櫛野と親交のある博士は「どうも、芸能界のアウトサイダーです」と冗談を交えながら登壇。その後、場内を鑑賞した感想を語り、「書籍でしか見られなかった作品が実体として見られるので、その想像力や情念みたいなものが細部まで見えて興味深い」と感嘆した様子で語った。
二人はギャラリートークも開催
二人はギャラリートークも開催

2人はそれぞれが注目する作家についても質問され、櫛野は迷いながらもストレンジナイトを、博士はけうけげんをピックアップ。また、櫛野は世界的に注目を集める日本のアウトサイダー・アーティストとして、スイスのアート展にも出展している小林一緒の名を挙げた。

圧倒的な数と独自性が交錯する異端児たちの芸術


本展は、72名の作家による2,000点以上の作品を「憧れ」「異形」「描く」「家族」「楽園」「廃材」「エロス」「過剰装飾」「老人芸術」「フェイク」「ヘアサロン」という11のテーマによって構成している。この日は櫛野と博士が会場を回りながらギャラリートークも行われた。
会場風景
会場風景

会場を訪れてみてまず感じさせられるのは、膨大な作品数による数のインパクトだ。実際に「作品数」は櫛野の心を揺さぶる要素のひとつ。「とにかく物量の多い人やものすごい時間をかけてものづくりに取り組んでいる人。僕が関わる作家さんは高齢の方が特に多いのですが、一見無駄に見えることを人生の大半をかけて連綿とやっている方に惹かれますね」と櫛野は語る。
各作品にはこのような作家紹介が添えられている
各作品にはこのような作家紹介が添えられている

入り口すぐにある、けうけげんも“数がスゴい作家”のひとりだ。博士も注目作家に挙げた彼は、13歳の頃からチラシの裏に架空の芸人を描き続け、10年以上で1,000組を超えるコンビを作り出した異才。壁には無数の架空芸人のイラストが名前付きでずらりと並び、それぞれに持ちネタや人生ドラマがあるのだという。博士が「彼の書いたコントを実際の芸人がライブで演じているケースもあり、座付き作家としての能力も十分有している」と評し、「イベントで会った際、すぐにオフィス北野にスカウトした」というほどの逸材でもある。実在しない芸人を作り出すというのは、なかなか常人には理解できない世界だが、作品の横には作家本人による映像解説も用意されている。
けうけげん《チラシ裏に描いた架空芸人、ノート、解説映像》(部分)
けうけげん《チラシ裏に描いた架空芸人、ノート、解説映像》(部分)

続いて展示されている稲村米治の作品は、人によっては閲覧注意のアート。なぜなら、一見して普通の模型に見える武者はカブトムシやクワガタなど5,000匹の昆虫の死骸でできているからだ。甲虫から甲冑を作ってしまう発想がおそろしい。
稲村米治《5000匹の昆虫の死骸で製作した新田義貞像》(左は全体、右は部分拡大)
稲村米治《5000匹の昆虫の死骸で製作した新田義貞像》(左は全体、右は部分拡大)

謎の仮面アーティストの作品や、あのヤンチャな成人式の衣装も


櫛野が注目作家に推すストレンジナイトは、7年ほどの付き合いがある櫛野でさえその素性を見ることが叶わなかったという謎の仮面作家。惜しくも昨年逝去し、その後でプロフィールがまったくの嘘だったことがわかったという謎が謎を呼ぶ存在だ。西洋やエスニックなどの要素が入り混じった仮面の数々が、作家の出自や人物像を余計にミステリアスなものにしている。
ストレンジナイト《自作の仮面100点以上、絵画16点など》(部分)
ストレンジナイト《自作の仮面100点以上、絵画16点など》(部分)

「描く」のコーナーに作品が展示されている太久磨は元アレフ信者の画家。入信前から画家を目指していたが脱退後に植物の美しさに目覚め、《自画像としての植物》という連作を描き始めた。その背景には彼自身が持つアニミズムの思想や宗教感が反映されているという。
太久磨《Aleph脱退後から描き始めた植物画の自画像37点》
太久磨《Aleph脱退後から描き始めた植物画の自画像37点》

世界的に注目を集める小林一緒は、元調理師という異色のアーティスト。アルコール性神経炎の影響で46歳の時に歩行困難な状態になり、20代の頃から始めた食事メモをライフワークにしている。上から見た構図で描かれた食べ物のイラストは写真とは異なる味わいがあり、ほとんどに「旨い!」という感想が添えられている。普段の暮らしの記録がアートに昇華したという、いわば最強のプライベートの切り売りともいえる。
小林一緒《自ら食べた食事を記憶を頼りに描いた絵画26点》(部分)
小林一緒《自ら食べた食事を記憶を頼りに描いた絵画26点》(部分)

「過剰装飾」のコーナーでは、成人式の毎年ニュースでおなじみになっている北九州市の“ヤンチャな衣装”を展示。ゴールデン&レインボーな衣装は会場でも一際目を引く存在だ。出展者は「みやび小倉本店」とあるが、あのキラキラ衣装にメーカーがあるということすらひとつの発見といえる。
みやび小倉本店《成人式衣装と実物の衣装3点》(部分)
みやび小倉本店《成人式衣装と実物の衣装3点》(部分)

そのほか、自称宇宙人のテレパシースケッチ、18禁の「エロス」コーナー、デコトラならぬ「デコチャリ」など個性の強い作品が集められている。ひとつひとつを紹介していくとなるととても時間が足りないので、その全容はぜひ現地で鑑賞してほしい。

「暮らしに身近なところにもアートがあることを伝えていきたい」


「『人はなぜ表現をするのか』ということを追い求めたくて、僕はこの活動を続けています。そして今回紹介している作家さんの中には、戦争経験があったり、自然災害で被災したり、重い病気にかかったり、障害を負ったりと、逃れることのできない宿命的な出来事に遭遇されている方がたくさんいます。ただ、普通なら自暴自棄になってしまいそうな境遇を、彼らはエネルギーに変えて創作のきっかけにしていることが素晴らしい。さらに、そうした人々の中から明るくポップな作品が数多く生まれていることも本展を通じて知っていただきたいことのひとつです」
展示解説を行う櫛野
展示解説を行う櫛野

そのように本展への思いを述べた櫛野。一方で自らのキュレーターとしての役割については、「美術というと高尚で高価なものと思われがちですが、実はストリートのような身近な場所にもアートがあるということを伝えていきたい」と語っていた。
辻修平「会場内でライブペインティング」
辻修平「会場内でライブペインティング」

本展では、4月28日、29日、30日、5月1日に櫛野のギャラリートークが行われるほか、会期中毎日、辻修平によるライブペインティングを実施。茂木健一郎、杉作J太郎、美術史家の木下直之らを招いたイベントも予定されている。ゴールデンウィークは、未知なるアウトサイダー・アートとの出逢いを楽しみにでかけてみてはいかがだろう。

当記事はSPICEの提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

もっとよむ

注目ニュース

もっとよむ

あなたにおすすめ