『おぼっちゃまくん』『ゴーマニズム宣言』の小林よしのりが語る「平成の天皇論」完結編

しらべぇ

2019/4/11 09:00




漫画家の小林よしのり氏は、天皇・皇族を言論界で語るには欠かせない重要な人物だ。『天皇論』『昭和天皇論』『新・天皇論』を上梓し、どこかの学者よりも、専門的な知識に秀でていて、エンターテインメント性に優れている。

今は新しい『おぼっちゃまくん』(幻冬舎)、『ゴーマニズム宣言』(扶桑社)、『よしりん辻説法』(光文社)、『大東亜論』(小学館)に計4本を連載するほど、活躍中の大物。

還暦を過ぎたよしりん先生が天皇について、何を語るのか。1時間30分のロングインタビューとなったが、今上天皇についての論考はひとまず今回で完結する。

■日本人にとっての「神」とは


———昨年、自決した評論家の西部邁さんが天皇というのは半分人間だけれど、他方で半分は神だということを仰ってましたね。

小林:日本人にとっての神は「God」じゃないから。唯一神という絶対的な存在ではない。誰でも人間は神に近づけるという思想で日本人は成り立っている。神業と言われたり、いろんな人が神といわれたり、実際に神になってきたわけだ。

平将門のような朝廷に刃向かう人間ですら、神として祀り上げられている。菅原道真も学問の神として祀られている。神はGodではないけれど、神に近づいた人ということはいえますね。

■被災地ご訪問の意義


———平成は震災のときでした。天皇・皇后陛下が被災地を訪れ、被災者と同じ目線で語りかけるというスタイルが「平成流」と言われましたが、どのようにご覧になりましたか。

小林:あれは被害に実際に遭ってみないと気持ちってわからないでしょうね。被害に遭った神戸の震災の時もそうですし、東日本大震災のときもそうですけど、被害者は「国からも見捨てられるかもしれない」「風化していくかもしれない」と思うわけじゃないですか。

相当な不安がある。そのときに、天皇は「忘れていない」というように、被災地を慰問なさる。被災者にとって、かなりの感動があると思いますよ。接した人はみな、泣いて喜びますね。

あれは、それまで、特別に天皇の信者だったわけじゃないです。どん底に落とされているような境遇にいる人たちのところに、国民統合の象徴である天皇がいらしてくれることは、自分たちは見捨てられていないのだと感じられ、力強く励まされる。

故郷のすべてを失ってしまった人たちの絶望的な気持ちが一般大衆には分からない。毎日の生活の中ですぐ慣れて、被災地のことを往々にして忘れてしまいますから。けど、天皇は忘れないし、被災者の気持ちや境遇が分かる。

それを分かること自体が使命だと天皇陛下ご自身が思っていらっしゃる。被災地訪問というのは、すごく、意義のあることだと思います。

■死者の気持ちも汲み取る陛下


———今上陛下の「平和の旅」とも呼ばれる、たとえばサイパン訪問・ペリリュー島訪問などをどうご覧になりましたか。

小林:人々は死者のことをまた忘れる。死者の気持ちも忘れないという天皇が持つ感覚も、これも日本人には往々にしてない。死んだ人のことは全部忘れていいと思っている。

死者の気持ちを汲み取る……というところまで天皇がなさる。死者も参加する民主主義という本来の保守が持つ感覚です。わしも『戦争論』(1998年)を書く前までは、死者とりわけ戦死者のことは忘れていましたからね。

あれを書くときに死者の気持ちを一所懸命、くみ取って書いた。それは学術論文には至っていないけれど、死者が遺した言葉が遺書とかたくさんあるわけです。

それを全部読んで、死者がどのような気持ちだったのかを想像して、『戦争論』を書いた。過去は全部悪で嫌いだから思い出したくもないという人にとっては、衝撃の書だったでしょう。

国のために亡くなられた方々の上にいまの日本が成り立っているということぐらい、大人になったら知らなければならない。そのことをずっと考えていらっしゃるのが天皇で、慰霊の旅はたいへんに有り難いことです。

そういう天皇の振る舞いを見て、誰かが戦争中の兵隊がどのような気持ちだったのだろうかとか、そのときに犠牲になられた住民はどういう感覚だったのだろうかとか、思いが至るようになって、自分も勉強してみようという人が出てくるかもしれない。

■戦中派の思いを引き継ぎたい


———『戦争論』を描かれたときは、まだ、戦中派がご存命でしたね。

小林:時代はあっという間に過ぎてしまいますね。今年で『戦争論』を書いてから21年。20年経ったらそのとき、70代だった方はほとんどがお亡くなりになっていますね。戦争論を書いたときは、戦地に行った戦中派がたくさんいらっしゃった。

そして、わしはたくさんのことを戦中派から教わりました。戦争論を読んで、戦中派から励ましの手紙が来たり、『私の戦地での日記を送ります』と送ってきたりする人たちがいました。おそらくほとんど亡くなっているでしょうね。時が過ぎゆくのは早い早い。

これから20年経ったら、わしはもう80歳、超えているよ。さすがに漫画は描いていなくて、生きるか死ぬかの瀬戸際かもしれない(笑)。20年っていうのはそれくらいに早い。誰かが戦中派の人の思いを伝えていかなければならない。

『戦争論』を読んだ人は『戦中派』の魂が宿っているかもしれない。そういう人たちが自分の子どもたちに読ませてくれたら、戦中派の人たちとのつながりが脈々とつながっていくかもしれない。それに期待するしかない。

・合わせて読みたい→天皇陛下、85歳を祝う一般参賀に平成最多の8万人 全国の被災者を深く案じるお言葉も

(取材・文/しらべぇ編集部・及川健二

当記事はしらべぇの提供記事です。

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