「私が死んだら辞められますか?」と電話が…退職代行のリアルな現場

日刊SPA!

2019/4/6 15:54

 ブラック企業をやめたくても、やめられない――そんな人々に希望を照らす一筋の光に、退職代行という制度がある。聞き慣れない言葉かもしれないが、知見を備えた弁護士が勤務先と労働者の間に入り、電話1本でカタをつけてくれる頼もしい仕組みだ。

そんな退職代行の第一人者として活躍するのが、弁護士の嵩原(たけはら)安三郎さん。情報バラエティ番組「ミヤネ屋」にも出演する敏腕弁護士だ。労働問題の水際という“現代社会の歪み”に真っ向から挑む嵩原さんのもとには、月に数百件もの相談が来るという。

どんな人々が何に悩み、どうやって解決するのか――“退職代行請負人”による短期集中連載をお届けする。

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「相談の連絡がもっとも増えるのは、連休最終日の夕方。時間でいうと『ちびまるこちゃん』が終わったぐらいですね。翌日から始まる辛い日常を想像して『会社、行きたくないな……』と思うのでしょう。今年のゴールデンウィークは10連休ということもあり、新社会人を含め、相談件数も増えると思っています」

嵩原さんが退職代行を本格的に請け負うようになったのは2018年12月ごろ。始めたばかりのころは、これほどの反響は予想していなかったという。

「依頼者は中小企業のサラリーマンから、中間管理職、取締役、風俗嬢までさまざまです。年齢も20代の新卒から60代の嘱託社員まで幅広い。勤務期間も最短は3日、長い人は20年以上と、あらゆる人から退職代行についての相談を受けています」

嵩原さんが属するフォーゲル綜合法律事務所では、LINEや電話で相談内容をヒアリングし、情報を整理した上で依頼者に代わり、企業に退職の意図を伝えてくれる。勤務先との交渉は、任せっきりでいい。そもそも弁護士に相談するまで悩み抜いてきた人に、タフな交渉ができるはずもない。法律のプロが間に入ってくれること。これこそ退職代行を依頼する最大のメリットだろう。

「電話を受けた会社側も、最初は感情的になることが多い。喧嘩腰に怒鳴ってくる人もいます。また、パワハラや労災の訴訟を起こされるのではないか? 警戒する経営者も多いですね。でも、僕たちが目指すのは、円満退職。訴訟を起こすことが目的ではありません。

そもそも、依頼者は退職について自分から言い出せないほど追い詰められている。中には『私が死んだら会社を辞められますか』とまで言ってくる人もいます。もしこれが後手後手になると、彼らが心を病んでしまい、企業にとっては労災になってしまう。その場合、労働者はもちろん、雇用側にも大きな痛手となる。それを未然に防ぐために、弁護士が代理人となっているのです。それをきちんと説明するのが僕の役割なんです」

◆「会社からの電話に出る必要はない」

依頼者たちは「辞めること」そのものよりも、「辞めた後」についての不安も抱えている。

「もっとも多いのは、『自分が辞めたら、会社が自分や親に直接連絡が来るのでは』というお悩みですね。もちろん、そうはさせません。会社には『一切の連絡は弁護士を通じて行うように』と伝えます。それでも連絡が来た場合には、電話にでる必要もない。間違ってでてしまっても、依頼者には『弁護士に任せていますので、連絡はそちらにしてください』と言ってもらえるようお伝えします」

また「自分が辞めたら、会社に訴えられるのでは」と悩む相談者も多いという。この点について、崇原さんは次のように明言する。

「会社側が『損害賠償請求するぞ!』と言ってきた場合も弁護士なら適切に反論することができます。そもそも従業員は、最大2週間の期間をあければ、法律上いつでも退職することが認められています。ですから、会社が『急に辞めるなんて言われても困る!』と言っても、『対策を立てていない会社が悪い』ということになります。

ただ、業務の引き継ぎは必要です。これをせずに放置していると損害賠償責任が追及されることになりかねません。そのために私たちが依頼者に代理して会社とやりとりをする。その場合も『依頼者が会社から損害賠償請求を受けないためには、どの程度まで会社の希望に応じる必要があるか』というぎりぎりのラインを考えながら対応しています」

◆横行する非弁業者のトラブル

世の中に労働問題で心をすり減らす人はよほど多いのだろう。現在、退職代行サービスは注目されており、扱う業者も急増している。ところが、そのなかで見逃せない問題も起きている。

実は、弁護士以外が報酬を目的に会社と条件面などの交渉をすることは弁護士法72条違反の「非弁行為」に当たり、禁止されている。にも関わらず、退職代行を請け負う業者が多いのだ。

「弁護士以外の代行業者ができることは、『辞めたい』という意思を代わりに伝言するだけ。退職届けを代理で提出することはできません。また退職後のトラブルや訴訟、有給、未払いの残業代について交渉ができるのも弁護士資格がないといけない。

非弁の業者に依頼した結果、トラブルに発展する事例も後を立ちません。法律に詳しくないのだから、そもそも相手側に弁護士がでてきたらこてんぱんにやられるでしょうね。退職代行を依頼するときにここを間違えると、エライ目に遭います。

たとえば、先日、ある退職代行業者に依頼した方から相談がありました。依頼して手続きを任せていたら、会社から『損害賠償請求する!』と言われたというんです。驚いた依頼者が頼んでいた退職代行業者に相談したら、あっけらかんと『顧問弁護士に聞いてみたら、このケースでは損害賠償請求受けても仕方がないとのことでした』と回答があった。事前にきちんと対策していれば、避けられる事態なのに……法律の表面的な規定は知っていても、法律トラブルの実態を知らないから、こんなことになる。辞める意思を依頼者に代わって伝えるだけでなく、辞めたあとまで依頼者を守る、これが退職代行の役割なんです」

熱弁する嵩原さんが、最後にこう結ぶ。

「世の中には理不尽な職場やブラックな企業もたくさんある。もし今、あなたが限界を感じたなら、適切な場所に助けを求めていい。心をすり減らし、命を捧げてまで会社に勤める必要はありませんから」

立つ鳥跡を濁さず。万一に備えて、円満退職をサポートしてくれる弁護士による退職代行を心に留めておいて損はないだろう。次回からは、個別具体的なケーススタディをもとに、今この国で起きている労働環境の闇を照らしていきたい。

【フォーゲル綜合法律事務所】

嵩原安三郎氏

’70年沖縄県生まれ。京都大学卒業後、’99年に弁護士登録。情報商材や副業詐欺など悪徳商法案件を数多く手がけるスペシャリスト

取材・文/アケミン 構成/浜田盛太郎

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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