万物に神宿る日本神道とハリウッド文化の融合!? ぼっち少女が中古車に恋をした『バンブルビー』

日刊サイゾー


 廃車置き場で眠っていた年代物のビートル(フォルクスワーゲン・タイプ1)に、18歳の少女がひと目惚れ。実はそのボロボロのビートルは、遠い星からやってきたロボット生命体が擬態した姿だった。やがてその秘密を知った少女は、心優しいロボット生命体と掛け替えのない友情を育んでいく。ハリウッドのブロックバスター映画『バンブルビー』は、期待以上に日本人好みのハートウォーミングな青春ドラマに仕上がっている。

マイケル・ベイ監督の大ヒット作『トランスフォーマー』(07)を皮切りに、「トランスフォーマー」シリーズはこれまで全5作がハリウッドで実写映画化されてきた。そのスピンオフ作となる『バンブルビー』は、ロボット生命体のバンブルビーが地球を訪れた1980年代が舞台。つまり、エピソード0という位置づけ。過去の「トランスフォーマー」シリーズを観ていない人でも、問題なく楽しめるようになっている。

同シリーズはもともと日本生まれの変形ロボット玩具がベースになっていたわけだが、それに加えて日本人が『バンブルビー』に好感を覚える要素に、トラヴィス・ナイト監督の実写デビュー作だということも挙げられる。トラヴィス監督の前作『KUBO二本の弦の秘密』(16)は、日本昔話と時代劇をリミックスさせた異色の和風ストップアニメーションとして話題を集めた。

トラヴィス監督は父親に連れられて8歳のときに初来日し、すっかり日本文化の虜になり、その後もたびたび来日している大の日本通。『KUBO』では少年の演奏する三味線に合わせ、折り紙たちが舞い踊るシーンが斬新だった。そんなトラヴィス監督が手掛けたことで、実写映画『バンブルビー』にも全編にわたって“Kawaii”テイストが溢れている。

米国の西海岸で暮らす少女チャーリー(ヘイリー・スタインフェルド)は18歳の誕生日を迎えるが、「おめでとう」と声を掛けてくれる友達はひとりもいなかった。家庭内にすら居場所のないチャーリーは、廃車置き場で見つけた年代物の黄色いビートルに夢中になる。ちんまりとかわいいいのに世間から忘れ去られたような寂れた雰囲気が、そのときのチャーリーの心情とマッチしていた。

チャーリーが懸命に修理し、ビートルは目を覚ますことに。ビートルの正体は、自在に変形してみせるロボット生命体だった。体は大きいくせに臆病でドジなロボット生命体に、チャーリーは「バンブルビー」と名付ける。ぼっち少女チャーリーの暗く閉ざされていた青春は、バンブルビーという仲間ができたことで明るく開放的なものへと変わっていく。バンブルビーに乗って海岸線をぶっ飛ばせば、気分はサイコーだった。だが、バンブルビーを狙う怪しい影がすぐ近くにまで迫っていた―。

異星からやってきたバンブルビーとロック音楽を愛する少女チャーリーとのコミュニケーション方法が楽しい。カセットやラジオから流れるザ・スミス、a-ha、ティアーズ・フォー・フィアーズといった80年代のヒット曲から、バンブルビーは地球人のナイーブな感情を学んでいく。また、バンブルビーは言葉の代わりにそのときの気持ちを表した曲をカーラジオから選曲し、チャーリーと心を通わせ合う。80年代の洋楽好きには、たまらないシーンとなっている。

他の人たちにはオンボロのビートルにしか映らないバンブルビーだが、チャーリーにとっては孤独さを癒してくれる大切な存在だった。中古車にありったけの愛情を注ぐチャーリーの姿は、万物には八百万の神が宿ると信じる日本神道をどこか思わせるものがある。トラヴィス監督がアニメーター出身ということも大きいだろう。アニメーターの語源であるanimateには「命を吹き込む」という意味がある。つまり、無生物に生命を与え、動かすことがアニメーターの仕事だ。“わびさび”をはじめとする日本的美意識を愛するトラヴィス監督が命を吹き込むことで、中古のビートルは八百万の神が宿ったかのように変幻自在に活躍してみせる。

ジェームズ・キャメロン製作総指揮の『アリータ:バトル・エンジェル』(公開中)は木城ゆきとのSFコミック『銃夢』を原作にしたハリウッド大作で、これもまた日本人的価値観が大きく取り入れられている。アクションシーン満載の『アリータ:バトル・エンジェル』だが、ひときわ印象に残るシーンがある。サイボーグであるアリータ(ローサ・サラザール)は異様に瞳が大きく、多くの観客は違和感を覚えたはずだ。

だが物語の後半、アリータは第一形態である少女の体から、第二形態である大人の女性の体へとトランスフォームする。このとき、アリータの面倒をみる医師のダイソン(クリストフ・ヴァルツ)だけでなく、我々観客もアリータの成長、成熟ぶりに目が釘づけとなる。違和感だらけだったはずの女性サイボーグに、いつしか心が揺さぶられていることに気づく。未完成のものに感情移入して応援したくなるのも、日本人的な感性ではないだろうか。

一神教であるキリスト教が信じられている米国では、万物にさまざまな神が宿るという日本神道、東洋的アニミズムは相容れないものだと思っていたが、アニメ・漫画・ゲーム・フィギュアなどを介して日本的な宗教観や嗜好性が、少しずつだが米国映画の中に溶け込みつつあるようだ。

ちなみにジェームズ・キャメロンに木城ゆうとの『銃夢』を勧めたのは、日本のアニメや特撮ドラマが大好きなギレルモ・デル・トロ監督。『バンブルビー』や『アリータ:バトル・エンジェル』、そしてデル・トロ監督が日本の怪獣映画へのオマージュを捧げた『パシフィック・リム』(13)といった映画が、民俗学者たちの研究対象になる可能性は充分あるように思う。

(文=長野辰次)

『バンブルビー』
監督/トラヴィス・ナイト 脚本/クリスティーナ・ホドソン、ケリー・フレモン・クレイグ
出演/ヘイリー・スタインフェルド、ジョン・シナ、ジョージ・レンデボーグ・Jr.、ジョン・オーティス、ジェイソン・ドラッカー、パメラ・アドロン、ステファン・シュナイダー
配給/東和ピクチャーズ 3月22日(金)より全国公開
(c)2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
HASBRO, TRANSFORMERS, and all related characters are trademarks of Hasbro. (c)2018 Hasbro. All Rights Reserved.
https://bumblebeemovie.jp

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