「カメラが売れない!」ニコン、経営への懸念広まる…主力のデジカメ市場“蒸発”の衝撃


 今年に入ってわが国の株価の上値が重い。その背景には、企業業績の下方修正が相次いでいることがある。10~12月期の企業業績が比較的堅調な米国の株式市場とは対照的だ。

2月8日、デジタルカメラの世界大手である、ニコンの株価が前日比11%超下落した。下落の最大の原因は、同社の経営戦略に対する懸念の高まりだろう。近年、同社にとって収益の柱であるデジタルカメラをはじめとする映像事業や、フラットパネルディスプレイ(FPD)を製造するFPD露光装置や、半導体の製造に用いられる装置などを手掛ける精機事業の収益力が低下している。

これは、同社の事業環境の変化に対する対応が十分ではなく、今後の経営戦略の道筋が見えないことを反映していると見られる。これからの展開を考えたとき、やや気がかりなのは、ニコンが新しい製品の創造や事業体制の整備に手こずっていることだ。同社が売上高を増加させ、配当の引き上げなどを実現できるか慎重に考える市場参加者は増えている。4月1日から、ニコンの社長には常務執行役員を務めてきた馬立氏が昇格する。同氏がどのようにして収益基盤を強化し、ステイクホルダーからの期待に応えるか注目したい。

●最近のニコンの収益状況分析

ニコンの収益は、海外市場におけるデジタルカメラとFPDや半導体の製造に用いられる装置の販売動向に左右される。それは、同社の事業・収益構造を見るとよくわかる。

ニコンの事業セグメントは4つに分類される(映像事業、精機事業、ヘルスケア事業、産業機器・その他)。売上に占める各事業の割合は、デジタルカメラなどを扱う映像事業が50%程度、半導体装置などを扱う精機事業が30%前後、ヘルスケア事業と産業機器等の事業が10%ずつだ。地域別にみると、売上高の90%近くが海外から得られている。

近年、ニコンはデジタルカメラと半導体装置事業で苦戦を強いられてきた。まず、デジタルカメラ市場の縮小は、かなり深刻だ。その理由は、多くの人々が、スマートフォンで写真(静止画)や動画を撮るようになったからだ。

カメラ映像機器工業会が公表する「デジタルスチルカメラ生産出荷実績」によると、2008年、わが国のデジタルカメラ総出荷台数は1.1億台だった。2018年の出荷台数は1900万台と、10年間で市場規模は激減した。プロ仕様のカメラなどハイエンド機種への需要はあるものの、出荷台数が激減し市場全体の縮小がすさまじいマグニチュードで進むなか、ニコンがデジタルカメラ関連の収益を増やすことは困難だ。

加えて、市場参加者はニコンの半導体製造装置事業への不安も募らせてきた。ニコンは1台50億円程度する半導体装置(ArF液浸)の販売台数を増やし、収益を拡大しようとしてきた。

しかし、過去5年間のArF液浸の販売は、思うようには伸びなかった。これは、ニコンの営業戦略とその戦術が、市場動向を的確に反映せずに進められたことによるといっても過言ではない。ArF液浸の売上台数が1台違うだけで、同社の売上高や営業利益は大きく違う。それだけに、ニコンの経営に懸念を抱く市場参加者が増えたことは無理もない。

●明確な筋道が見えにくいニコンの経営戦略

デジタルカメラ市場の急速かつ大規模な縮小や、半導体装置の販売が芳しくない状況を受けて、ニコンの経営戦略は迷走してきたように見える。それは、同社が環境の変化に適応できてこなかったと言い換えられる。同社の中期経営計画が短期間で修正されたことは、戦略の迷走と呼ぶべきだろう。

2015年5月、同社は映像、半導体装置、FPD装置に、メディカル、マイクロスコープ(生物顕微鏡などを扱う事業)、産業機器の3つの戦略分野を加えた6つの事業ポートフォリオによる成長を目指す中期経営計画を発表した。この計画は3年間固定された。ニコンは新事業の育成を通した“攻め”の経営にコミットしたといえる。

この中期経営計画が公表された時点で、ニコンはデジタルカメラ市場の縮小により映像事業の収益下方リスクが高まっていることを認識していた。加えてニコンは、ArF液浸露光装置のシェア拡⼤に時間がかかることも認識していた。

本来、新事業の育成を進めるためには、既存事業から安定して収益が獲得されていなければならない。それが、経営資源の再配分を通した成長基盤の強化を支える。しかし、ニコンの場合、既存事業の収益下振れの懸念を抑えないままに、新しい事業に手を付けてしまった。

こうしたケースでは中期経営計画が行き詰まることが多い。実際、ニコンの半導体装置事業では黒字化が達成できず、デジタルカメラ市場は同社の想定を上回るマグニチュードで縮小し続けた。

2016年11月、ニコンは構造改革の実施を発表し、従来の中期経営計画を取り下げた。2017年3月期から2019年3月期を同社は「構造改革期間」と定めた。そのなかで同社は、ArF液浸露光装置の開発を縮小し、高付加価値の映像製品の強化に経営資源を再配分する方針を掲げた。

2019年3月期の第3四半期、ニコンは増益を確保した。これは独蘭企業からの和解金支払いに支えられた。本業の収益は減少傾向をたどっている。

●ニコンに必要な新しい収益源

現在、多くの市場参加者にとって、ニコンの収益力が高まる展開は想定しづらくなっている。どちらかというと、先行きの収益下振れを警戒する投資家は多いようだ。なぜなら、デジタルカメラに代わる“稼ぎ頭”が見当たらないからだ。

見方を変えれば、市場参加者は、ニコンが現在の事業構造に変革を起こすことができるか否かに注目している。足許、米国を中心にIT先端企業の成長期待は低下している。世界の半導体市況がピークを越えたとの見方も増えている。2018年10~12月期、半導体大手の韓国サムスン電子の営業利益は前年同期比で29%減少した。液晶パネルや半導体関連の装置需要が低下するとの懸念は高まっている。また、デジタルカメラ市場では、価格競争が一段と熾烈化する恐れがある。

現在の事業セグメントを前提に考えると、ニコンはヘルスケア事業の収益力増強に取り組まなければならない。特に、顕微鏡技術などを活かした再生医療分野への取り組みが重要になるだろう。

問題は、ニコンのヘルスケア事業が営業赤字に陥っていることだ。比較的短い期間でヘルスケア事業の黒字化を実現するためには、同社が強みを持つ分野に集中して取り組むことが必要となるだろう。その意味で、ニコンにとって選択と集中の重要性は、従来に増して高まると考えられる。状況によっては、重要性が高まる分野に重点的に経営資源を再配分するために、ニコンがさらなる変革に取り組む展開もあるだろう。

2020年3月期以降、ニコンは年間60円以上の配当を支払う方針を示している。現状の収益環境を基に考えると、それが実現できるか否かは不確かだ。同時に、2016年11月以降の取り組みによってニコンの収益性が改善したことは事実だ。今後、同社の経営陣が自社を取り巻く環境を、客観的かつ的確に把握し、デジタルカメラに代わる製品の創造や、再生医療分野での収益獲得にさらにコミットしていくことが同社の成長に欠かせない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

当記事はビジネスジャーナルの提供記事です。

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