LINEショッピング、日本人の買い物&金融の“入口”化…アマゾンすら“出店”する理由


 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)大手のLINE(ライン)のアプリを見ていて、驚いたことがある。同社のアプリに実装されたショッピングの機能をタップすると、楽天などのネット通販大手企業に加え、さまざまな企業のネットショッピングにアクセス可能だ。音楽のオンライン配信、漫画の購読に加え、ホテル検索などの旅行関連サービス、保険などの金融サービスなど、多種多様なサービスが利用できる。

もはやLINEをSNS大手ととらえることは適切ではない。同社は、さまざまなサービスや商品購入の“ゲートウェイ(入口)”プロバイダーとしての役割を強めている。背景には、SNSの影響力の大きさがある。LINEは自社の基盤であるSNSのテクノロジーをさらに強化しようとしている。興味深いのは、同社が自前の取り組みに加え、社外(個人や企業)などとの連携を重視していることだ。

そうした企業の存在は、他の企業や産業におけるイノベーションの発揮につながる可能性がある。新しい取り組みを重視する企業が増えれば、わが国の経済にもポジティブな影響があるだろう。国際的にITプラットフォーマーによる個人情報の不正使用などへの懸念が高まるなか、LINEがデータの保護と活用を両立し、新しいテクノロジーの開発と実用化に取り組むことを期待したい。

●リアル世界とネット・ワールドの融合

LINEの経営を見ていると、SNSの本質がわかるような気がする。従来、LINEとはメッセージ送信のためのSNSアプリを手掛ける企業である、との印象が強かったように思う。重要なことは、同社が実社会=リアル、とインターネット空間の融合を目指していることだ。

同社は、SNSのヒットによって獲得したユーザーベースを出発点にして、実際の社会(リアル、オフライン)とネットワーク空間(オンライン)をつなぐこと(ネットワーキング)を目指そうとしている。この考えは、“O2O(Online to Offline)”とも呼ばれる。それは、ネットワーク空間であれ実店舗であれ、消費などの経済活動をデータとして捕捉できるようになることといってもよい。

LINEのショッピングアプリは、リアルとネットの融合がどのようなものかを理解するための良い材料だ。LINEのショッピング機能には、楽天やアマゾン、ヤフーショッピングなど、多くのオンラインショッピングのプラットフォーマーが加盟している。それに加え、家電小売りやアパレル関連企業も、商品を掲載している。さながら、SNSのアプリケーション上に、さまざまなネット企業や小売り企業が出店し、市場(イチバ)がひらかれているような印象を持つ。

さらに、LINEショッピングは実店舗での買い物にも対応している。具体的には、 “SHOPPING GO”の機能を使い、ポイントを獲得することができる。これは、消費者の行動をデータとして捕捉し、これまでには知られていなかった私たちの消費行動の発見につながる可能性がある。

その背景には、社会におけるSNSの存在感が無視できなくなってきたことがある。特に、10代から30代の人々にとって、スマートフォンを使うこと、イコール、SNSを使うことと事実上同義だ。多くの若者にとって、SNS抜きの生活は考えられないだろう。それほどまでに、スマートフォン上でメッセージをやり取りするテクノロジーが社会に浸透している。

●ネットビジネスの拡大と変革

SNSの登場は、ネットビジネスを変化させている。従来、EC(電子商取引)企業や小売り企業は、消費者の好みや使いやすさに合ったネットショッピングサイトの開発に注力してきた。それは、より多くの消費者の支持を獲得し、収益を増やすために必要なことと考えられてきた。今なお、その考え方を持つ企業は多いだろう。

ただ、米玩具大手トイザらス(Toys“R”Us)がネットへの対応に失敗したように、ネットショッピング事業の強化のためにIT関連の投資を増やしたからといって、売り上げが増える保証はない。今日のネットショッピングの成否を分けた一つの要因は、どれだけ早く経営者がネットワークテクノロジーの革新性に気づくことができたか否かではないか。アマゾンの成長はそのよい例だ。

強いてアマゾンの課題を挙げるとすれば、人々の行動に影響を与えるようなメッセージサービスがないことだろう。この部分を補うために、アマゾンはLINEショッピングに加盟し、ネット空間における“動線(人々の動く経路)”の確保を重視している。ネット空間における動線の確保とは、より多くの人に選ばれるようにする仕組みと考えればよい。

SNSの威力は非常に大きい。なぜなら、SNSは多くの人の行動に影響を与えるからだ。わたしたちの心理には、一人で行動するよりも、大勢で行動することを優先する傾向がある。そのため、SNSを活用してマーケティングの効果を発揮しようとする企業が増えてきた。

LINEはSNSに自社のポイント制度を付加し、消費者が複数のサイトやアプリから自分に適したものを選ぶ仕組みを整備した。その上、わが国のSNS市場において、LINEのシェアは突出している。各企業にとって、LINEとの関係強化は、若年層を中心に多くの消費者に効果的にマーケティングを行うことを可能にするだろう。その需要をLINEは取り込んで、ショッピングへの“入口”としての機能を提供し、自社のエコシステムを拡大させている。

●圧倒的なイノベーションへの期待

LINEはSNSのテクノロジーを生かして、金融、ショッピング、旅行などのプラットフォーマーへのゲートウェイとしての機能を強化し、さまざまな発想やモノ、資金がより快適に、より高い満足度を伴って取引されるネットワーク空間・環境の整備を目指している。この取り組みは、LINEだけでなく、他の企業や業界を巻き込んだイノベーションに発展する可能性がある。将来的には、LINE自らがゲートウェイとしての機能だけでなく、さまざまなサービスを提供するプラットフォーマーとしての機能を強化する展開もあるだろう。

同社の金融ビジネスへの取り組みはそのよい例だ。銀行や保険会社には、資金決済や保険の設計などに関するノウハウ、専門性がある。現在、わが国では少子化と高齢化、人口減少が同時に進んでいる。金融機関は経営の持続性確保に危機感を強めている。サービス向上や経営内容の安定のためにネットワークテクノロジーを活用することは重要だが、ゼロから自前で取り組むことは難しい。

一方、LINEはSNSおよびネットワーク上での人々の行動様式に関する知識を持っている。若者からの支持も高い。金融機関にとって、実績あるテックカンパニーと連携することは、資本支出を抑えつつ新しい取り組みを進めるために重要なことといえる。

LINEはSNSのテクノロジーをベースに、人工知能を用いたIoT(モノのインターネット)などへのビジネスを強化し、新しいサービス提供を目指している。その上で、協業を求める企業が増えれば、LINEは手数料収入を増やし、業績を拡大できるだろう。

LINEは、他の企業などと連携して新しいテクノロジーの開発と実用化に取り組むことに前向きだ。その姿勢は、他のIT企業などに刺激を与えるだろう。その結果として、新しい発想、従来にはない取り組みを進める企業が増えれば、わが国経済のダイナミズムは高まる可能性がある。LINEがどのように戦略を立案・執行し成長につなげるか、実に興味深い。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

当記事はビジネスジャーナルの提供記事です。

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