「ゆるふわ」とかもうやめようよ。かわいい女って本当に正義なの?

森本梢子(著)『アシガール』8巻129ページより

 

少女マンガ研究家の和久井香菜子さんが、マンガの登場人物にフォーカスし、恋愛を読み解いていくこの連載。
イケメンキャラや恋愛模様に萌えつつ、ちょっぴり自分の人生を一緒に見つめていきましょう。

第13回目のテーマは『アシガール』の速川 唯(はやかわ ゆい)と若君・羽木九八郎 忠清(はぎ くはちろう ただきよ)です。

 

「かわいい女」って本当に正義なの?

 

女性向けの雑誌やメディアには「愛されコーデ」とか「モテメイク」みたいな情報がてんこ盛りですね。
まるで「女はかわいくなければ価値がない」とでも言われているかのよう。

だけど本当に男性たちは、ゆるふわ女子が好きなのでしょうか?本当に?全員が?

 

古くから人気の「タイムスリップもの」だけど新しい!

 

タイムスリップものって少女マンガでは定番と言ってもいい。少女マンガ界最長連載のひとつ『王家の紋章』は、アメリカ人女子高生が古代エジプトにタイムスリップし、ファラオに熱愛される物語。『天は赤い河のほとり』は、女子中学生が古代トルコにタイムスリップし、ヒッタイト王国の王子と大恋愛する話。どちらも絶大な人気を誇る作品です。

そんな「少女マンガ界人気必至」なタイムスリップものですが、『アシガール』はその人気テーマに、作者ならではのスパイスを利かせた作品です。

 

あらすじ

 

森本梢子(著)『アシガール』8巻91ページより

主人公・速川唯は弟が作ったタイムマシンをうっかり作動させてしまい、戦国時代にひとり飛ばされてしまいます。そこで出会ったのが、羽木家の若君・羽木九八郎 忠清。

唯は色気もかわいらしさもゼロ。空気を読むタイプでもなくちょっと変わっていて、恐ろしく足が速い。これが幸いして、彼女は戦国時代で名をあげ、生き延びていきます。そして、若様は唯の滑稽な仕草が珍しくて、どん引き……ではなく、どんどん惹かれていきます。

少女マンガの主人公は、こうした家事力なしのお色気ゼロ女子であることが少なくありません。

特に昔のマンガにその傾向が強いんです。『はいからさんが通る』『キャンディ・キャンディ』などは、木登り上等なお転婆が主人公。『ベルサイユのばら』のオスカルに至っては女性の格好すらしていません。

こうした世間一般的に「女子力低め」といわれるタイプの主人公が少女マンガに多いのには、理由があります。

 

 

女性を苦しめる「かわいらしさ」の強制

 

少しフェミニズムの話になりますが、女性と男性が平等になることには、男性にもメリットがあるそうです。

例えば女性が結婚して専業主婦になるには、男性に家族を養うだけの収入がなければ成り立ちません。
そうなると、男性側には「大手企業に就職しなければならない」「収入を落とすわけにはいかないので仕事を辞められない」などのプレッシャーがかかってきます。

それと同じように、女性に「お料理上手にならなければいけない」「自分の意見を持たずに三歩下がっていなければいけない」と、古式ゆかしい女性像を押しつけられると、息苦しい人もいます。

「男らしさ」「女らしさ」という性のイメージを押しつけられると、どうしてもそこからはみ出てしまう人がいるんです。もしかしたら、自分が本当にやりたいことは、「愛されコーデ」でも「モテメイク」でもないかもしれないし、もしかしたら自分にはもっと似合うものが他にあるかもしれません。

社会が押しつける性別のイメージが、大きなプレッシャーになったり、生きづらさを感じる理由になったりするんです。そうした問題を解決しようとしてくれるのが、少女マンガに描かれる、いわゆる「女子力低め」主人公たちです。そう、それが唯のような、自分らしさを失わない女子です。

 

森本梢子(著)『アシガール』8巻92ページより

 

イケメンが実は弱い女子像って……?

 

唯は何かというと奇声上げたり、変顔したり、サービス精神旺盛というか、ひょうきんです。世間一般的に考えたら、唯のような奇行に走る女子はモテなさそうです。大人しく、ゆるふわ女子がモテそうな感じがします。だけどこの作品では違うんです。

普通に考えたら、唯みたいな女性を好きな若君は「変わり者なんだな」と思われちゃいますが、若君さまにとって唯はちゃんと魅力があるんですよね。

それは、彼女の「若君さまを思いやる気持ち」。若君さまは、生まれながらにして人々のトップになるべく教育を受けています。そうした一家を背負う責任の重さや、苦しみがあるんですね。それを唯はちゃんと分かってるんです。唯のライバルである姫たちは、若君の容姿に惚れ惚れはしても、彼のバックグラウンドを理解しようとはしていません。

 

森本梢子(著)『アシガール』8巻117ページより
森本梢子(著)『アシガール』8巻118ページより
森本梢子(著)『アシガール』8巻118ページより

 

そして、先に述べましたが、フェミニズムという男女平等思想。唯は「女らしくすべき」といった女性像から解放されています。そして一方で、「男子はこうあるべき」「家督を継ぐのは息子」という家制度は、男性に大きなプレッシャーを与えもします。これは若君さまです。フェミニズムは、こうした男性のプレッシャーも取り除いてくれるんです。つまり、男女の役割から解放された唯と、とらわれていることで苦しんでいる若君さまが、唯によって救われる物語なんです。

 

森本梢子(著)『アシガール』8巻136ページより

 

自分を理解して、助けようとしてくれる人がいたら、好きになっちゃいますよ。しかも唯は、大けがをした若君を助けようとして、自分はひとり戦国時代に残って彼を現代に送ります。若君が突然姿を消したら、唯を守ってくれる人は誰もいません。そんな危険を冒してまで、彼女は若君のために尽くしたんです。

若君が恩を仇で返すようないい加減な人じゃなくて本当によかった!

自分の損得抜きで、人に尽くすってなかなか難しいですけど、そんなことができたら幸せですよね。

 

 

WRITER

  • 和久井香菜子
  •        

  • 大学の社会学系卒論で「少女漫画の女性像」を執筆、以来少女マンガ解説を生業にする。少女マンガの萌えを解説した『少女マンガで読み解く乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。視覚障害者によるテープ起こし事業「ブラインドライターズ」運営。

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