先端テクノロジーを享受して、何を生み出せる?/谷川じゅんじさん[中編]

カフェグローブ

2019/3/15 08:30

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2045年、人工知能(AI)と人間の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えたら、私たちの仕事や暮らしはどう変わる?

スペースコンポーザーの谷川じゅんじさんを迎え、今回は「物質から心へ」「都市から地方へ」といった、昨今のカウンター的なムーブメントの背景に迫ります。

——前編では、「未来に対する不安」を払拭するには、探究心がひとつの突破口になる、というお話を伺いました。

谷川じゅんじ(以下、谷川):『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社、2016年)を執筆したリンダ・グラットンさんの「人生100年時代が到来した」というテーゼも、とてもキャッチーで話題にのぼりましたが、一方で「そんなに長生きしてどうするの?」みたいな心配もあります。

たしかに医療技術の急速な進化によって、「不治の病」が減ってゆくことは事実でしょう。仮に「人生100年」だとすると、たとえば私は残りがまだ50年近くあるので、これまで生きてきた時間と同じ時間がこの先に残されている。相当いろんなことができますよね。

でもそのためには、心も身体もメンテナンスしておかないといけない。健康でなければ仕事もできないし、仕事以外にも生きがいを見つけないと寂しくなるだろうし……などと考え出すと、「心」の方向にどんどん向かってゆきます

——「心」とは、スピリチュアルな意識のことですか?

谷川:それもありますが、ひたすらクライアントワークをこなしてゆく人生とはまた別に、他人に対して自分が(自分の職能を活かして)できることは何なのかを考えざるを得ない、ということです。
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その結果、ぼくらは「Media Ambition Tokyo [MAT] 」(※)みたいな、営利だけでは到底実現しえない取り組みも積極的にやっていこうと思ったわけです。

——今年で7回目を迎えた、東京各所を舞台にした「テクノロジーアートの祭典」ですよね。

※ Media Ambition Tokyo [MAT] :「技術と芸術の都」東京を舞台に、最先端のアート、映像、音楽、パフォーマンスを集結させ、世界へと発信するテクノロジーアートのショーケース。谷川じゅんじ氏が主宰する「JTQ Inc.」と「六本木ヒルズ」、「CG-ARTS」、「Rhizomatiks」の全4社によって実行委員会が運営されている。公式サイト

「モノ」や「お金」に頼らない社会を構想するには?

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谷川:たしかに(シンギュラリティという思想のベースにある) コンピュータの世界は、たとえばメモリ容量が倍々で増えてゆく。その結果、いまだ「想像し得ないもの」まで生み出せる可能性が見えてきたわけでしょうが、そのときに“使えるもの”はどんどん活用すればいいし、“使えないもの”は無理に使わなくてもいい

食べ物も、食べて有益なものや美味しいものと、そうでない危険なものを、人類の長い経験の集積のなかで峻別してきました。技術や科学の進化で変容する未来についても、“コミットすべきもの”と“しなくてもいいもの”があったとしたら、それらは賢く取捨選択してゆくべきでしょう。

コミットすべきもの/しなくてもいいものを、選り分けていこう

そういう意味では、「現時点ではないもの」を考えてゆくイマジネーションやクリエーション……それは形になるものから、形にならない「心の世界」まで、どちらの世界に感性を活かしてゆくかを、各自が取捨選択してゆく時期にさしかかっているんだと思います。

——もう少し具体例を挙げていただけますか?

谷川:今大きな権力を備えている「お金」というモノも、人類史を少し遡ってみれば、そこまで力を持っていなかった時期もありました。たとえば江戸時代後期だと、年貢はコメだったし、今でも地方に行けば「物々交換」である程度の生活を送れる人もいます。

たまたま私の母親が、群馬の限界集落の中に望んで移住したのですが、本当にお金を使わないらしい。なぜかと言うと、村の人はみんな人手が足りないから、互いに手伝います。そうやって手伝って作物ができあがると(自分ひとりでは食べきれないので)シェアするわけです。

つまり「労働を提供する」ことによって「モノを享受する」システムが、ある種の相互扶助として成立していて、家には鍵もかけない暮らしをしているそうです、「その方が安全だ」と言って。

ところが東京だと、隣に誰が住んでいるかすら分からないケースが多々あります。そんな人たちが首都圏に約3000万人も暮らしているのですから、限界集落みたいなことがここでは通用しないことも、私にはわかります。

——しかし、今から数十年後のスパンでいうと、日本の人口は(都市部も含めて)どんどん減少しますよね。“相互扶養なき限界集落”みたいな状況が、首都圏のあちこちに発生しないとも限りません。
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谷川:おっしゃる通り、大都市の中にもゴーストタウンができるだろうし、スラム化した地域も珍しくなくなるかもしれない。そういう意味でも、ライフプランやライフバランスをみんなで再考する時期なのでしょうね。

「地方創生」という掛け声に乗るというよりも、もっとリアルに“都市部に住む”という選択肢以外を模索する動きは、私の周囲でも見受けられます。友人のクリエイターたちも、自分の感性の錆つき具合を真摯に受け止めて、地元にUターンして、新しい暮らし方のモデルをブランディングした例もあります。

人生をもう一度考える時期がきている

「物質的な繁栄だけが全てだ」という時代ではすでになく、生き方や暮らし方、未来につながる人間らしさを再検討する局面が、各所で生まれつつある。昨今の兆候は、いわば「テクノロジーが究極的に進化しつつある」シンギュラリティ的動向の反作用として、「テクノロジーでは手が届かない領域に、自分たちの存在や喜びを再発見しよう」としているのではないか。

先進企業がマインドフルネスに着目したり、その流れから、“禅思想”の聖地として福井県永平寺をアメリカ西海岸のエンジニアが訪ねて来たりする現象は、その現れの一端かもしれません。

「進化するテクノロジー」を最大限に享受するとしたら、自分は何を生み出せるのかを、もっと真剣に考えてみてはどうでしょうか? そのためには「今までやらなかったこと」にあえてチャレンジしてみるのも、有効な手段のひとつです。そして、そういった“気づき”を体感するときに「空間」というのは、非常にわかりやすい媒体なんです。

——谷川さんが最も得意とされる媒体ですよね。

谷川:その場所に行って実感するという感覚や、その場に居合わせた仲間と共有する感覚、“他人事じゃない”というライブ感とか、“つながっているんだな”という安心感といった感覚は、もっといろんな形で表出してゆくだろう。これを、ささやかながらでもそれらを後押しするのが、自分の会社の使命だと思っています。<後編へ続く>

聞き手/カフェグローブ編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

当記事はカフェグローブの提供記事です。

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