“面白い”は世界を変えるーー星野源、初のドームツアーで確信したオリジナルな戦い方

SPICE

2019/3/11 17:00

星野源DOME TOUR 2019『POP VIRUS』
2019.2.28 東京ドーム


「これからも面白い音楽を作りたいと思うので、よろしくお願いします。星野源でした!」

これはアンコールも終わり、最後に放たれた言葉だ。面白い音楽。表現者なら誰しも思うことかもしれないが、現実に口に出して違和感がないのは星野源ぐらいだろう。お楽しみ満載の3時間だったが、いずれも彼の音楽の面白さを際立たせるためのアンサンブルであり、アレンジであり、演出だった。

自身初の全国5大ドームツアーの終盤戦となる東京ドーム2Daysの2日目のレポートをお届けするのだが、ざっと今期の星野源の実績というか、巻き起こした渦の凄まじさを踏まえておこう。昨年8月20日にはNHK総合で冠音楽番組『おげんさんといっしょ』第二回が生放送。ツイッターのトレンドで世界1位を記録。12月19日リリースのニューアルバム『POP VIRUS』は4週連続アルバムチャート1位、大晦日には4度目の『紅白歌合戦』出場を果たし、しかもくだんの“おげんさんファミリー”のコーナーも設けられた。問答無用のトップ・オブ・ジャパニーズ・ポップである。

さらに驚くのは『POP VIRUS』の音楽的なアグレッシヴさがごく自然に受け入れられている現実だ。大ヒット曲「恋」「Family Song」「アイデア」を含んでいるとはいえ、タイトルチューン「Pop Virus」でのトラップやベースミュージックのリファレンスを独自に消化しつつ、親しみやすい歌モノとして落とし込まれたタイトルチューンを始め、二つとして似た出自の曲がない。イヤホンやヘッドホンでこのアルバムを聴くと、その細部に至るこだわりに笑いながら感動してしまう。なかなか慣れることができないほど、サウンドプロダクションもアレンジも変態的だ。そんなアルバムを携えてドームツアーを行った人を私は知らない。
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=西槇太一
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=西槇太一

春の走りの雨の中、東京ドームの周辺はグッズを購入する人、今回のビジュアルが掲出された巨大パネルの前で写真を撮る人でごった返してはいるものの、雰囲気は穏やかだ。DJポリスよろしく弁の立つ警備員のアナウンスがツイッターでも話題になっていたが、あらゆるスタッフがこの公演を成功させようとしているように感じた。

改めてやはりドームはデカい。目を引くのは花道と、途中と先端にあるステージ。これが星野の音楽面の多様性を顕在化させる文字通りの装置になっていく。開演時間を迎え場内が暗転し、拍手と歓声に包まれて星野が登場したのは、花道途中のセンターステージ。そこでピンスポットに照らされ、アコギの弾き語りによる「歌を歌うときは」でライブがスタート。まるで歌の生まれる瞬間に立ち会うような演出だ。一転、アルバムの中でも中核となっている“ビート”が明確に表現された「Pop Virus」へ。フルバンド+ストリングス、ホーン、そしてMPCプレーヤーのSTUTSの総勢14名。ビートの刻み一拍に命を込めて――そのメッセージが歌詞と音像両面で具体的に立ち上がっていく。ドームというキャパとしては上々のバランスで、生ドラムやベースと打ち込みが融合され、長岡亮介(Gt)の小気味いいリフもクリアに聴こえる。一人の部屋からラージ・アンサンブルのステージに。180度異なる世界への横断を見せたこのオープニングにまずぶちのめされた。こんなに的確な音楽的な自己紹介があるだろうか。
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=田中聖太郎
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=田中聖太郎

『POP VIRUS』収録曲と過去曲の流れを意識した配置で腑に落ちたのは、ゴスペル的なニュアンスもある「Get a Feel」から、星野が積極的にブラックミュージックのグルーヴを曲に持ち込み、音源として最初に世に出た「桜の森」につないだところ。しかも出だしは音源でのエレピ&ストリングスではなく16ビートのギターカッティング。しかも長岡でなく星野が刻んだところにも、曲想の母体を見たようで意思を感じる。この曲の定着ぶりはスタンドからアリーナが揺れる様で確信した。ちょっと感動的なぐらいアリーナがうねっていたのだ。さらに河村“カースケ”智康(Dr)の微妙なタメのあるスネアがライブでも体感でき、かつハマ・オカモト(Ba)のベースが曲のボトムを明確にするというバランスが素晴らしかった「肌」。ELEVENPLAYが花道や先端のステージなど二人ずつ4カ所に分かれてストーリー性のあるダンスパフォーマンスを見せた「Pair Dancer」は、愛することのひとそれぞれの多様性(「恋」でも星野はLGBTQを想起させる表現を行なっているが)をパフォーマンスで表現したかったんじゃないか?と想像した。<晴れの日にも 病める時も 側にいてよBaby>――自分以外の誰かと歩く人生。おおらかな賛歌的じゃない曲調がむしろ胸に迫る。続く「Present」まではいい緊張感を持って、最新の音像を14人で届けるという、全体を振り返るとシリアスなタームだったと言えるだろう。

子供から野太い男性の声まで様々な声援が飛ぶ中、ようやく笑顔の星野を確認したように思う。河村とSTUTSの生vs打ち込みのビートバトルの趣きも楽しい「サピエンス」、この日、ちょうどリリースから1年を数えた「ドラえもん」も披露。お馴染み“有名アーティストの皆さんからのメッセージ”動画が流れ、相変わらずの作り込みに笑いを禁じ得ない。後半にもこのコーナーが挟まれたのだが、リアクションと面白さでは“ビヨンセ・ジゼル・ノウルズ”(渡辺直美)に個人的には軍配をあげたい。
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=田中聖太郎
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=田中聖太郎

スタンドがざわついているなと思いきや、ステージと真反対の客席の中に星野出現。客席にあまりにも近い。今回のツアーではどの会場でも観客に近い場所を選んで1曲歌っているそうで、東京ドームの消防法などを勘案するとその場所しかなかったらしいが、「絶対やりたかった」ことの一つで、1stアルバムから「ばらばら」を弾き語りで披露した。そして“2ndステージ”と名付けられた花道の突端にあるステージで、STUTSが星野の曲をサンプリングし、構成したダンストラックを披露。この中盤が自由すぎる展開に突入していくのだ。STUTSの演奏が終わると、長岡、ハマ、河村、石橋英子(Key/Syn)、櫻田泰啓(Key)という基本のバンドメンバーが2ndステージの周縁に位置し、そこに星野もイン。7人が好き勝手におしゃべりし始め、河村が前日、プロ野球の鳴り物の終了時間を間違えていたことに固執。ここは楽屋かリハスタの休憩時間か?というムードに。そこからライブ初披露の「KIDS」「プリン」を演奏。誰よりこの7人が一番楽しんでいる。
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=西槇太一
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=西槇太一

ちなみに「プリン」は曲中にトークが入るのだが、河村がタイマーをセットし「ついて来いよ!」とハッパをかける。意外と早い段階で曲がストップ、トークタイムは“普段出していないダサい音色を”というお題で、石橋が80s産業ロックなシンセ、櫻田が某有名アーティストのベタなバラードを弾いて、場内大爆笑となったが、ハマが「カメラも入ってるのに人の曲、使えないじゃん!」と最年少が一番しっかりしているという事実を見せた。しかも河村がいきなり演奏を再開し、メンバーの笑いのツボに入り頓挫。さらにトークどころかステージに寝転がる星野に、「どう、東京ドームの天井は?」とハマが振ると「真っ暗」(笑)。「俺たちだけだろ、こんなこと東京ドームでできんの!」とアピール。それも演出の一部だろうが、このタームは何も決めていないように見えた。“見えた”ことが肝心だ。大事なのはバンドってこんなに面白いんだよという事実。もちろん、メンバー全員が高いスキルを持つからこそできることだが、広大なドームを逆手にとって2ndステージを作り、あたかも誰かの家で遊んでいるバンドを覗くような“面白さ”を見せてくれたのだ。締めはバンドバージョンでの「くせのうた」でグッとくる場面も作るという周到さも加味しつつ。
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=田中聖太郎
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=田中聖太郎

再びメッセージ動画を挟んで、終盤は怒涛のキラーチューン攻めだ。ファン歴の長い短いは関係なくカタルシスが押し寄せる。「化物」「恋」「SUN」という、おそらくここにいる人たちなら誰もが知るポップなグルーヴチューンの連発なのだが、「一緒に踊っていただけますでしょうか?」と、星野とELEVENPLAYがお馴染みの“恋ダンス”を相変わらずキレッキレの振り付けで見せたのに比べ、ファンはそれぞれの楽しみ方でむしろこの曲に含まれたメッセージを堪能しているように見受けられた。“逃げ恥”から2年以上の歳月を経て、いい意味でライブのキラーチューンは随時追加されている印象だ。そして2018年を代表するポップナンバーでもあり、このツアーのピークポイントになった「アイデア」。その前に星野は真面目な面持ちで、『POP VIRUS』の中でも特に大切な曲であること、生きてると嬉しいこともクソみたいなこともあるという前提で、これまでで最強の曲を作ろうと試行錯誤したと。それがどう受け取られるかは正直わからなかったけれど、たくさん聴かれ、多くのリアクションを得たことに感謝の意を述べた。アーティストとしてネクストレベルの評価を得ることの大切さを彼は多面的なこの「アイデア」という曲の音楽性に賭けたのだ。聴き慣れたイントロに胸が熱くなる。個人的な印象だが、軽快さに満ちた紅白でのパフォーマンスより、慎重に各パートを歌っていた印象だ。2番の打ち込みのパートではSTUTSのMPCを操作する手元がビジョンに映し出され、アコギの弾き語りは花道の中央のステージでしっとりと、そしてメインステージにお馴染みセグウェイで戻るところで笑いに転化し、特効の銀テープが放たれ、ラストのサビへ。困難にも面倒にもアイデアを――ドームの広さを効果的に使った最強の「アイデア」。<つづく日々を奏でる人へ すべて越えて届け>と熱唱する星野の声も相まって、この曲の本質がこれまで聴いた中で最も突き刺さった。
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)

ここで終わらず、「Week End」ではドーム全体が軽快なステップを踏み、クラップする。歌い終えた星野はその様子を聴くためにイヤモニを外し、感極まった表情を見せた。そして自分のライブはアンコールがあることをあらかじめ伝えるので、「次で最後です」と告げたら思いっきり残念そうな演技をしてくださいと言って笑わせる。そのことを理解したファンは存分に「えー!」と大声を発し、本編ラストの「Family Song」を全細胞で味わっているようだった。往年のソウルの名曲を日本で生きる私たちの日常を少しでも暖かくタフに生きられるようにという歌詞で、誰とも違う普遍的な名曲に育て上げたこの曲。「アイデア」も「Family Song」も、人が生きるために必要な大切なことを星野は独自の手法で完成させた。オリジナルであるほど、人間の真実に近くなっていく、それが今の彼の凄みなのだ。
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=西槇太一
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=西槇太一

そしてアンコールも気が抜けない細かい仕込みが満載。ファンにはお馴染みの寺坂直毅の口上に乗せてニセ明が登場し「君は薔薇より美しい」を歌うも、なんと星野も登場して、“え? ニセは誰なの?”という混乱にドームが包まれた。ニセが喋る際、一瞬、STUTSの画が映され、ステージでテレビ的なネタバレを開陳したりして、このコーナーもアイデアを更新。さすがである。

正真正銘のラストナンバー「Hello Song」を歌う前、星野は25歳の時、一人ぼっちで歌っていた時と同じ感覚ではあるけれど、5万人のみんながいると思うと安心するような不思議で面白い空間だったと、ドーム公演の感想を話した。ああ、星野源の音楽の始まり方はこれからも変わらないんだなと思う。面白さは世界、そして人の心に風穴を開けるのだ。

取材・文=石角友香
撮影=田中聖太郎、渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)、西槇太一
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=田中聖太郎
星野源 2019年2月28日 東京ドーム 撮影=田中聖太郎

当記事はSPICEの提供記事です。

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