『アラジン』初主演! 新国立劇場バレエ団ファースト・ソリスト、福田圭吾にインタビュー

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新国立劇場バレエ団(以下新国)では2019年6月15日~23日、デヴィッド・ビントレー振付『アラジン』を上演する。ここで今回初めて主演・アラジン役に抜擢されたのがファースト・ソリストの福田圭吾だ。

福田は2006年の入団後、2009年にトワイラ・サープ『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』でプリンシパル役に抜擢されて以来、古典作品から現代作品、コンテンポラリーなど幅広い作品で高い技術とともに印象深い演技力で大きな存在感を示してきた。英国バーミンガム・ロイヤル・バレエに留学していた経緯もあり、元監督のビントレー氏とは縁も深く、新国入団後も氏の『アラジン』をはじめ『ペンギン・カフェ』『カルミナ・ブラーナ』『パゴダの王子』などでも随所で主要な役どころを踊っており、氏の作品に対する造詣の深いダンサーの一人ともいえる。さらにダンサーが創作バレエを発表する『DANCE to the Future』(以下DTF)を通して自身の振付作品も披露しており、多方面から舞踊にアプローチし、己の芸を追及している。

今回はその福田に『アラジン』初主演に対する思いや意気込み、「創作」についての思いを聞いた。(文中敬称略)

■創作時から見てきた『アラジン』


新国のためにつくられたビントレー振付『アラジン』の初演は2008年。ミュージカルやアニメーション映画などでも知られた作品で、青年アラジンが魔法のランプの精ジーンやプリンセスとの出会い、魔法のランプを狙う魔術師マグリブ人と戦いなどを通して成長してする物語だ。福田は初演時にアラジンの友人役を、2011年、2016年の再演時にはランプの精ジーンを踊った。
ビントレー振付『アラジン』アラジンの友人 撮影:鹿摩隆司
ビントレー振付『アラジン』アラジンの友人 撮影:鹿摩隆司

――長い間新国を観てきたファンの中には「ついに福田さんが主演を踊る日が来た!」と喜んでいる人も多いと思います。まずはアラジン役に対する意気込みからお聞かせください。

決まった時はすごく驚きました。入団から13年経ったこのタイミングで初めて全幕作品の主演をいただけることも含め、今でも信じられない気持ちです。今年の1月に実は英国に遊びに行ったのですが、その時ビントレー元監督と会った際に「アラジン役、よろしくね!」と言ってもらえ、うれしかったです。

――初演時はアラジンの友人役でしたね。

はい。入団した頃はコールドバレエだったので、群舞で踊ることが多かったのですが、アラジンの友人は役の付いた出演だったのでうれしかったのを覚えています。そこからサープ『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』主演に抜擢していただき、さらに『ロメオとジュリエット』のマキューシオなど役が付くようになり、再演時にはランプの精ジーンも踊らせていただきました。牧元監督からビントレー元監督に変わった時期でもあり、あの頃は様々な踊りとともに、演劇的な表現にも数多くふれることができました。
マクミラン振付『ロメオとジュリエット』マキューシオ 撮影:鹿摩隆司
マクミラン振付『ロメオとジュリエット』マキューシオ 撮影:鹿摩隆司

――再演時にジーンを踊りましたがその時の思い出などを。

ジーンは人間ではなく魔人という人智を越えた存在だったので、その辺りの役作りに葛藤しました。初演にジーンを演じた吉本泰久さんのいいところを盗みたいと思っていたのですが、舞台上での吉本さんの眼力のすごさに驚きました。ジーンが長い眠りから目が覚めた時にカッと目を見開くシーンがあるのですが、一気に見ている人の心をつかむんです。すごかった。

――ビントレー元監督の振付作業も見ていらしたのですよね。

はい。ビントレーさんは楽譜を見ながら、音符一つひとつにステップが入るように振りを付けるんです。音に対してとてもシビアで、踊りがとても音楽的です。そこが彼の作品の魅力のひとつです。同時に踊る難しさも感じました。2幕にジーンの見せ場となる踊りがあるのですが、非常にアップテンポで音楽に合わせてステップも細かくなり、踊っていてほんとにキツイです(笑)。
ビントレー振付『E=mc2』光速の二乗 撮影:鹿摩隆司
ビントレー振付『E=mc2』光速の二乗 撮影:鹿摩隆司
ビントレー振付『テイク・ファイヴ』FLYING SOLO 撮影:鹿摩隆司
ビントレー振付『テイク・ファイヴ』FLYING SOLO 撮影:鹿摩隆司

■アラジンとジーンの友情に重点。ジーン役も経てきたからこそできるアプローチ


――そしていよいよアラジン役です。リハーサル開始はまだ先だと思いますが、どのような役作りをしていこうと考えていますか?

創作の段階から見ていましたから、「僕だったら、こう演じたいな」という考えはありました。『アラジン』は愛と魔法と冒険の物語ですが、僕はとくにアラジンとジーンの友情に重点を置きたいと思っています。というのも僕自身がジーンを演じているとき、最後にアラジンがジーンを解放するシーンにすごく感動したからなんです。ビントレーさんのジーンはランプの持ち主に仕え、服従する寡黙なイメージで、別段人格はないのですが。

――ジーンは「ランプを持つ者が力を持ち、世界を支配する」といった象徴的な存在でもあり、一種「物」のようでもありますね。

はい。でもアラジンは冒険を通してジーンに個としての「人格」を認め、彼を解放するんです。ジーンとしては解放されて自由に飛び回る「生き様」なんて想像していなかった。アラジンはジーンを友人――対等な「個」として認め、だから解放という選択をしたわけで、もしからしたらアラジンの冒険は、ジーンを解放する――つまり権力といった世俗的な欲を手放すことができるまでになる、精神的な成長のためにあったのかもしれないとも思えるんです。

実際に僕がジーンを踊っていた時、クライマックスで一時マグリブ人の手下になるのですが、再びアラジンに呼ばれた時、なんか本当にうれしかったんですよ。演じていたのに、アラジンのもとにいることが心からうれしかったんです。そして2人でマグリブ人を倒すときは心のつながり――絆ができたと感じていました。

――ジーンの気持ちがわかればこその、福田さんならではのアラジンになりそうですね。

今までジーンとアラジンの両方をやった人は、新国にはいないですよね。今までのキャストと僕の違いはそこだと思うし、様々な役を通して多角的にこの作品を見てきたので、そこから見ていた景色や思いを大事にしながらアラジンを踊っていきたいと思います。
ビントレー振付『シルヴィア』ゴグ 撮影:鹿摩隆司
ビントレー振付『シルヴィア』ゴグ 撮影:鹿摩隆司

■DTFを通しての舞踊へのアプローチ。ダンサーの生き様も見える「即興」


ビントレー元監督時代に誕生したのがバレエ団の中から振付家を育てるプロジェクト「DANCE to the Future」だ。ダンサーがダンサーに振り付けた作品を発表するこの公演は、2012/2013シーズンに「DANCE to the Future ~First Steps~」として産声を上げ、平山素子、中村恩恵などの振付家をアドヴァイザーに迎えながらほぼ毎年上演されている。福田もこのDTFには2年目から作品を発表。2019年3月29日~31日に行われるDTFでは、実弟の福田紘也振付『猫の皿』にダンサーとして出演するほか、2016年に福田が発表した『beyond the limits of...』が再演される。ちなみに「DANCE to the Future 2019」の作品テーマは「お金」または「バッハ」。DTFをより発展させる試みとして、コンペティションの際にテーマを設けたという。
ドゥアト振付『ドゥエンデ』 撮影:鹿摩隆司
ドゥアト振付『ドゥエンデ』 撮影:鹿摩隆司

――DTFについてお話を伺います。普段ダンサーとして作品を踊る時は登場人物の「役」などがありますが、創作は頭の中にある何かを形にすることですよね。結果的には「踊り」と向き合うことになるとは思いますが、福田さんは創作についてどう考えますか。

作品をつくる作業というのは、僕自身が生きてきた中で得たものが僕というフィルターを通して出てきたアイディア、それをさらにダンサーというフィルターを通し、最終的に舞台で結実することでもあるんです。奥深い作業だなと思います。インスピレーションはいろいろなところから得ます。音楽からということもありますし、普段一緒にいるダンサーから得ることもあるし、自分の中から「これを表現したい」と湧いてくることもある。出演してくれるダンサーをキャスティングするときは自分も含めて客観視しているので、自分がダンサーとしてその作品に合うなら「採用」します。
ビントレー振付『ファスター』闘う(ファイターズ) 撮影:鹿摩隆司
ビントレー振付『ファスター』闘う(ファイターズ) 撮影:鹿摩隆司

――作品に入り込む目、引いて見る目、そして俯瞰する目があるわけですね。DTFは前回から「Improvisation即興」が入りました。文字通り音楽に合わせて即興ですが、これはダンサーとしてやってみていかがしたか。

初めてやった時は、はたして僕らバレエダンサーが演っていいのかという不安でいっぱいで、その時間が辛いわけではないのですが……大変でした(笑)。ダンサーの作業とは一般的に、前もって用意された踊りを、時間をかけてリハーサルをして舞台で表現することなのですが、即興はその場で産まなければなりません。普段やっていることと全然違うんです。大変でしたが、でも達成感がありました。こんな機会を与えもらえて、とても感謝しています。

――即興は本当に何の打ち合わせもないんですか?

はい。決まっているのは終了の5分前くらいになったら、後ろのホリゾントの色が変わる。それだけです。即興というその場で起こる踊りをお客様に見せていいのかな、という気持ちも正直ありましたし、実際観に来てくださった方々から「良かった」という感想と、「観るのがつらかった」という両方の感想がありました(笑)。でも即興をやっているとき、ダンサーはある意味、極限状態にあるんです。予定調和じゃない、ライヴのなかでの真剣勝負なので、ひょっとしたらダンサー個人の性格や生き様が出てくるかもしれない。そういうところを楽しみに見てもらえればと思います。

――なるほど。即興の見方のヒントをいただきありがとうございました。楽しみにしています。
『ジゼル』村人のパ・ド・ドゥ 撮影:瀬戸秀美
『ジゼル』村人のパ・ド・ドゥ 撮影:瀬戸秀美

■福田圭吾
大阪府出身。3歳からケイ・バレエスタジオにてバレエを始める。同スタジオで矢上香織、矢上久留美、矢上恵子に師事。2001年こうべ全国洋舞コンクール・バレエ男性ジュニアの部第1位、02年ジャクソン国際バレエコンクールでスカラシップを受賞、同年ドイツハインツボッスル・バレエアカデミーへ留学。03年ローザンヌ国際コンクールでプロフェッショナル・スカラシップを受賞、同年英国バーミンガム・ロイヤル・バレエへ留学。06年新国立劇場バレエ団に入団。09年トワイラ・サープの『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』でプリンシパルに抜擢。10年ソリスト、12年ファースト・ソリスト。

主なレパートリー:牧阿佐美『白鳥の湖』道化、ナポリ、同『くるみ割り人形』トロル、トレパック、同『ラ・バヤデール』黄金の神像、イーグリング『眠れる森の美女』親指トム、同『くるみ割り人形』ロシア、アシュトン『シンデレラ』道化、サープ『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』プリンシパル、同『イン・ジ・アッパー・ルーム』、ドゥアト『ドゥエンデ』、バランシン『タランテラ』、ビントレー『アラジン』ジーン、同『カルミナ・ブラーナ』神学生2、同『ガラントゥリーズ』、同『ペンギン・カフェ』テキサスのカンガルーネズミ、同『パゴダの王子』北の王、同『シルヴィア』エロス、ゴグ、同『E=mc2』光速の二乗、プティ『こうもり』ウルリック、ブルノンヴィル『ラ・シルフィード』グァーン、マクミラン『マノン』レスコー、『ロメオとジュリエット』マキューシオ ほか。
マクミラン振付『マノン』レスコー 撮影:瀬戸秀美
マクミラン振付『マノン』レスコー 撮影:瀬戸秀美
バランシン振付『タランテラ』 撮影:鹿摩隆司
バランシン振付『タランテラ』 撮影:鹿摩隆司

取材・文=西原朋未

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