稲垣吾郎 『半世界』 インタビュー

NeoL

2019/2/13 18:00



『エルネスト もう一人のゲバラ』や『北のカナリアたち』の阪本順治監督が、自ら脚本も手がけた新作『半世界』が2月15日に全国公開される。地方都市を舞台に、人生の折り返し地点を前に葛藤する3人の男たちの姿を描いた物語だ。生まれ育った故郷で炭焼き職人として生計を立てている主人公・紘を演じるのは、10代の頃からエンターテインメントシーンで活躍してきた稲垣吾郎。新しい一歩を踏み出してから初の主演映画となった本作で、世間が抱くイメージとは大きく異なる役に挑んでいる。人生のターニングポイントに出会った本作について、一人の俳優として歩み出した稲垣に話を聞いた。

——阪本監督は本作について、「地方都市の市井の人々を描きたい」とおっしゃっています。最初にこの企画をオファーされた時は、どのように思われましたか?

稲垣吾郎「最初は阪本監督とホテルの一室でお会いして、『映画を稲垣君でやりたい』というお話でした。プロットみたいなものを見せていただいたのですが、その段階では2人の男の話だったんです。長谷川博己さん演じる海外から故郷に戻ってくる幼なじみと、地元で暮らす炭焼き職人の話でした。結末はプロットにも書いてあったんですけど、僕は最初、帰ってくる方の人間を演じるのかなと(笑)。まさか地元で炭焼き職人とは…逆かなと思っていたんです。監督は僕が演じた紘について、『土の匂いのする男の役だ』とおっしゃっていましたけど、あまりそういう役は僕のイメージにもなかったでしょうし、これまでは真逆のタイプの役が多かったので、最初はびっくりしました」

——主人公が39歳という設定や、ポスターにも書かれている「描いた人生になってる?」というテーマは、その時点で既に決まっていたのですか?

稲垣「”半世界”という言葉は使いたいとおっしゃっていました。戦場カメラマンの小石清さんが写真集のタイトルにされていたという話もお聞きしたのですが、すごく難しいテーマだなと思いました。でも、”半世界”という言葉には何か不思議と引かれるものがあって、それぞれのイメージが浮かび上がりますよね。この映画のように、彼らが住む世界も”半世界”であったり、瑛介が自衛隊員として海外に行っていた、向こう側の世界もあったりっていう。そういう捉え方もありますし、残りの人生という意味での”半世界”もあると思うし。イマジネーションが膨らんで、観る人によってそれぞれの解釈ができる。僕はすごく良いタイトルだと思います」

——生まれ育った小さな町で妻子と暮らす炭焼き職人という役は、本当に意外でした。これまではもっと自意識の強い役を演じられてきたイメージでしたが、稲垣さんが紘として風景の中にすっかりなじんでいて驚きました。本作では役にどのように向き合ったり、寄り添ったりしたのでしょうか?役作りのために何か特別なことはしましたか?

稲垣「そうですね、自意識ですね。紘は自分に対して興味がない人間で、僕は自分に対して興味がある人間しか演じてこなかったので(笑)。僕はいつも演じる上で特別なことはしないんですよね。自然と溶け込んでいくというか、何かきっかけがあって役が憑依するということはなくて、段々なじんでいく、溶け込んでいく、という感じです。でも、もちろん演じるって一人ではできないので、特に今回の役はそこの場所、土地に誘われたというのは大きいですね。1ヶ月間にわたって三重の伊勢志摩の方でロケをしたのですが、その土地に引っ張られて、そこの人間になっていくという感じでした。何かデフォルメして作ろうと思っても、どんどん嘘になってしまうので。かといって、そこで生活して、そこの土地のものを食べて、そこの人たちと接してとか、そういうことではないんですけど、この土地の引っ張る力は大きかったかもしれないです。伊勢志摩は秘境みたいなところなんですよね」

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——スクリーンに広がる世界には、別世界のような美しさがありました。

稲垣「都心からどれだけ離れているかという問題ではなく、伊勢志摩のあたりって別世界感がありますよね。地形とかもあるんでしょうけど、不思議ですよね。僕も初めて行ったのですが、本当にきれいなところでした。映画の中でも映像が非常に美しくて、僕が目で見ていた景色よりも、さらに美しく映っています。自然の風景とか音とか空気みたいなものとか、この土地じゃなきゃ絶対に出せないようなものが映し出されている感じがしました」

——稲垣さんの中に紘を見出した監督からは、どのようなディレクションやリクエストがありましたか?

稲垣「監督が『ここにいれば、段々引っ張られるから』と最初に言ってくださったんです。『ゆっくりやっていこうよ』みたいな感じで。ちょっとした動きとか仕草とか喋り方とか、そういったものはあまり自分が出ないように封じ込めました。長谷川さんは舞台出身の方で、僕も舞台をやらせてもらっているので、滑舌がよくなってしまうところがあって、監督からは、一つのリアリティーとして喋り方についても言われました。あとは池脇(千鶴)さんや長谷川さん、渋川(清彦)さんをはじめとする共演者の力も大きいし、土地の力も大きいし、スタッフが作り出す世界や、美術スタッフ、技術スタッフなど、この世界を一生懸命に作ってくださった皆さんの力が大きいです」

——紘の妻・初乃役の池脇千鶴さんとの共演シーンでは、お二人の醸し出す夫婦感が素晴らしかったです。

稲垣「池脇さんはお上手ですよね。本当にお母さんの感じが不思議と出ていて。彼女にも引っ張られた感じがあって、あそこで生きた時間とか月日みたいなものは夢みたいな感じです。本当に現実だったのかな、というくらいに。役にはまり込んでいたとかではないんですけど、その世界に自分が”いた”というか、”生きていた”という感じです。読んでいる本の中にずっと入っちゃっている時みたいな感じというか、不思議な時間でした」

——中学生の息子を持つ父親という設定も新鮮でした。

稲垣「もし子どもがいたり家庭があったりしたら、本当にこうなっていただろうなと、すごく思いました。絶対にどう接していいかわからなくて、息子に対してあんな下手な感じだろうなって自分でも思います。うちの父親も僕に対して比較的そうだったんですよね。不思議な距離がずっとあるっていうか(笑)。似ているんでしょうね」

——本作では39歳の3人の登場人物の視点を通して、「人生の半ばに差し掛かった時、残りの人生をどう生きるか」という葛藤が描かれています。稲垣さんは彼らと同世代ですが、この役を演じてみて感じたことや得たことはありますか?

稲垣「僕はここが半分とか、そういう考え方はあまりしていないんです。何があるかわからないし、明日死ぬかもしれないし、100年生きるかもしれない。すべてが思い描いているようにはならないし、何か逆算して物事を計算して組み立てていくっていうことが、僕にはあまりなくて。ちょっと刹那的なのかもしれないですけど、この環境がそうさせてしまったのかもしれないです」

——東京出身の稲垣さんにとって、紘は生まれ育った地方都市でずっと暮らしているという点でも真逆ですよね。

稲垣「こういう人生もあるんだな、というか、僕が見てきたことのない人生だったので…やっぱり、自分は相当特殊な世界にいるんだなと。これが普通なんですよね。でも、すごく素敵だなと思いました。僕は地元の友だちとか幼なじみもいないですし、香取(慎吾)君や草なぎ(剛)君は子どもの時から一緒にいるから、ある意味、(劇中の)この3人みたいなのかなって思ったりはしますけど、彼らは仕事でのパートナーなので、ちょっとまた違うんです。こういう絆がうらやましいなという感じはします」

——そういうのを避けて生きてきたというわけではないんですか?

稲垣「避けてきたかもしれないですね。あまりベタベタした人とのつながりっていうのは、僕は好きじゃなくて…わりかし一人を好き好んでやってきました。この世界にいると毎日新しい人間と出会って、歌であったりお芝居であったり、すごく刺激的なので、プライベートではひっそりと静かに一人で生きていきたいと、今でもそう思っているんです。あまり人に干渉されずに(笑)。それが僕の中での切り替えなのかもしれないです。だから、地元の友だちと同窓会で集まるとか、そういうのは避けてきたのかもしれないです。あまり誘われなかったっていうのもあるんですけど(笑)。憧れはありますけどね。でもベタベタはしたくない。そこに引っ張られたくないです」

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——紘は仕事の時は一人きりで、そういう意味でも稲垣さんとは真逆ですよね。

稲垣「面白いですよね。だから、僕にこれを演じさせるっていうのは監督の確信犯というか。もちろん、僕がそういう人間ではないということは監督もわかっているし、でもどこかで監督の言うところの”土の匂い”のようなものを感じ取って、汲み取ってくださったんでしょうね。舞台で演じたベートーベンも自分とは全然違うんですけど、紘は年齢も近くて現代を生きているので、近いのに遠いから不思議な感覚がしたのかもしれないです。ベートーベンまで行っちゃうと、もうなんかSFじゃないですか(笑)。紘にはもしかしたら自分と近いところもあって、でも表面的にはすべてが真逆で、ただどこか魂のレベルで引かれ合う、共感できる部分があったのかもしれないです」

——本作を観ると、誰もがそれぞれの世界で生きているということを改めて感じさせられます。現在の稲垣さんが身を置いていらっしゃるのは、どんな世界ですか?

稲垣「竜宮城みたいな世界かなと思っていたんですけど、最近ようやく現実世界に降りてきたというか…”上陸した”のかな(笑)。芸能界ってやっぱり、ある種キラキラした、時にギラギラした世界で。僕らは1990年くらいから活動しているんですが、バブルが崩壊して、でもまだけっこうキラキラしていた時代でした。それから平成をずっと駆け抜けてきたというか、芸能界でやらせていただいているのですが、本当に刺激が強くて。僕は14歳からこの世界にいるんですけど、もし大学を卒業して自分の父親のようにサラリーマンとして生活を送って、途中からこの世界に入ってきたとしたら、たぶん溺れちゃうんじゃないかなっていうくらいに、傍から見ると本当に特殊な世界だと思います」

——なるほど。

稲垣「でも、最近は環境が変わったというのもありますけど、今まで見えなかったものが見えてきたりしています。もしかしたら、もっとちゃんと地に足がついてきたのかもしれないし、年齢的なことかもしれないですが、いろんなものに気づけるようになってきたというか。本作を含めいろんな作品をやらせていただいて、役を通じて気づかされることもあります。毎日たくさんの人と出会って、忙しくて、それはそれで今の自分を作ってきたものだから、否定するつもりはまったくないのですが、その慌ただしい毎日の中で見えなくなっていったものも絶対にあると思うんです。逆にもう見る暇もないし、立ち止まって見ていたら溺れちゃうという意味では、走り続けないといけないような感じもありました。でも今はちゃんと左右とか後ろとか360度見ながら、しっかりと一歩一歩進んで行けているなと思います。今までのめくるめく時間というのは、それはそれですごく鍛えられたと思いますし、いろんな思いがありますけど」

——そのようなタイミングで『半世界』のオファーがあったというのは、意義深いですね。

稲垣「自分にとっては、本作は良いタイミングで良い作品だったと思います。僕は”バッジ俳優”じゃないですけど、弁護士とか医者とか刑事とか、バッジをつけた役が多かったのですが、紘は自分が今まで求められていたような役とは真逆の役で、個人の仕事としては新しい環境に踏み出した第一歩の映画の作品です。そういった意味では、今の自分がやらせてもらえる作品としては、これ以上のものはないんじゃないかなというくらい素晴らしい作品に巡り会えた感じです」

——環境の変化によって見えてきたもので、何か具体的に一つ挙げるとしたら?

稲垣「SNSを始めると、大多数のファンの皆様というよりも、ファンの方の一人一人とつながるんですよね。コメントもそうですし、皆さんの生活とか大げさに言うと人生とか、そういったものを交換日記のようにのぞかせてもらって。僕らもブログやインスタやツイッターで発信するようになったので、そういうキャッチボールをすることによって、いろんな世界が見えてきました。たとえば同世代のファンの方だとしたら、なんとなく僕の中では出会った頃のままだったんです。彼女たちも僕らもティーンだったけど、気づけば僕も40代ですし、ファンの皆さんも結婚したり、子どもができたり、それぞれの人生のステージを歩まれている。そういういろんな人生を見ることができるようになったという意味で、SNSは大きいかもしれないです。気づかされることも多いですね」

——これからこの作品を観る人には、どのようなところに注目してほしいですか?

稲垣「同じ世代の方に多く観ていただきたいですね。女性と男性によっても感じ方が違う作品だと思います。家族の話であり友情の話でもあるけど、男と女の話でもあるし、ヒューマンといえばヒューマンで、僕も映画をたくさん観ていますが、こういう映画ってありそうであまりないんじゃないかな。今この日本で、このタイミングで、このタイミングの僕がこの映画をやるっていうのも、すごく奇跡的で面白いことなんじゃないのかなと思っています」

photography Riku Ikeyatext Nao Machidaedit Ryoko Kuwahara

『半世界』2月15日TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開http://hansekai.jp脚本・監督 阪本順治出演 稲垣吾郎 長谷川博己 池脇千鶴 渋川清彦 小野武彦 石橋蓮司ほか制作・配給 キノフィルムズ(C)2018「半世界」FILM PARTNERS

ストーリー「こんなこと、ひとりでやってきたのか」。山中の炭焼き窯で備長炭を製炭し生計を立てている紘は、突然帰ってきた、中学からの旧友で元自衛官の瑛介から、そう驚かれる。深慮もなく父から継いだ紘にとって、ただやり過ごすだけだったこの仕事。けれど仕事を理由に家のことは妻・初乃に任せっぱなし。それが仲間の帰還と、もう一人の同級生・光彦の「おまえ、明に関心もってないだろ。それがあいつにもバレてんだよ」という鋭い言葉で、仕事だけでなく、反抗期の息子・明に無関心だったことにも気づかされる。やがて、瑛介の抱える過去を知った紘は、仕事や家族と真剣に向き合う決意をするが……。

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