M‐1出場芸人のすごさがわかる、泣けるお笑い芸人マンガ『べしゃり暮らし』

日刊サイゾー

2019/2/13 17:00


 皆さん、お笑いは好きですか? お笑いといえば、その頂点は「M‐1グランプリ」ですよね。2018年末に行われた平成最後のM‐1では、平成生まれの若手コンビ・霜降り明星が 見事、史上最年少の王者に輝きました。

しかしその直後、M-1審査員への暴言騒動が起こり、せっかくの感動を台なしにしてしまうという衝撃の結末を迎えました。いま考えてみると、ここまでの一連の流れも含めて、さすが平成最後といえる展開だったといえます。

ところであらためて調べてみると、お笑い芸人をテーマにしたマンガってビックリするぐらい数が少ないんです。今回ご紹介する『べしゃり暮らし』(ヤングジャンプコミックス)こそが、ほぼ唯一のお笑い芸人マンガの成功例と言って過言ではありません。

『べしゃり暮らし』の作者は『ろくでなしBLUES』『ROOKIES』など不良&スポーツをテーマとした作品でヒットを飛ばしてきた森田まさのり先生。本作はお笑い芸人がテーマとなっていますが、もともと森田先生のお笑いへの思い入れはハンパではなく、本作以前にもお笑いがテーマの読み切りマンガを描いていたり、自ら吉本興業の芸人養成所NSCに入学したり、M‐1グランプリにまで出場したりしています。ちなみに、M‐1出場時のコンビ名は「漫画家」。まさかのヒネりなし!

お笑い芸人をテーマにしたマンガが少ない理由は実にシンプルで、漫才をマンガにすると面白くないからです。漫才は単なるネタだけでなく、テンポや間や動きで笑いを生み出します。マンガでテンポや間を表現するなら漫才よりも4コママンガのほうが向いていますし、コントの場合も『こち亀』で両さんが無茶苦茶やって大原部長が怒り狂うシーンなんて、まるで警察コントのようですが、これをお笑い芸人がやっている体でマンガにしてしまうと、ちっとも面白くないわけです。

では、『べしゃり暮らし』はなぜ成功したのか? それはギャグマンガにするのではなく、作品の中に友情・努力・勝利そして泣きの要素を組み込んだ、スポ根マンガ的アプローチを取り入れているからなのです。

本作は、とにかく一番面白いやつになりたい! という野望を持つ高校生、自称“学園の爆笑王”上妻圭右(あがつま・けいすけ)が主人公。ある日、元お笑い芸人の転校生、辻本潤が現れ、圭右は自分より面白いやつの登場にライバル心をむき出しにするのですが……。それにしても、自称“学園の爆笑王”てなんやねん! 自分でハードル上げすぎてて笑えんわ!!

圭右と辻本は、なんやかんやでぶつかり合いながらも漫才コンビ「べしゃり暮らし」を結成。NSCみたいなお笑い養成所・YCA(ヨシムラコミックアカデミー)に入所し、ライバルの若手芸人たちと切磋琢磨しながら、M‐1グランプリみたいな若手お笑いグランプリのNMC(ニッポン漫才クラシック)のチャンピオンを目指す、というストーリーです。

あまりにも元ネタがバレバレすぎて、読んでいて「もうNSCとM‐1でええやん!」てなります。

■これはギャグマンガではない、人間ドラマだ!


 本作には、当然ながら、漫才コンビがネタを披露するシーンがたくさん出てきます。

「大阪人て、たこ焼き派か阪神ファンかに分かれるもんな」

「何のことやねん!」

「髪の毛には海藻がええらしいで」

「ああ、よう言うね」

「けど、もずくとかやったらわからんでもないけどワカメなんてのせてたらバレバレやで」

「直接のせてどないすんねん!」

コンビの細かなやりとりにおいてもちゃんとボケとツッコミが成立しており、ネタの一つ一つがまるで芸人のネタ帳から出てきたかのような、クオリティの高いものになっています。細部まで手を抜かない森田先生の、お笑いへのこだわりが伝わってきます。

ただしお笑いがテーマのマンガですから、ネタのやりとりに合わせて「ぎゃはは」「ぶははっ」「くすくす」「あはははは」という周囲の笑い声が入ります。マンガの中で先に笑われると、読んでるほうは不思議と笑えなくなります。

まあ、いいんです。これはギャグマンガじゃない! 人間ドラマですから。読んで笑うんじゃなくて、泣くマンガですから!!

■芸人の苦労がしのばれる、リアル挫折エピソード


 本作では、若手芸人がブレークするまでいかにしんどい思いをするか、というエピソードがこれでもかというぐらいに盛り込まれています。

主人公の圭右は、高校では笑いの天才と呼ばれるほどの存在ですが、辻本と組んでチャレンジしたNMCの予選で初めての挫折を経験します。プロの漫才コンビたちがひしめく中で、スベり倒します。とにかく、まるっきりウケない。

しまいには漫才の途中でキレて、相方の辻本をステージに一人残して途中退場してしまったり、スベったのは笑いのセンスのない客のせいだと、最悪のセリフを吐いて自暴自棄に陥ります。

しかし、辻本の先輩で、実力派の漫才コンビ「デジタルきんぎょ」金本のアドバイスによって、立ち直ることができたのです。なんだか、実際にありそうなエピソードですね。ちなみに、金本のモデルとなったのが千原ジュニアだそうで、こういう実在モデルのキャラクターがちょいちょい出てくるのもこのマンガの魅力のひとつです。

せっかく立ち直った圭右ですが、その後も東京モンのくせに、ギャグを言う時に大阪弁になってしまうという癖を指摘され、再びスランプに陥ってしまいます。関東人の使うエセ関西弁ってイタいらしいですね。……って、このコラムのことやないか!!

■最大の泣けるテーマ「コンビの絆」


 本作で語られている最重要テーマ、それは「コンビの絆」または「コンビ愛」です。作中にはあらゆるタイプの漫才コンビのエピソードが描かれています。やれくっついただの別れただの、別れそうだったけどやっぱりヨリが戻った、ほかのやつに相方を奪われた……などなど、恋愛か! ってくらい人間模様の宝庫なわけですが、個人的に一番好きなのは、「べしゃり暮らし』のライバルコンビ「げんこつロデオ」のエピソードです。

「げんこつロデオ」は破天荒でケンカっ早い岩隈と、ビジネスライクでクールな内川の漫才コンビです。トラブルメーカーの岩隈に対し、いつも我関せずで、相方なんかいつでも切り捨てたる、というスタンスを取っていた内川ですが、ある日、岩隈からコンビ解散を持ちかけられます。

岩隈の父親が会社で横領を行い、5,000万円もの借金を背負ってしまったのです。父親のしでかした借金を返すため、相方の内川には迷惑をかけられない、という岩隈の思いから出た解散話でした。

「くそ…意味なかったなぁ、俺の人生…」

がっくりとうなだれる岩隈にかけた内川の言葉は意外なものでした。

「不幸や思うから意味なくなんねん、笑ろとけ笑ろとけ」

「5,000万? ちっさ、将来2人でどれだけ稼ぐ思てんねん」

「ちっ、俺も人がええな、まぁしゃーない、ビジネスパートナーやからな」

クールに言い放っているようで、実はすごく相方思いだったのがビンビン伝わるこのセリフ。いやー、何度読んでも泣けるシーンです。実際、この文章タイプしながらも涙止まらないし。どんだけ涙腺弱いねん!

■最高のクズ男「辻本の父ちゃん」


 終盤に登場する最重要人物といえば、辻本の父ちゃんです。もともと引きこもりでしたが、一念発起して大物お笑い芸人の付き人になったものの、その後、クビになってからはグダグダの転落人生。妻子(辻本のおかんと辻本)を捨てて失踪したり、放火犯として逮捕されて刑務所に入ったり……。その間、おかんは一人で辻本を育て、過労のために入院するなど、苦労のし通しでした。そんな無責任な父親を、絶対許さないと誓う辻本。そりゃそうですよね。

そんな辻本の父ちゃんですが、不器用さゆえに周りに迷惑をかけてしまうけど、決して悪い人間ではないのでした。結婚時の妻との約束「お笑いネタを一日一本作る」をずっと守り続けていた真面目さや、放火も実は冤罪だったことが判明するなどで、次第に辻本と和解ムードに。

クライマックスは、NMCの準決勝で披露された「べしゃり暮らし」の漫才ネタ「父親に謝りたい」。すごく遠回しにステージ上で不器用な和解メッセージを送る辻本。こんなシーン見せられたら泣いちゃいますよね。

というわけで、読んだら涙が止まらないお笑い芸人マンガ『べしゃり暮らし』をご紹介しました。華やかなお笑いの世界のその裏で、人知れずとてつもない苦労を重ねているお笑い芸人たち。これからは若手芸人の漫才を観たら、笑わずにむしろ泣いてやろうと思いました(やめとけ!)。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

当記事は日刊サイゾーの提供記事です。

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