実は復活していた『ザワさん』の衝撃。決定!この野球マンガがすごい2019

エキレビ!

プロ野球がキャンプインし、いよいよ球春到来。そんななか、今年もやります「この野球マンガがすごい2019」。野球マンガ評論家のツクイヨシヒサ、そして私、エキレビ!・野球担当のオグマナオトが、現在連載中の作品から、“今こそ読むべき野球マンガ”を選定していきます。

総括2018:ついに完結、ドカベン・サーガ
オグマ:今年のランキングに行く前に、2018年の野球マンガ事情、特に連載終了した作品について改めておさらいしたいと思います。

ツクイ:まあ、『ドカベン』に尽きますよね。このインパクトがあまりにも大きくて。大団円といえば大団円で、NHKまでもがニュースで取りあげるという。


オグマ:1972年の連載開始から47年目のグランドフィナーレ、ということで「クローズアップ現代」も連載終了日に取りあげ、「報道ステーション」もニュースとして取りあげました。でも、ほとんどの人が「大甲子園」(1983~87年)、「プロ野球編」(95~2003年)までしか知らない、という認識も見えてきて、そこがちょっと切なかった。

ツクイ:「スーパースターズ編」(2004~12年)、「ドリームトーナメント編」(2012~18年)と、むしろそこからの方が長い旅路だったともいえるんですけど。

オグマ:結局、水島先生は描きたいものを描き切ったんでしょうか? 全水島キャラ集合といいながら、ついに「あぶさん」こと景浦安武は登場せず。

ツクイ:先日、『男どアホウ甲子園』を見ていたら、藤村甲子園とは対戦してるんですよね、あぶさん。

オグマ:そうなんです。だからこそ、よけいに謎というか。まあ、『あぶさん』は連載終了後もたまに読み切りを描いているから、実はまだ終わっていない、だから出さない。という見方もできるわけですが。ただ、ドカベン・サーガ最後の対戦が山田太郎vs中西球道だったのは、水島作品ファンとしては「ようやく」と思えた展開でした。むしろ、なぜそのフィナーレを『大甲子園』でやらなかったの? という。30年前に感じたモヤモヤがようやく回収されました。

ツクイ:いずれにせよ、どかんと大きい重石がなくなったという意味では、野球マンガ史において記憶に残る年だったかな、と。

オグマ:ほかに終わって残念だったのは『球場三食』ですね。こちらも野球マンガの大家、渡辺保裕による「球場グルメ」を通したプロ野球讃歌、球場讃歌と呼べるストーリーでした。全4巻でスパッと終わってしまいましたが、最終巻でも「野球はノステルジィを楽しみつつ、未来を見るスポーツだ」といういいセリフがあって、改めて考えさせられる作品でした。


ツクイ:マニアックな球場にも攻めていって、どんどん面白くなっていただけに終了は残念でしたけど、予定通りだったのかも。とにかく、取材を膨大にしているのが伝わってきた作品。

オグマ:プロ野球“周辺”をテーマにした作品は増えていますが、その多くは権利を気にしてか球団名をぼかしがち。でも、選手を揶揄しているならともかく、あくまでも球団周り・球場周りなんだから、実名表記だって大丈夫なはず。そこはちゃんと描いて欲しいし、地名だけを合わせる作品は読者に“変換”を強いるのがストレスでしかない。そんななか、この『球場三食』はちゃんと球団も選手名も、もちろん球場フード名も実名表記。だからリアリティがある。選手の顔が出てこなければ、肖像権の問題もクリアできることだと思うんですけどね。

決定! 今まさに面白い“新たに紹介したい”野球マンガたち
オグマ:では、ランキングなのですが……、普通にランキングを作ると今年も『BUNGO』(二宮裕次/集英社)と『バトルスタディーズ』(なきぼくろ/講談社)をあげてしまいそうで。

ツクイ:わかります。ほかにも、『MAJOR 2nd』(満田拓也/小学館)や『ダイヤのA act2』(寺嶋裕二/講談社)といった、ずっと続いている作品は安定して面白いですから。

オグマ:満田先生の「俺は女の子で野球を描きたいんだ」という情熱だけでいくらでも話が盛り上がりそうです。なので今回は、これまでランキングしていない作品を中心に、「新たに紹介したい野球マンガ」のランキングを作っていきたいと思います。

第1位『忘却バッテリー』


【ストーリー】中学球界で名を馳せた完全無欠のバッテリー、剛腕投手の清峰葉流火と、切れ者捕手の要圭。当然、ふたりには全国の名門校からスカウトが舞い込むも、それらを全て辞退。進路不明になっていた。その理由は、要の記憶喪失。そんなふたりが入学した都立の野球無名高校には、かつてふたりに敗れ、野球を辞めた者たちも集まっていた。

ツクイ:昨年連載が始まったなかでは圧倒的な存在感を放った作品。「少年ジャンプ+で面白い野球マンガがある」と話題になっていたので単行本を買ってみたら、実際に面白かった。書店でも平積みされていて、版元の期待値も高そうです。

オグマ:記憶をなくして……、いう設定はありがちといえばありがちなんですが。

ツクイ:そうそう。いろんなところにベタはあるんだけど、セリフのチョイスがいちいち素晴らしいし、センスを感じる。ベタからの外し方も面白いし、笑えるシーンも多いです。メインのバッテリーふたりはすごく名が知れ渡っているのに熱くなりすぎず、硬派すぎない。野球を知らない人でもとっつきやすいはずです。記憶喪失だから読者と一緒に物語を歩めるよさもある。ドSなキャッチャーとツンデレな1・2番といった、配役のバランスも絶妙です。

オグマ:キャラクターが立ってますよね。一芸がある選手たちが集まりだして、これからの展開も楽しみです。『スラムダンク』が出てきた当初の、予防線としてギャグもやりつつ、でも、競技の魅力をちゃんと伝えようとしているところもあって。

ツクイ:捕球姿勢の描き方など「野球の内容をちゃんと描こう」という意識を感じます。単行本ではまだ公式戦に入っていないので、これからどうなっていくか、に期待ですね。

第2位『なんしょんなら!!お義兄さん』


【ストーリー】傑作高校野球漫画『高校球児ザワさん』の三島衛里子が新たに描くのはプロ野球の世界。お義兄さんは某プロ野球チームの先発投手で1億円プレイヤー。お義兄さんの妹と結婚した“ワシ”の新婚スィートホームに入り浸るようになり……!?全く新しいプロ野球バディコメディー。

ツクイ:正直いってこの作品、どれだけ知られているのか?

オグマ:いやぁ、知られてないでしょうね。自分もサンデー系のWebアプリ「サンデーうぇぶり」でたまたま出会いましたから。しかも、当初はどう読んでいいかわからず。でも、「あ、これって『ザワさん』の続編なんだ!」とわかったときの衝撃といったら。なぜ最初から、「あの『ザワさん』が復活した」と掲げなかったのか。というか、今も正式には掲げてない気もしますが。

ツクイ:たぶん、テコ入れがあったんでしょうね。でも「ザワさんの続編である」というバリューはもっと広く知られるべき。野球マンガファンであっても、(ザワさんが連載されていた)「スピリッツ」読者であっても、ほとんどの人が知らないと思うので、あえての2位にランクインです。

オグマ:それにしても、コージさんはあんなに畜生キャラだったのか、という驚き。そんななかで、鉄オタ友達との友情がまだ続いていたことが救いでした。

ツクイ:そうそう。ザワさんたち野球部のメンバーが出てきたときよりも、あの鉄オタたちが出てきたときのほうが感動しましたよね。現状、不満があるとすれば絵柄がかなりデフォルメされていること。ギャグ路線だからしょうがないのかもしれませんが、もっとカッコイイ野球描写を描いてほしい。

オグマ:もともと『ザワさん』が支持を集めたのは、フェチすぎる野球描写というか、野球女子のフルスイング描写がなんかいい、というところだったはず。ならば、そういった描写もやっぱり見たいですよね。まあ、ザワさんはあくまでも脇役なんで難しい気もしますが。

第3位『湯神くんには友達がいない』


【ストーリー】上星高校に通う湯神裕二は、野球部のエースでありながらクラスでは浮いた存在。「友達はいらない」と公言し、毎日ぼっち生活を満喫中だ。そんな湯神くんの超マイペースお一人様コメディー。落語への愛も抱きつつ、ついに野球も本格開始!?

ツクイ:ずーっとこの企画でランキングに入れたかった作品なんですけど、「本当に入れていいのか?」というジレンマがあって毎回見送ってきました。なぜなら、野球描写がほとんどないから。それがようやく、ようやく真面目に野球をやり始めてくれました(笑)。

オグマ:2012年に連載が始まり、コミックスも14巻にまで達して、ようやく。

ツクイ:今までは野球よりも落語に熱心だった湯神くんがようやく野球をちゃんとやるようになり、大会に出場してノーヒットノーランを達成したりしているので、「これは野球マンガである」とやっと胸を張れるようになった。しかも、意外と野球がうまいんだな、というのもわかって。

オグマ:サンデー公式サイトの紹介ページも、野球感ゼロですからね。

ツクイ:コミックスの表紙も、野球感より落語シーンのほうが目立ってますから。でも、やっぱり「湯神くんが野球部にいる」ということがポイント。彼がもし落語研究部や囲碁・将棋部などだと、ただの偏屈な部員で話が終わってしまうんですけど、よりによってチーム競技の花形である野球部でエースをしている、という部分がキャラクター造形の妙につながっている。そのギャップがあった上で、野球のルーティーンとして「寿限無」をしゃべってから投げると調子がいい、という落語のくだりも回収しているという。いやぁ、ここまで14巻もかかりました。

第4位『群青にサイレン』


【ストーリー】吉沢修二と空はイトコ同士の同学年。かつて空のせいで野球をやめてしまったトラウマを持つ修二だったが、高校の入学式で空と再会することに。体が大きく成長した自分と違い、小さなままの空を見て、「今なら勝てる」と思った修二は野球部に入部することを決める。

ツクイ:サブキャラクター角ヶ谷の過去を描いた9巻。ただでさえ重かった『群青にサイレン』がさらに重くなった巻でした。でも、変に明るくするよりはこっちのほうがこの作品では正しいんだな、ということがわかりました。どんどん背負うものを重たくしたほうが少女漫画誌らしくていいのかな、と思っていたら、掲載誌の「月刊YOU」がなくなってしまって「少年ジャンプ+」に移籍、という。そんな移籍あり!?と。

オグマ:『群青にサイレン』は過去にもランクインしている作品なんですが、今回はこの“掲載誌が変わる”というまさかの新機軸もあって特例でのノミネートです。

ツクイ:内容は面白くなっているし、キャラの掘り下げもより深くなって、いよいよこれからなのに、掲載媒体が変更になって心配。9巻まで「マーガレットコミックス」と書いてあったところに、10巻では「ジャンプコミックス」と入るのか? 「少年ジャンプ+」といえば『忘却バッテリー』もあるわけで、この2作品を競わせるの? ということも含め、いろいろ考えさせられる移籍劇です。

オグマ:うーん……これ、“少年”が読むんですかね?

ツクイ:そこなんですよ。作者の絵柄が馴染んでいるジャンプ読者(※過去に河下水希名義で『いちご100%』を週刊少年ジャンプで連載)の方が読まれるんだ、という編集サイドの考えなんでしょうけど。つまり、そもそもYOUの方が読者層として違いすぎた、ジャンプ読者ならこの作者と野球というテーマをもっと受け入れてくれるはずだ、と。

オグマ:その判断もわからなくはないです。

ツクイ:過去にランキングした際にもいいましたけど、キャッチャーが身に付けるプロテクターの表現にかけては、史上もっとも美しいと思うのがこの作品です。左キャッチャーという設定も面白いし、野球のシーン自体は絵が抜群にうまいので、しっかり狙う方向を定め、長く続いてくれればいいな、と願うばかりです。

第5位『東京野球女子百景』


【ストーリー】野球の上手いおねえさんは、好きですか? twitterでバズった美女×野球の禁断コラボ。あのJKが、あのOLさんが実は野球経験者だったら? 教室、街角、色んなシチュエーションで神プレーを連発。稀代の野球絵師が描く“野球×女の子”新感覚コミック。

ツクイ:『マウンドの太陽』を連載している水野崇史先生が、「日刊月チャン」とい日刊なのか月刊なのかよくわからないサイトで描いています。先ほども話題に出た『ザワさん』で感じていたカッコよさとか、稲村亜美の神スイングを見たときの高揚感みたいなものを、日常風景にいる女の子を通して描いた作品です。

オグマ:はじめはtwitterで話題になった作品なんですね。

ツクイ:普通のOLがショートのゲッツーの動きをカッコよくこなしたらそれだけで素敵でしょ、という。そういうのが延々と続いていく。新しい形の野球フェチズム・マンガかと。

オグマ:なんかボーッと見ちゃうんですよね。『ザワさん』もそうでしたが、なぜ、女子が野球に打ち込む姿にあれだけの訴求力があるのか? なかなかの時間泥棒です。

ツクイ:今年の全体的なトピックスとしては、ネットコンテンツがどんどん増えてきた、ということです。この『東京野球女子百景』もそうだし、今回のランキングでは、「湯神くん」以外、すべてネットで読めるラインナップになっています。他にも、『天に向かってつば九郎』(水曜日のシリウス)もそうだし、少年チャンピオンで連載していた『栄冠は俺に輝け!』が『栄冠は俺に輝け! ワイルドカード』と名前を変えてネット配信の「マンガボックス」に移籍。野球マンガもメインストリームがネットに移ってきたな、と感じる状況になってきました。

オグマ:「サンデーうぇぶり」ではあだち充の名作『H2』が毎日更新されてますし、「今、継続して読める」という枠組みであればランキングしてもいい作品、といえるかもしれない。そうなると、ぶっちぎりの1位になってしまうのですが。

ツクイ:そもそも野球マンガって、例えば『ベルセルク』のように隅々まで没頭して読むタイプではなく、さらっと試しやすい作品。それって、ネットとの相性もいいはず。『H2』なんかまさにそうで、どこを読んでも面白いし、世界観は変わらないですから。今後は、『忘却バッテリー』のようにネット発で話題になったものが、やがて本誌に移籍するとか、『栄冠は俺に輝け!』のように本誌からネットに移って連載を継続したりするなど、いろんなパターンが出てくるはず。様々な成功パターンが増えていけば、もっと続けられる作品も増えて、野球マンガのすそ野も広がっていく。そのうち縦スクロールの作品も出てくるはずで、そのときにコミックス化はどうするのか、とか興味ありますね。

オグマ:縦スクロールだからこそ速く感じるも描き方はあるはずだし、野球との相性は悪くないはず。来年はそんな作品のランキング入りを期待したいです。
(オグマナオト)

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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