市村正親×草笛光子インタビュー 25年ぶりの共演に「絶対面白い作品になると思う」と直感 舞台『ドライビング・ミス・デイジー』

SPICE

2019/1/30 18:00


アカデミー賞をはじめ、数々の賞に輝いた不朽の名作を舞台化した『ドライビング・ミス・デイジー』が2019年6月22日(土)より紀伊國屋ホールにて上演される。黒人のお抱え運転手のホーク役を演じるのは市村正親、ユダヤ人の未亡人デイジーを演じるのは草笛光子。日本の演劇界を牽引してきた二大スターが夢の共演を果たす貴重な公演だ。

2018年の年の瀬、本作のヴィジュアル撮影が行われているスタジオでは、運転手ホーク姿の市村と上品だがどこか気難しそうな老婦人デイジーに扮する草笛が、車の前と後ろに乗っている様子などを撮影していた。

市村が「お客さん、どこまで行くの?」とまるでタクシーの運転手風に遊び出す。草笛はデイジー風に不機嫌な顔で会話を合わせていくが、市村が「お客さん、僕、トイレに行きたいんだけど! 車止めていい?」とふざけだすと「駄目よ! 走ってちょうだい!」と草笛も返して悪ノリ。「お客さーん、漏れちゃうよ!」と市村が悲鳴を上げると草笛も撮影スタッフもたまらず大笑いとなっていた。

撮影がすべて終了した後、二人に話を伺った。

ーー撮影はいかがでしたか? 真剣ながらも楽しそうでしたね。

市村:本当に楽しかったね。

草笛:イチ(市村)の事は知っている仲だから逆に困るんですよ(笑)。

ーーお仕事を抜きにしてお会いする事はあるんですか?

草笛:普段から知っているとはいえ、遊んだりすることはほぼないんです。『ラ・カージュ・オ・フォール』の市村さん初演時以来なの。

市村:お互いの舞台を観に行くとかはあったけどね。

草笛:でも同じ仕事をすることはなかったわね。……私の事、嫌ってるの(笑)?

市村:本当になんでなかったんだろうね。僕がやる舞台って変な役が多いからじゃない?

草笛:私は『ロスト・イン・ヨンカース』や「シックスダンス」(『6週間のダンスレッスン』)とか、ミュージカルじゃない舞台をやっているからあなたのミュージカルの仕事と重ならないのよ。

市村:ドラマとか映像のお仕事もしているじゃない? ニューヨークに行っていろんなお洋服を着たりもしているじゃない。

草笛:写真集の事ね。よく見てるわねえ(笑)。

市村:とにかくお互い忙しいので、飲んだり遊んだりする暇がなかったんだよ。

市村正親
市村正親

ーーお二人のやり取りがすごく楽しくて。お話を聞いているだけで笑顔になってしまいますね。最初に共演した『ラ・カージュ~』の頃からお互いのイメージは変わらないですか?

市村:僕は当時おかま(ザザ/アルバン役)だったけど、今は男になりました(真顔)。

ーーいや、そういう変化ではなくて(笑)!

草笛:凄かったわよ。イチ(市村)の歌の迫力が。あの歌声を聴いて私は頭を殴られたようなショックを受けたわ。で、私はその時「草笛さんは最後にジャクリーヌ役としてステージに登場して、皆の目を全部吸い寄せて『ウワッ!』と言わせてほしい」って当時の演出家に言われたのよ。どうすればそんな事ができるのかって思ってたわ。……あの時は苦しい事もあったけど楽しかったわね。

市村:あれから何年経ったっけ?(数えて)えっ、25年!?

草笛:25年前なの? そんなに仕事では会ってなかったのね。

市村:久しぶりにガッツリ組むんだね、僕たち。

草笛:一度だけ、ホットヨガというものを教えてもらったわよね。

市村:僕が連れて行ってあげて。でもスタジオの中で草笛さんったら「……暑い!」って真顔で言うの。「ホットだからそういうものなんです」って説明したんですが、「暑い! もっと温度を下げて」って。この暑い中で皆ヨガをやりたくて来てるんだから、草笛さんのワガママで温度を下げる訳に行かないんですよ、って言って一時間頑張ってもらったんです(笑)

『ドライビング・ミス・デイジー』という作品にどう挑む?


ーー本作の台本を読んだ時の感想を教えてください。

草笛:今、ゾ~ッとしているんですよ。台本を読んだらあまりにも面白過ぎて! 漫才になっちゃいそうよ。

市村:大丈夫だよ。(演出の)森新太郎さんが漫才にはさせないから。

草笛:あら、そうかしら?

市村:「もっとやれ!」っていうかな(笑)?

ーーこの舞台の話を聞いた時、すでに相手役が市村さんもしくは草笛さんだって事は聞いていたんですか?

市村:聞いていましたね。

草笛:私はこの人(市村)から聞かされたのよ(笑)。プロデューサーからではないの。

市村:「こういう舞台の話があるよ、どう?」ってね。

草笛:……あなたがプロデューサーだったのね(笑)!

市村:プロデューサーもやるし、運転手もするし、トイレにも行くよ(←撮影現場の悪ふざけ再び!)

草笛:……もう、いつもそんなんだから(笑)。だからこの舞台で二人のやり取りが漫才になってしまいそうだって思うのよ!

市村:話を元に戻すと、この台本を読んですぐ草笛さんに「この台本、面白いよ。今から一緒にやるのを楽しみにしています」ってメールを送って。

草笛:凄いのよ。どんどんメールが送られてくるの。後ろから押されているようだったわ。気が早いんだから。

市村:台本を読んで「ああ、これはいい人生だな。これを草笛さんとやれるなんて!」と思ったのでメールでね。

草笛:だから私も台本を読んだの。これは喜劇かしら? と思ったくらい面白かった。
草笛光子
草笛光子

市村:人生は喜劇だからね(ドヤ顔)!

草笛:(笑)。……本当に二人でできるかしら。あなたのそのおかしさに耐えて凛としていられるかしら。それがいちばんの課題ね。今から見えるようだわ。

市村:芝居じゃなく、そのうち普通の生活のように見えてくると思うよ。この作品はそこが面白いんだと思う。

草笛:そうそう、先日の「シックスダンス」でも同じ事を言われたわ。三谷幸喜さんが観に来てくださったんだけど、終わってから「この舞台は台本があるの?」って聞かれたの。「(草笛さんと松岡昌宏さんの)二人が全部アドリブで喋っているのかと思った」って(笑)。だから今回もそうなってしまいそうで。だからなるべく相手の顔を見ないようにしてやろうかと思ってます。ホークと心が通うようになるまでは断固として拒否していないとならないから。私、相手に釣られてしまいがちなのよ。

市村:とにかく僕は僕なりに、草笛さんは草笛さんなりに役を全うしますよ。

草笛:私はこの役と戦わないと! 難しい役ですからね。『ロスト・イン・ヨンカース』の時は一度も笑顔を見せない怖いお婆さんの役で、このデイジーは怖くはないけれど、どちらかというとヨンカースのお婆さんに近いキャラかな。でもイチが面白い事を言ってキャストやお客さんも笑っていると、私もそっちに混じりたいのに、混ざれないのってすごく難しいんですよ。風が吹いている向きに逆らうようなものだから。

市村:人間はいくつになっても青春があるように、デイジーもホークとの出会いで変化する。またそこで青春を取り戻すんですよね。だからいろいろなものに興味を持つし、逆に疑いを持ったりもする。面白い話だよね。

草笛:話はとても面白いんだけど、よく読むとすごく深いところに難しい問題があるので、そう笑ってもいられない。そこが難しいと思うんです。人種の問題だけではないものがあるんです。そんな役を演じる私に何の才があるんだろうって。

市村:昔っから「ああ難しい、私にはこんな役はできないわ」って言いながら結局やっちゃうんですよ、草笛さんという人は。そこは昔から変わらないからね。

草笛:……こうやってイチは人を褒め転がしてダメにするのよ(笑)。

ーー市村さんはホークという役をどう演じようと考えていらっしゃいますか?

市村:ホークの魅力はまだ分からないけど、芝居ではなく自然にホークを演じていけるようにしていきたいですね。……(アメリカの)南部の方に行って、綿を摘みながら『サマータイム』を歌って、バーボンを飲めばホークの気持ちが分かるかな(笑)?

ーー(笑)

市村:冗談はさておき、相手の台詞や生き方を見てホークは反応していく役でもあるから、どうやろうとかが今はないんです。台詞を覚え、作品が好きで、デイジーが好きで、演出家が好きでやっていけば本番までにはたどり着けるんじゃないかな。


日本のミュージカル創世記の舞台裏は……?


ーー演出の森さんとは初めてのお仕事ですね。今はまだ稽古前ですが、どのような話をされてますか?

市村:この前、ミュージカル『生きる』を観に来てくださったんですよ。その時に「市村さんってどうしてそんなに自然に芝居から歌に入れるんですか?」って聞いてきたから(ポンと自分の腕を叩いて)これだよ! って(笑)。

草笛:本当にこの人ってすごいのよ。私だってこの世界で結構頑張ってきたんだけどね。

市村:草笛さんはミュージカル『ラマンチャの男』日本初演(1969)に出演されていますからね。僕はこの時の草笛さんが忘れられないんです。衝撃でした。僕がいちばん衝撃を覚えたのは日本初演『ラマンチャの男』なの。

草笛:それを言い出したら『王様と私』(1973)にも出たし、『ハウ・トゥー・サクシード』(1964)の日本初演もやっているわよ(笑)。

市村:『シカゴ』(1983)もやってたよね、ロキシー役。で、『ラマンチャの男』の時は海外から演出家さんを呼んだんだよね?

草笛:今でも忘れられないんです。演出家が木の棒を持ってきたんですよ。日本人はつい何かあると腰を折ってお辞儀をしてしまうんですが、私が演じたアルドンサは娼婦なので、絶対お辞儀はしない、何があろうとも胸を張っているんです。でもつい台詞の流れで無意識でお辞儀の角度になると木の棒でビシッと叩かれてたんです。だから身体が曲がらないようにコルセットを付けていました。それでもふとした瞬間に腰を曲げてはビシッって。夜に自分の部屋に戻って服を脱ぐとアザがいくつもついていましたね。

あと、芝居で床の上を引きずられる事が多かったんですが、床板のささくれが足にささって。自分でそれを一つずつ抜いていましたね。
草笛光子
草笛光子

ーーええっ! 聴いているだけで痛みが伝わるようです。

市村:僕も『ウエストサイド物語』でよくやってたな。かっこよく滑り込んでくるんだけど、スライディングの時に床板のささくれがいろんなところに刺さって堪えながら抜いてたねえ。僕はもう踊ってないけれど、草笛さんは今も「シックスダンス」でガンガン踊ってるよね?

草笛:あれは踊っているうちには入らないわよ(笑)。お婆さんの踊りだもん。でも今回の作品は歌も踊りもない。手足をもぎ取られてしまったような状態よ。

市村:でも心と魂は取られてないからね(ドヤ顔)

草笛:(笑)。

改めて『ドライビング・ミス・デイジー』の世界へ


ーーでは今回、お二人が共演するにあたり、楽しみにしている事は何ですか?

草笛:やっぱり言葉のやり取りよね。ピタッとハマった時は本当に嬉しいわよね。

市村:普段はなかなか話さないものです。芝居をやっているからこそいっぱい話すし、しかも愚痴とかでなくいい話をしますからね。

ーーお互いについて、役者としてどんな魅力を感じていらっしゃいますか?

市村:美しさでしょ。あと品ね。品があって、頭が悪くって……嘘だよ(笑)!

草笛:私最近すっかりボケてきちゃってねえ。

市村:……前からだよ(笑)!

草笛:必ずそう返すわね(大笑)。私から見たイチは次々といろいろな役をこなせるのがすごい。体力もあるし気力もね。……あなた私のいくつ下だったっけ?

市村:来年(2019年)70歳だよ。

草笛:あら、じゃあまだまだね(笑)。

ーー草笛さん、余裕の発言ですね!

市村:でも70歳くらいならこの役を演じるにはぴったりの年齢でしょ?

草笛:そうよね。そういえば私もぴったりだわね。85歳だし。70~90代のデイジーを演じる事になるからね(笑)。イチは違うと思うけど、私はお婆さん役が多かった。お婆ちゃん、お婆さん、おばば様とかね。でも一人ひとり違う人生だからやり甲斐があるわよ。

市村:背中の真ん中あたりに貝がついてるんじゃない? 「やりがい」って貝が。
市村正親
市村正親

草笛:もう……(笑)。いつもこんな感じなんだから。

市村:自然に笑いが出る稽古場にしたいね。

草笛:でもいい気になっていると、笑いっぱなしになっちゃうのよ私。これは気を付けないと。

ーーお二人の長いキャリアの中で、この作品をどこかで一度はやっているのでは? と内心思っていたんです。相手役は別の方だとしても。ですから、これがお二人とも初めてというのが個人的に意外だったんです。

草笛:この作品はいつかやりたいと思っていた作品なんです。「私がまだやってない役リスト」にずっと入っていて、お婆さんになったら出来る役がこれだ! って思っていたの。そうしたら突然イチから電話が入ってね。「私、やりたいわ」って話をしました。

市村:森さんは「市村さんがやらなそうな役をやって欲しくて」と言ってこの作品を持ってきたんです。「シェイクスピアでもミュージカルでもない違う市村を観てみたい」と。で、台本を読んだらデイジー役は草笛さんがぴったりだなあと思ってね。

ーー役が草笛さんを待っていたのかもしれないですね?

草笛:そうね。やりたい、という希望を持ち続けていると願いは叶うものね。でも森さんは「あなたにピッタリですから」っていうの。こんな謹厳でビシッとした可愛げのないお婆さんよ(笑)?まだ「シックスダンス」のリリーの方がずっと可愛げがあったわね。

市村:今だからの話だけど、この作品を一緒にやりたかった役者さん、他にいたんじゃない?

草笛:いたわね。でもみんないなくなっちゃって(笑)。で、今回イチの名前を聴いて「あ! この手があったか。思いつかなかったー。この役はイチがベストだわって。ちょっと何かがズレているところなど、映画とは違うムードが出てくるだろって。絶対面白い作品になると思うの。勘よ!(市村の顔を見つめて)絶対面白くしてみせるよね?

市村:面白くなるのは当たり前!僕は草笛さんと森さんと一緒にお芝居を作っていけるのが長く俳優をやっていて幸せな事。この時代にデイジーと出会い草笛さんとお仕事ができるのが本当に幸せなんです。

取材・文=こむらさき

当記事はSPICEの提供記事です。

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