インド映画がまたやりおった、印パ対立なのに笑った泣いた「バジュランギおじさんと、小さな迷子」

エキレビ!

2019/1/23 09:45

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、ものすごく真っ当な映画である。世界有数の係争地帯を題材にしてこういう映画が作られたことに、おれはいたく感動してしまった。


正直者の熱血快男児、6歳の少女のために国境を越える!
カシミール山脈にほど近い、パキスタンの山里。そこに住む6歳の少女シャヒーダーは、生まれつき声を出すことができない障害を負っていた。彼女は心配した母親に連れられ、隣国インド領内の霊験あらたかなムスリム寺院へと赴くが、その帰り道に国境付近で母親からはぐれてしまう。

初めてのインド、その上声も出せないシャヒーダーは、ヒンドゥー教の祭礼で賑わう街をさまよう。そんな中で出会ったのが、「バジュランギ(ヒンドゥー教の猿の神ハヌマーンを意味する)」のあだ名で呼ばれる正直者のインド人青年パワンだった。困っている少女を放っておくわけにはいかないとシャヒーダーを一時預かることにしたパワンだったが、ふとしたきっかけでシャヒーダーがイスラム教徒だったことを知り驚愕。異教徒と一つ屋根の下で暮らすわけにはいかないと、彼女を単独でパキスタンに送り返すことにする。

しかし、国境を越えさせると約束した旅行代理店の男は、シャヒーダーを買春宿に売り飛ばそうとしていた。必死にシャヒーダーを連れ戻したパワンは、自分が付き添って親の元へ送り返すことを決意する。かくして密入国&子連れでの、決死のパキスタン旅行が始まった。宗教上の戒律で決して嘘がつけないパワンは速攻でインドのスパイと勘違いされ、パキスタン警察から追い回されることになってしまう。果たしてシャヒーダーは両親の元にたどり着き、パワンはインドに戻ることができるのか。

インドで公開されたのは2015年ということで、日本に上陸するのにちょっと時間がかかった『バジュランギおじさんと、小さな迷子』。主演を務めるのは現在インドで最も売れている俳優の一人であるサルマン・カーンで、歌も踊りも(部分的にはアクション要素すら)盛り込まれたバキバキのインド映画だ。カーンは嘘をつけない超正直者の快男児バジュランギことパワンを熱演。ずっと裸足だったと思ったら唐突に靴を履いていたりと足元が安定しないものの、その偉丈夫ぶりはまさにインドの快男児そのもの。これこそ抱かれたい男である。

それを上回って印象に残るのが、シャヒーダーを演じるハルシャーリー・マルホートラである。大きな目にあどけない仕草、歩いても走っても止まっててもキュートで、シャヒーダーは猛烈な当たり役だ。とにかくこの役を彼女に当てたという時点で勝ちが確定している……と唸るようなハマり具合である。

丁寧に理想を語る真摯さに、おれは泣いた
この2人がインド~パキスタンの国境地帯700キロを旅しながら騒動を巻き起こす。そもそも、インドとパキスタンはその昔はざっくり言って同じ国、一帯全域が英領インド帝国だった。しかし1947年にイギリスからインド帝国の統治権が返還されたことに伴い、ヒンドゥー教徒が多いインドからイスラム教徒が分離する形でパキスタンも独立。それまでヒンドゥーもイスラムも混じって生活していたため、インド領内のイスラム教徒はパキスタンへ、逆にパキスタン領内のヒンドゥー教徒はインドへと大移動することになり、その混乱は数多くの悲劇を生んだ。

その後もインドとパキスタンはカシミール地方の帰属や東パキスタン(のちのバングラデシュ)を巡って3回も戦争を起こし、現在も両国は犬猿の仲である。なんせ宗教が違うので文化や食習慣も全く異なる。日本人からすると同じような雰囲気の人たちが同じようなエリアに住んでいるように見えるが、実際は別の国なのだ。

この対立が如実に現れるのが、クリケットの試合だという。インドもパキスタンも元々イギリス領だったので、両国では現在でもクリケットが盛んだ。このクリケット印パ代表戦の盛り上がりは凄まじい上に国策も絡んでおり、インドで「パキスタンの勝利を祝った」という容疑で逮捕者が出たこともあるとか。

『バシュランギおじさんと、小さな迷子』で重要な要素が、このクリケットだ。シャヒーダーという名前がクリケットのパキスタン代表にちなんだものだし、印象的な場面でクリケットが出てくる。こういう、細かい印パの文化の違いを示すシーンがこの映画は抜群にうまい。シャヒーダーの父がインドについていけない理由も「パキスタンで兵役についていたからビザが下りない」というシビアな内容だし、肉をモリモリ食べるシャヒーダーと信仰が理由で菜食主義を貫くパワンなど食習慣の差を示すシーンも何度も出てくる。

つまり、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』はインドとパキスタンの間の差異や係争に十分自覚的なのだ。そのことはインド国内のシーンではインド映画らしい群舞や歌があるのに、パキスタンへと舞台が移ってからは現実離れしたシーンがほとんどないという点でサラッと示されている。しかし『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、その上を行こうとする。

この映画は、日本人からしてもちゃんとエンターテイメントとして仕上がっている。インドとパキスタンの間の紛争という思い題材を背景にしているにも関わらず、笑って泣けて晴れやかな気分で劇場を出られるし、さらに「ちょっとしたことで、隣国の人々を理解することはできる」「信じる神は違っても、信じる心は皆同じ」というメッセージも嫌味にならずに伝わってくる。印パ紛争という現在進行形の揉め事を題材にしているにも関わらずである。正直、ここまで完成度が高いとは思わなかった。

この完成度と志の高さにこそ、インド映画の足腰の強さが現れていると思う。「隣国とゴタゴタしている」というニュースが世界のいろんなところから聞こえてくる現在だからこそ、インドとパキスタンという世界有数の揉めまくり地帯でこういう映画が作られたことはグッとくる。内容が理想主義的でちょっと優等生すぎるという批判もあるかもしれないが、映画の1本くらいは理想主義を貫いてもバチは当たらないだろう。大げさでなく、「この世界も、まだそこまで悪くないかもな」と思わせてくれる作品だった。
(しげる)

【作品データ】
「バジュランギおじさんと、小さな迷子」公式サイト
監督 カビール・カーン
出演 サルマン・カーン ハルシャーリー・マルホートラ カリーナ・カプール ナワーズッディーン・シッディーキー ほか
1月18日より全国順次ロードショー

STORY
声が出ない障害を抱えたパキスタンの少女シャヒーダーは、願掛けに訪れたインドで親とはぐれてしまう。迷子の彼女を助けたのは、正直者の青年パワンだった。習慣も宗教も異なるシャヒーダーに戸惑うパワンだったが、彼は700キロ離れたパキスタンにシャヒーダーを連れて行き、本当の親を探すことを決断する。

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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