演劇界に漕ぎ出した元SMAPの3人、草彅剛が名作の新たな主人公像を提示する

wezzy

2019/1/16 14:05


 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

2018年も、芸能界ではいろいろな話題がありました。舞台の世界では、ジャニーズ事務所の新旧所属俳優が、ともに世界的演出家の手による新作に主演したことが大きな印象に残っています。現役は、KinKi Kids堂本光一。ジャニーズ事務所といえば社長のジャニー喜多川氏が手がけるミュージカルの存在が知られていますが、その主演を務めつづけている堂本が8月、ミュージカル「レ・ミゼラブル」などの演出家であるジョン・ケアードの演出で、シェイクスピア作品をもとにしたミュージカル「ナイツ・テイル」に出演。ミュージカル界のスター井上芳雄とのダブル主演でした。堂本が新作に出演するのは17年8カ月ぶりであり、同事務所のミュージカル俳優育成を目指す本気度に驚いたものです。
細マッチョで挑む荒くれ者役
 そして「旧」所属俳優は、新しい地図の草彅剛です。元SMAPの3人は、香取慎吾が、かねて深い信頼関係で結ばれている三谷幸喜の新作ミュージカル、稲垣吾郎は渋めの小劇場演出家によるオトナ向けショー作品などと、18年は全員舞台に出演していますが、草彅が選んだのは、フェデリコ・フェリニー二の映画の代表作「道」の舞台版。イギリスやアメリカ、日本でも活躍するイギリス人演出家デヴィッド・ルヴォーが、音楽劇として演出し、年末まで上演されていました。

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同作は1954年のベネツィア国際映画祭で、日本の黒澤明「七人の侍」や溝口健二の「山椒大夫」とともに銀獅子賞を受賞し、57年にはアカデミー賞も受賞している名作映画。ルヴォーの舞台版は日本が初演で、脚本はブロードウェイで活躍するゲイブ・マッキンリーが手がけています。

粗暴な大道芸人のザンパノは、芸の助手にしていた女が死んでしまったため、その妹で頭の弱い、しかし純粋無垢な少女ジェルソミーナ(蒔田彩珠)をわずかな金で買い取ります。キャラバンでの旅回りの途中でふたりはモリール(佐藤流司)が率いるサーカス一座に参加しますが、そこにはザンパノと犬猿の仲である自由奔放な綱わたり芸人イル・マット(海宝直人)がいました。

ザンパノとの旅に未来が見出せないでいたジェルソミーナは、楽器の演奏など芸を教えてくれるイル・マットを慕うようになりますが、ザンパノと彼の喧嘩が警察沙汰になってしまったことから、ふたりは一座と決別。旅を続けるうち、ジェルソミーナはザンパノと夫婦のように寄り添うようになりますが、偶然再会したイル・マットをザンパノが再度喧嘩の末に殺害。ショックを受けて精神的におかしくなり、芸のできなくなったジェルソミーナに苛立つザンパノは、彼女を捨てて去ってしまいます。数年後。ジェルソミーナの末路を、彼女を看取った女から聞いたザンパノはーー。

草彅が演じるのはザンパノ。胸の周りに巻いた鎖を筋肉で断ち切るのが持ち芸のザンパノは、映画版では筋骨隆々の外見ですが、細身の草彅は、かろうじて細マッチョと言えなくもないかな……程度。国民的アイドルだったゆえに強固なイメージの好青年像が覗いてしまうのか、サーカスの観客の前で鎖を切ってみせ吠えても(これまで映画などでは見せたことがないような野太い声が、ただ潰れているだけのように聞こえることも相まって)、根っからの荒くれ者には見えないように思えました。

性のにおいがしなかった理由
 しかしそのぶん伝わってきたのは、ジャックナイフのように(ただし、細いという外見的特徴も大いに影響している気もしますが……)張り詰めた緊張感でした。自分は強いのだと精いっぱい誇示していないと、生きていけないような繊細さと弱さを、鍛えた肉体の奥底に隠し持っているような。ジェルソミーナのトンチンカンな言動に怒り、彼女を怒鳴りつけていても、それは本心からの乱暴さではなく、そうするしか人との接し方を知らないからではと思わせました。

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それを強く感じたのは、眠るときにザンパノがジェルソミーナに命じる「ベッドに来い」のひと言。ザンパノは文字通り体が商品のため、草彅は劇中タインクトップ一枚姿が大半で肌の露出も高いのですが、ジェルソミーナを寝床に呼びつけても、ふたりのあいだにセクシャルな空気がまったくにおわなかったのです。

終盤のジェルソミーナの、「彼と夫婦になってもいい、もう夫婦同然の生活をしているのだから」というセリフから、彼女とザンパノのあいだに肉体関係があることはたしかなのですが、どうしてセクシャルさが感じられないのか。

それは、劇中で心理を明快には語らず、ジェルソミーナへの愛も一切見せないザンパノが、彼女を完全に失ったと知って初めて、孤独と絶望に絶叫する理由とも共通しているのかもしれません。自分を含む誰かの人生を背負う重さには耐えられないけど、そばに誰かにいてほしい。そんな、ザンパノのわがままぶりは、心が子どものままだから。ジェルソミーナへの気持ちは、単純な欲望や恋情ではなく、他者への依存そのものなのかも。

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演者にとって、評価の固まっている名作へ出演することは、チャレンジングでありますが従来の殻やイメージを破るチャンスでもあります。「道」はおそらく、草彅にとってはまさにその機会だったのでは。

ジャニーズ事務所という名前の大きさから、去年もまだ“忖度”という言葉はつきまといましたが、舞台の世界は、芸能界とは少し違った力学が働く場所。19年も、彼らの活躍が楽しみです。

当記事はwezzyの提供記事です。

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