パチンコ衰退の隠れた理由…もっと割が良くギャンブル性の強い“アレ”にユーザ流出か


 先日、ファミリーマートの店頭で変な行動をしている初老の男性を見つけました。レジでタバコを1箱買っては会計し、1箱買っては会計しを繰り返しているのです。それで10回に一度くらい「やったー」と歓声を上げています。この男の行動の種明かしは、このコラムの後半に譲るとして、今回はパチンコ業界の長期的な不況を引き起こしている“見えない犯人”を追及したいと思います。

先にファクトをおさえておきますと、パチンコメーカー各社の今期の業績は回復しそうです。SANKYOは大幅増益、平和も増収増益、フィールズも最終黒字に転換ということで、一昨年、昨年と規制強化のせいで減益に苦しんできた各社が、ようやく少し持ち直しそうだという状況です。

とはいえ、この業績回復の理由は、顧客であるパチンコホールで前回の投資が一巡してまた新台を仕入れなければならないタイミングが来たことが一番大きいようで、決してパチンコ需要が回復したわけではないというところが業界の抱える大問題です。

パチンコユーザー数もパチンコの店舗数も長期トレンドとしては減少傾向が続いていて、業界は確実に長期衰退の道をたどっています。かつては「娯楽の王様」と呼ばれたパチンコが、なぜ今、衰退に向かっているのでしょうか。

パチンコ衰退の最大の要因といわれるのが規制強化です。ギャンブル依存に陥る人を減らす目的で昨年も出玉規制が行われました。パチンコの出玉はそれまで一回の大当たりで2400個だったものが1500個に減り、一時間あたりの出玉率も抑えられました。一昨年時には一日で十数万円稼げたパチンコも、規制後では10万円稼ぐのも難しくなってしまっています。

こういった規制はこれまで繰り返し行われ、結果としてユーザーの大幅なパチンコ離れが起きてしまいました。1994年には3400万人いたとされるパチンコの遊技人口は、直近では約900万人にまで減ってしまっています。

そのため、「パチンコの出玉規制が長期衰退の原因だ」と言われ続けていて、そのこともあってか、2月には逆に規制が緩和されることが決まっています。しかし本当にパチンコ衰退の原因は規制だけなのでしょうか。

●情報弱者人口の減少

どのような商品・サービスにも気づきにくい隠れた競争相手がいて、それが顧客を奪っているという現象は起きています。たとえば最近、コンビニエンスストアのスナック菓子の売上が減っているそうですが、その犯人はスマートフォン(スマホ)らしいといわれています。スマホを触るのに手に油や塩がついているとよくないということで、手が汚れるスナックの売上が落ちているというのです。

パチンコの場合も隠れた競合がいて、パチンコユーザーを奪っているという説が根強くあります。その隠れた競合とはFXです。

そもそも株やFXのような金融商品への投機は、ギャンブル性があるといわれています。なかでも「どちらに動くかランダムである」という特性を持つ外貨に投資をするFXは、短期の売買は確実にギャンブル性を帯びたものになります。

実際に、FXで注文して1分とか、上下10銭とかで損切りすると自分でルールを決めて何回も売買を繰り返せば、FX投資というものはルーレットの赤か黒かに賭ける2分の1の確率のギャンブルとほぼ同じものになるのです。

それでいて外貨というのは突然相場が跳ね上がったりするので、儲かっているときだけはそのままにしておくと、一日に何回か大勝ちすることがあります。これが楽しくてFXにのめり込む人というのが結構います。

そして、おわかりのとおりFXはパチンコと違いわざわざ外出しなくても、すきま時間にスマホで楽しむことができます。さらにいえばFXにかかるコストは、多くのFX会社が取引手数料を無料にしている関係で、外貨を買うスプレッドだけ。米ドルで遊ぶ(?)場合は大手のFX会社のスプレッドが0.3銭ですから、取引でもっていかれるのはわずかな金額だという“競争相手のギャンブルにくらべて胴元の取り分が少ない”という利点があります。

パチンコの控除率はお店によっても異なりますが、だいたい10%といわれています。競馬の20%や宝くじの50%よりも還元される金額がいいというのが、パチンコの魅力だったのですが、FXをそれと競合するギャンブルの一種だと考えると、パチンコよりもさらに控除率が低く割がいいということになります。

こういう言い方は、金融業界の方にとっては「違う!」と言いたくなるのはわかりますが、現実にはギャンブルと金融商品への投機はサービスとして競合しています。一旦、金融商品で儲けることを覚えた人たちは、

「ギャンブルのように、うまみが小さい遊びには飽きてしまった」

などと言うのも本当の話です。

結局のところ、パチンコの長期衰退にもこの理由が関係しているようで、今残っている遊技人口は、こういう金融商品への投機のうまみを知らない情報弱者と、ほかにやることがない高齢者、そして純粋にパチンコという遊技が好きな根強いファンが中心になっているのだといわれています。

●ずっと割のいいギャンブル

そのなかでも、スマホの普及にともなう情報弱者人口の減少は、パチンコ業界の一大脅威です。ちょっとした儲け話があると、情報が一斉に広まって、これまでだったら気づかない層が、その儲け話に動くという社会現象が起きています。

その典型例として、冒頭の初老のおじさんの行動について解説しましょう。これは昨年12月上旬にいきなり始まった、ソフトバンクグループのスマホ決済PayPay(ペイペイ)の「100億円あげちゃうキャンペーン」に関係したもののようです。

彼が繰り返していたのは、PayPayが使えるファミマの店頭でタバコの購入を繰り返すというもの。普通に買っても440円のタバコ購入で、20%の88円が還元されます。さらにソフトバンクユーザーなら10回に1回は購入金額が無料。この10回に1回無料という条件には実にギャンブル性があります。

仮にこの初老のおじさんがソフトバンクユーザーだったとした場合のギャンブルとしてのリターンを計算してみました。10回に1回は440円が無料、それ以外の場合は20%分88円が戻ってくるのですが、パチンコの代わりにこれだけを繰り返していれば、上限の25万円分の購入に到達するまで568回はこのゲームを楽しむことができます。

これだけの回数を繰り返せば、数学の授業で教わった大数の法則が利いてくるので、当選回数は確実に10分の1の確率に近い回数稼げます。この場合は、ほぼ50回は当たることになるでしょう。計算してみたらこのおじさん、上限金額までタバコを買い続けたとしたら、20%の還元分と10回に1回全額当たる還元分で7万円は儲けられる計算です。

たばこは自分で吸うのかもしれませんが、一箱400円に値引きすれば周囲にいくらでも買ってくれる人はいるはずです。ちなみに、たばこの無許可販売は違法ですが、コンサートチケットの転売同様、あまりまじめにこの法律は取り締まられていない様子です。仮にたばこを全部値引き転売してしまったとしても、手元には5万円残る計算。そう考えるとパチンコで一儲けするよりも、ずっと割のいいギャンブルだとこのおじさんは考えたのではないでしょうか。

とはいえもっと目端が利く人なら、PayPayでiPadなど換金率の高い大型商品を購入して、そのままメルカリで売るなどもっとダイナミックな金儲けを行っていたはず。そう考えればこのおじさん、元情報弱者で、仲間から教えてもらった方法をそのまま愚直に楽しんでいたのでしょうか。

つまり最大の問題は、かつての情報弱者がだんだん情報弱者ではなくなってきているということです。そのことが、パチンコよりも楽しい実質的な「ギャンブル行為」が増えているという情報拡散につながって、パチンコ遊技人口を長期的に減らしていることだとは考えられないでしょうか。規制強化は遊技人口減少の一因でしかないという点にこそ、現在のパチンコ業界が抱える長期衰退の難しい原因が、横たわっているのではないでしょうか。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

●鈴木貴博(すずき・たかひろ)
事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『ぼくらの戦略思考研究部』(朝日新聞出版)、『戦略思考トレーニング 経済クイズ王』(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。

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