新天皇が即位する前に、新元号を発表してしまう安倍政権の大問題/倉山満

日刊SPA!

2019/1/14 08:30



― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

◆今年は平成最後の年となる。さて、そもそも改元とはどんなときに行われるか?

いよいよ、平成最後の年となる。我が国で4番目に長い元号だ。

我が国で最も長い元号は、昭和の64年。次が明治の45年。ここまでは日本人ならば誰でも知っている。では3番目となると、よほどの歴史通でなければ出てこないだろう。応永の35年だ。室町時代の元号で、西暦で言えば1394~1428年にあたる。明治に一世一元の制、「一人の天皇の代に一つの元号」という制度が定められる以前では、最も長い。ちなみに5位(前近代での2位)が延暦の25年、6位(同じく前近代の3位)が正平の24年であり、30年続いた元号は応永のみである。

では、なぜ応永の元号は長くなったのか。時の権力者に振り回されたからである。

応永は、足利三代将軍義満と、息子で四代将軍の義持の二人の時代の元号だ。最初、義満は応永から別の元号に改元しようと朝廷に提案したが拒否された。これに怒った義満は意趣返しで自分の生きている間は、改元を許さなかった。継いだ義持は応永の元号に愛着を抱いていたらしく、これまた改元をさせなかった。

また、元号が政争の具と化した例もある。戦国乱世を収束させんとした織田信長は、上洛した際に「天正」の元号を提案した。文字通り、「天に代わって世を正す」の意味である。自分の力で乱れた世の中を正そうとする、実に信長らしい元号だ。しかし、室町幕府十五代将軍足利義昭に拒否された。義昭は信長に擁立された将軍ではあるが、傀儡になる気はない。信長が望む「天正」の元号を認めれば、世の中の中心が信長であると認めることとなる。義昭とて自分を将軍にしてくれた実力者の信長に感謝し、あらゆる名誉と利権を提供したが、元号だけは許さなかった。

天正の元号は、信長上洛から5年後、義昭を京都から追放した時にはじめて実現した。信長はこの元号に愛着を持ち、信長存命中は朝廷の誰も改元を申し出なかった。天正こそ日本が信長の天下であることを示す元号だったのだ。

さて、そもそも改元とはどのような時に行われるか。天皇の代替わり、吉事があった時、凶事があった時、干支のめぐりあわせである。これらの建前の下で、朝廷と時の権力者の思惑で行われてきた。

改元は本来、天皇の大権である。しかし、実態は時の権力者の思惑に左右され続けてきた。最も蔑ろにされてきた天皇大権であると評しても過言ではない。だから、改元に際して多少のさざ波が立とうとも、それだけで天皇の権威に瑕がつく訳ではない。その程度で皇室はビクともしないのだ。

だが改元を利用して、意図的に天皇や皇室の権威を貶めようとする者がいたら、国民はその者の名を心に刻まなければならない。

明治以降、改元の規定は皇室典範で定められていた。それが敗戦に伴い旧典範は廃止され、元号は成文法上の根拠を喪失、慣習法として存立してきた。

こうしたことから、元号廃止運動が学界や言論界を中心に盛り上がり、逆に元号法制化運動も自民党を中心に進められた。結果、元号法が定められ、成文法としての根拠を回復することとなった。この法律はたった2条だけである。

第1条 元号は、政令で定める。

第2条 元号は、皇位の継承があった場合に限り改める。

読めばわかるように、一世一元の制の成文化である。天皇の代替わりの時にしか改元できない。そして現行法では、新元号の発表は代替わりの後にしか行えない。

昭和から平成への改元も、そうだった。昭和最後の1年間、先帝陛下は重病に苦しまれ、いつ「その日」が来るかと日本中が心配した。そして昭和64年1月7日に崩御。同日、今上陛下が践祚(せんそ。天皇の位を受け継ぐこと)され、同日に政府が発表、翌日から施行された。

もちろん政府は事前に新元号を用意していたのだが、公表は新帝践祚の後だった。時の竹下登内閣は、人としての道理を知っていたからだ。

一世一元の制の現代において、元号はそのまま天皇の贈り名となる。お亡くなりになられた後に贈られるから、贈り名である。天皇陛下は存命中、「今上天皇」としか呼ばれない。昭和天皇、大正天皇と名前で呼ばれるのは崩御の後である。世の中には日本人としての素養がない人がいて、公共の場で「平成天皇」を連呼する御仁がいるが、「勝手に殺すな!」と言う他ない。

改元大権を持ち出すまでもなく、新しい元号は新帝の元号なのである。だから、新帝が位に就かれた後にしか、公表してはならないのである。

竹下登と言えば「中国に日本を売り飛ばした政治家」としか言いようがないが、それでも日本人として最低限の尊皇の心はあった。

では、安倍晋三は? その背後に隠れている役人たちは?

現在の元号法を読めば、新帝践祚(正確には、現行法では即位)の前に新元号は公表できない。

ところが、安倍内閣は「事前公表」に拘っている。中心人物は杉田和博官房副長官だと報じられている。警察出身で内閣人事局長を兼ね、官僚機構全体に睨みを利かす実力者と評判だ。だが、安倍だの杉田だの、小物はどうでもいい。安倍や杉田を走狗にする政府の黒幕こそ、問題だ。どんな理屈だか知らないが、政府は事前に公表しても違法ではないとの解釈に立脚しているようである。

どうしても事前公表したいのなら、現行法を改正するなり、いっそ一世一元の制を廃止してからにすればいい。時間などいくらでもあった。それをあえて選挙で選ばれた国会議員による立法ではなく、政府の官僚による解釈で行おうとする。

その意図は明々白々だ。一つ、真の立法権は国会議員ではなく官僚にあると知らしめること。一つ、天皇の元号ではなく、政府の元号であると見せつけること。要するに、法の解釈を握るものは、政治家よりも、そして天皇よりも偉いのだと、権威を見せつけようとしているのだ。

では、解釈を握る政府の官僚とは誰か。天皇ロボット説の総本山、内閣法制局である。その長官は横畠裕介。この男、自分は天皇を超える「法王」とでも思っているのか。

だが、国民は皇室を蔑ろにするものを見逃しはしない。賢明な国民は、黒幕が誰かを知っている。

安倍内閣よ、逆賊となるなかれ。

【倉山 満】

憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス「倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数

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