天皇陛下ご一家のみなさまが、優れたクラシック音楽演奏者でいらっしゃる理由


 夏のフィンランドで、親しい友人家族が小さなボートで海辺にあるコテージに連れて行ってくれた時のことです。周りには海と森以外、何もありません。

「こんな場所なら、夜の星空がきれいでしょうね」と聞くと、返事は意外なものでした。

「やすお、フィンランドの夏は日が長いから、夜に星は見えないよ」

なるほどと思いました。夜が来ないことには、星はみえません。そういえば、緯度が高く夏は日が長いヨーロッパでは、花火は夏ではなく、冬に行うことが多いのです。大みそかのカウントダウンのあと新年を迎えた瞬間、各地で花火を盛大に上げるのがヨーロッパの名物になっています。

特に、ロンドンの国会議事堂前のテムズ川沿いで上げられる花火は有名で、日本のニュースにも毎年取り上げられています。新年になった0時ちょうどに一斉に上げられるので、ものすごい量の花火です。一般でも、盛大に打ち上げ花火を上げる家族も多く、日本のように除夜の鐘で静かに年を越すのとは違い、大騒ぎの年明けです。

実は、18世紀のイギリスでも、テムズ川沿いで花火を上げていたようです。しかも、音楽付きでした。これは、当時の英国もかかわっていた、オーストリア継承戦争(1740~48年)終結のための条約を結んだ翌年、英国国王ジョージ二世が記念式典を行った際に、メイン・イベントとしてテムズ川沿いの庭園で花火を計画し、そのための音楽を、1685年のドイツ生まれで、イギリスで活躍した有名な作曲家・ヘンデルのに依頼しました。そこで生まれた名曲が『王宮の花火の音楽』です。

残念ながら当日の花火自体は失敗に終わり、建物のひとつが焼け落ちてしまうという散々な結果だったようですが、今風にいえば、“光と音楽のイリュージョン”のような企画で、それを18世紀にやろうとした国王の斬新なアイデアに感心します。それから15年後の1764年頃には、かのモーツァルトがロンドンに約1年半住んでいることからもわかるように、英国は産業面だけでなく芸術面でも発展しており、音楽を王室も高く評価していたことがよくわかりますし、現在の英国王室メンバーも、さまざまな音楽団体の名誉総裁を務めるくらい熱心です。

さて、今年は今上天皇陛下が退位され、現在の皇太子殿下が即位される大切な年となりますが、実は、皇太子殿下はオーケストラ演奏がお好きです。殿下は、ビオラを巧みに演奏され、最近でも昨年12月9日に、ご出身校の学習院大学OB管弦楽団の定期演奏会にご出演されたそうです。ちなみに、雅子妃殿下はフルートを演奏なさるそうで、ピアノ演奏も巧みな皇太子殿下とフルート・デュオをされたこともあるようです。そこに、皇后陛下のご趣味であるハープを入れると、素敵なフランス音楽のトリオができます。秋篠宮紀子妃殿下もベートーヴェンの難曲『ワルトシュタイン・ソナタ』を素晴らしくお弾きになられる腕前ですし、天皇陛下のチェロとともに、ブラームスの『チェロ・ソナタ』を演奏されたら、素晴らしい演奏会になることは間違いありません。

日本の皇室の方々は、積極的に演奏会を鑑賞されることも知られており、1500年以上続く世界最長の家系というだけでなく、世界でもまれにみる“音楽ファミリー”でもあるのです。そこには、王侯貴族は、音楽をはじめとした、さまざまな教養を身につけていなくてはならないという、ヨーロッパの伝統的な習慣がその根底に流れています。

●ヨーロッパ王室と音楽

ところで、ヨーロッパの王室に深くかかわりのある楽器をご存じでしょうか。それは、意外に思われるかもしれませんが、実はジャズでも大活躍の「トランペット」なのです。特に中世では、王様が入場する場合にのみ演奏が許されていた国があったくらい、トランペットが王室の権威を表す特別な楽器だったことは確かです。そんな役割もあり、当時のトランペット奏者は演奏上の失敗は決して許されなかったようです。そのため、エリートばかりでプライドもとても高かったそうです。

その後の作曲家たちも、トランペットの特別性をしっかりと認識していました。たとえば、19世紀の作曲家・チャイコフスキーのバレエ『白鳥の湖』の1幕と3幕は、トランペットをはじめとした金管楽器を多用して、宮廷の場面を表現しています。ヨーロッパの人々は、トランペットの音色を聴くと王侯を連想するのです。ちなみに、第3幕は王子の嫁探しの場面で、各国の王女や貴族の娘が次々に登場するのですが、必ずトランペットがファンファーレを演奏します。バレエはセリフがないので、どんな身分の方なのか、衣装を見てもよくわからないことも多いのですが、トランペットが観客に“高貴な人物”であることを教えるわけです。

さて、ヘンデルの『王宮の花火の音楽』も、トランペットが主役の音楽です。ジョージ2世も、「弦楽器を使わずに、管楽器と打楽器だけの音楽を作曲せよ」と命じる念の入れ方でした。それほどトランペットが王室の楽器としてシンボル化されていたのです。

そういえば、英国のチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式の際も、英国の作曲家・クラークのトランペット音楽が花嫁入場に使われ、英国王室の威厳と結婚式の華やかさを演出していました。

そんなトランペットを、独自の使い方をしたのがベートーヴェンとシューマンでした。ベートーヴェンはトランペットによって民主化思想を表し、シューマンは長い冬の後の“春”を表現しました。同じドイツ人ですが、自分にとって一番高貴で大切なものをトランペットで表したのです。それ以降、トランペットの表現の可能性は大きく広がり、ジャズ・トランペット奏者は、自分のソウルを一番大切な物として楽器を吹くわけです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

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