「子どもの学力は親の学歴&年収で決まる」の“まやかし”…非認知能力と学力に相関関係


 毎年、全国の小・中学生が受ける「全国学力テスト」。県別のランキングが公表され、大阪市長がこの結果を教員のボーナスに反映させると発言して、議論を巻き起こしているが、同時に「保護者に対する調査」も行われていることはあまり知られていない。実は、この保護者に対する調査の結果からは、家庭環境と学力向上との関係性や、子どもの学力を伸ばす要因が読み取れる。今回は、2017年度に実施された調査結果をもとに、子どもの学力に影響を与えるいくつかの要因について紹介する。

●そもそも「全国学力テスト」や「保護者に対する調査」とは?

全国学力テストは、正式には「全国学力・学習状況調査」といい、文部科学省が小学6年生および中学3年生を対象として毎年実施している“調査”だ。国語・算数(数学)・理科の3科目の学力テストと、子どもたちの生活習慣や学校環境に関するアンケート調査を行っているほか、数年に一度「保護者に対するアンケート調査」も行われている。2回目となる2017年度の保護者調査は、テストを受けた小6と中3の保護者から無作為に抽出された12万人を対象に実施された。その結果は「子どもの学力は親の年収や母親の学歴で決まる」などと大々的に論じられ話題になったので、目にした人も多いかもしれない。しかし、ほんとうにそうなのだろうか。

今回は、2017年度に行われた保護者に対するアンケート調査の結果についてお茶の水女子大学がまとめた「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究(以下「調査研究」)」から、保護者と子どもの学力との関係性について考えてみたい。

●「子どもの学力は『母親の学歴』で決まる」は本当?

まず、先ほど紹介した「子どもの学力は親の年収で決まる」という関係についてだが、この調査では、家庭の社会経済的背景として、家庭所得、父親の学歴、母親の学歴という3つの変数を合成した指標(SES:Socio-Economic Status)を4段階にわけて分析している。その結果、小6、中3とも、いずれの教科、問題においても概ね世帯収入が高いほど子どもの学力が高い傾向がみられるということがわかったとされている。

ただ、これはあくまで「親の所得や最終学歴と学力とが相関関係にある」というだけで、所得を高めれば子どもの学力も上がるという因果関係を証明しているものではない。また、一部の記事で、『子どもの学力は「母親の学歴」で決まる…?』という見出しとともにこの調査研究の内容がレポートされ、子育て中の母親たちにも衝撃を与えたようだが、これも同じだ。

所得の高い親は塾や予備校などにもお金を費やせるだろうから、その子どもは学力を高めやすい状況にあるのかもしれないし、子どもへの働きかけは、自分の経験によって異なってくるといったことは想像できる。特に子どもと接触時間の長い母親の影響は、父親より大きいかもしれない。

しかし、さらに調査研究を読んでいくと、別の面が見えてくる。それは、所得や親の学歴が高い層に比べて低い層では、学力のばらつきが大きいということ。裏返せば、所得や学歴といった「環境」に学力が決定されるのではなく、不利な環境を克服し、高い学力を達成している児童生徒も一定数存在することを示唆している。そこに、子どもの学力を伸ばすヒントがあるのではないか。

●親の収入や学歴と関係なく、親の関わり方などが子どもの学力に影響

この調査では、学力の高い子どもの家庭ほど、子どもの時間の使い方をコントロールして計画的に勉強させるだけでなく、本や新聞等の活字文化や、外国語や外国の文化に触れる機会を意識的に作っているなどのほか、下の表にある行動をとっていることが明らかになっている。

これらの行動を見てみると、保護者からだけではなく、子どもからの働きかけも多いといえる。つまり親のほうから一方的に勉強や成績・進路などの話をするのではなく、子どもからも働きかけができる親子関係であることが、子どもの学力向上に有利に働くのではないか、ということだ。

●今注目の「非認知スキル」が高い子どもは、学力が高い

それでは、不利な環境でも学力が高い子どもの家庭では、どのようなことをしているのだろうか。

調査研究では、大都市で経済的困難等を克服している家庭の特徴として、「毎日子どもに朝食を食べさせている」「携帯電話やスマートフォンの使い方についてルールや約束をつくっている」「子どもに本や新聞を読むようにすすめている」「子どもと読んだ 本の感想を話し合ったりしている」「子どもと何のために勉強するかについて話している」「美術館や劇場、博物館や科学館、図書館に行く」「蔵書数、子ども向けの本の数ともに多い」が挙げられている。所得が高く学力の高い家庭と同様の働きかけを行っているのだ。

さらに、この調査研究のなかでは「特に困難を抱える」と思われる子どもたちのなかで学力が高い子どもたちを「resilience(レジリエンス:柔軟さ・回復力)」というワードを用いて「Resilient students」と定義し、Resilient studentsの持つ特徴についても以下の4つをあげている。

一つ目の「非認知スキル」とは、「忍耐力」「意欲」「協調性」「粘り強さ」「目標への情熱」などといった、数値で測ることができない能力をいう。最近は学力やIQなどの数値で測ることのできるスキルだけではなく、非認知スキルを子どもが幼いうちから身に付けさせることの重要性が世界的に注目されているが、この調査研究でも、非認知能力と学力には相関がみられた。

非認知能力を高める親の関わりとしてもやはり、「毎日子どもに朝食を食べさせている」「子どものよいところをほめる等して自信を持たせるようにしている」「子どもに努力することの大切さを伝えている」「子どもに最後までやり抜くことの大切さを伝えている」「地域社会等でのボランティア活動等に参加するよう子どもに促している」の5項目があがっていて、子どもの好奇心を引き出したり、学習活動を促すような働きかけを積極的にしている家庭では学力が高いという結果が出ている。

しかも、親の所得や学歴が相対的に低い場合でも、「非認知スキル」を高めることができれば、学力を一定程度押し上げる可能性があると論じている。これらの結果から、親の所得や学歴が高いから子どもの学力が高くなるのではなく、子どもの生活環境を整え、子どもとよく話をし、知的好奇心を刺激するような働きかけをすることが、非認知能力を高め、結果的に子どもの学力にも影響を与えるのだといえるのではないだろうか。

●「父親の帰宅時間が遅いほうが子どもの学力が高い」は本当か?

また、この調査では、保護者の帰宅時間と子どもの学力の関係、保護者の単身赴任と児童生徒の学力との関係も見ていて、一部報道では「父親の帰宅時間が遅いほうが子どもの学力が高い」「父親が単身赴任している家庭の子どもは学力が高い」と報じられ、父親不在のほうがいいのかと話題になった。

しかしこれは、もっと深読みをする必要がある。確かに、父親の帰宅時間と子どもの学力について見ると、22 時以降(早朝帰宅を含む)という家庭の子どもの学力がもっとも高く、母親の帰宅時間については「就業していない」と「16 時より前」の家庭の子どもの学力が、相対的に高くなっている。

これによって、父親不在のほうがいいと言うのは乱暴だ。父親に関しては、帰宅時間が遅いという層が所得や学歴が高い家庭である可能性もあるし、母親は、特に所得や学歴が高い家庭では「就業していない」の割合が高いので、相対的に所得の高い家庭だから学力が高かったという可能性は高い。

あおり気味の情報を鵜呑みにするのではなく、この調査で浮き彫りになった、「子どもの学力が伸びる家庭でやっていること」をよく読んで、取り入れてみてはどうだろうか。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表)

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