“男はつらいよ”がボリウッド映画になった!? 感涙作『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

日刊サイゾー

2019/1/11 19:00


『男はつらいよ』シリーズの主人公・寅さんが迷子の女の子と出逢い、彼女の家を探して旅を続ける。インド映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』のストーリーを、思いっきりざっくり説明するとそんな感じだ。“インドの寅さん”ことバジュランギおじさんは、根っからのお人よし。たまたま自分になついた女の子を連れて、インドの首都デリーから国境を越えてパキスタンまで700kmの旅をすることになる。行く先々で毎度のように大騒ぎを起こすが、最後にはみんなが“インドの寅さん”のことが大好きになる。お正月くらい、こんな映画を観てもいいんじゃないかという気にしてくれる、踊りあり、笑いあり、ホロリありの感涙作なのだ。

寅さんが柴又帝釈天(もともとはヒンドゥー教の武神)で産湯に浸かったように、バジュランギおじさん(サルマン・カーン)も信心深い。ヒンドゥー教徒である彼は、孫悟空のモデルとも言われる猿の神さま・ハヌマーンを信仰している。浅草の雷門みたいなところで、ハヌマーンを讃えて踊っていたバジュランギを見て、迷子の女の子シャヒーダー(ハルシャーリー・マルホートラ)は「この人は絶対にいい人!」と直感。バジュランギの後をついていく。困ったバジュランギは、シャヒーダーを警察に預けようとするも、彼女は口が不自由なため警察はまともに対応しようとしない。幼いシャヒーダーを放っておくこともできず、ひとまず下宿先へと連れて帰ることに。

下宿に戻ったパジュランギはびっくり。クリケットの国際大会のテレビ中継を大家一家と一緒に観戦していたところ、シャヒーダーはパキスタンチームが得点すると大喜びする。シャヒーダーはパキスタン人だった。しかも、シャヒーダーがモスクで祈りを捧げていたことから、イスラム教徒であることも発覚。国籍も宗教も異なるシャヒーダーの家を探そうとしていた自分のおめでたさに、愕然とするバジュランギだった。

寅さんにマドンナがいるように、バジュランギにも想いを寄せている美女がいる。下宿先の大家の娘ラスィカー(カリーナ・カプール)に男としての度量の大きさを見せようと、「ハヌマーンさまが見守ってくれるさ」と何の手掛かりもないままシャヒーダーを連れてパキスタンへ向かうことに。しかも、諸事情あって旅券もお金もないまま、パキスタンに密入国する。インドからのスパイに違いないとパキスタン警察に追われるバジュランギは、冒険を楽しむかのようにニコニコ顔のシャヒーダーの手を引いて、珍道中を繰り広げるはめになる。

“インドの寅さん”バジュランギは、旅を続けることでいろんなことを学んでいく。パキスタン警察から逃れるためにモスクの中に隠れようとするが、扉の前で一瞬ためらう。バジュランギは敬虔なヒンドゥー教徒だからだ。イスラム教の礼拝堂に、他教徒が足を踏み入れていいものかと。そんなバジュランギを、老司祭は「モスクはあらゆる人を歓迎します。誰でもいつでも入れるよう、モスクの扉は鍵が掛かっていないんです」と温かく迎え入れる。バジュランギが旅に出ることなくインドで平穏に暮らしていれば、ずっとそのままだっただろう、イスラム教徒やパキスタン人に対する誤解や偏見が少しずつ消えていく。そして、その分だけ、シャヒーダーの故郷へと近づくことになる。

インドの人気俳優サルマン・カーンは、アクション映画『タイガー 伝説のスパイ』(12)でも本作を撮ったカビール・カーン監督とタッグを組んだ。『タイガー 伝説のスパイ』はサルマン・カーン扮する凄腕のスパイ・タイガー(寅さん)が、パキスタンの女スパイと禁断の恋に陥るというラブロマンスものだった。印パ戦争やカシミール紛争など争いが絶えない隣国パキスタンとの政治問題を、一般市民レベルでより掘り下げて考えてみたのが『バジュランギおじさんと、小さな迷子』だと言えそうだ。

もともと宗教は慈悲の心で他者と接することを説いていたはずなのに、いつの間にか神さまの呼び名の違いや形式の違いを咎め、争いが起きるようになった。ヒンドゥー教の熱心な信者だったバジュランギが、イスラム教徒のシャヒーダーと仲良くなったように、もっと大らかでズボラでもいいんじゃないだろうか。インド版『男はつらいよ』を見ながら、そんなことを考える。

マッチョなアクションスターとして人気だったサルマン・カーン。本作でもインド相撲クシュティーを披露する場面があるが、これまでとは違った父性を感じさせる抱擁力のあるキャラクターに挑戦した。困っている人、泣いている子どもを見つけたら、自分のことは後回しにしてしまうイノセントな存在だ。サンマン・カーンやカビール監督が、『男はつらいよ』を観たことがあるかどうかは分からない。でも、寅さんが旅先でバジュランギおじさんと出逢ったら、きっと言葉の壁を軽~く乗り越えて意気投合し、朝まで呑み明かすことだろう。騒ぎすぎて、とんでもないことになるはずだ。『男はつらいよ』の公開50周年となる2019年正月に、インドから粋な客人が現われたことを歓迎したい。
(文=長野辰次)

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
製作・監督・脚本/カビール・カーン
出演/サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプール、ナワーズッディーン・シッディーキー
配給/SPACEBOX 1月18日(金)より全国順次ロードショー
C)Eros international all rights reserved.C)SKF all rights reserved.
http://bajrangi.jp

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

あなたにおすすめ

ランキング

もっとよむ

注目ニュース

もっとよむ

あなたにおすすめ