社会学者・古市憲寿氏が、テレビで売れっ子なワケ――「カネより友達」発言に感じた甘さ


 羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます

<今回の有名人>
「結局、友達じゃないですか?」古市憲寿
今夜くらべてみましたSP』(日本テレビ、1月1日)

番組名は失念したが、オードリー・若林正恭が、かつて「ほかに本業があってバラエティに出ている人はずるい」という意味の発言をしていたことがある。

芸能人が芸能人にかみつくと、番組は瞬間的には盛り上がるかもしれないが、芸能界のチカラ関係に巻き込まれ、格下の方に仕事がなくなることにもなりかねない。しかし、例えば、西川史子のように、医学といったほかの仕事がある人は、失業の危機におびえないでつっこんでいける。その結果、そういう人が芸能人として評価されることが納得いかないというような話だった。

若林が言うところの「ほかに本業がある人」で、今、最も評価が高いのは、古市健寿氏だろう。野田内閣、安倍内閣で懇親会メンバーに選ばれた気鋭の社会学者だが、最近では情報番組やバラエティ番組に多数出演しており、初の小説『平成くん、さようなら』(文藝春秋)では芥川賞候補にノミネートされるなど、マルチに活動を続けている。

『ボクらの時代』(フジテレビ系)で、作家の林真理子センセイ、新潮社の出版部部長・中瀬ゆかり氏と鼎談に臨んだ古市氏は、『とくダネ!』(フジテレビ系)にコメンテーターとして出演し続けるわけを「バイトみたいに、『この日からこの日まで海外に行くんで』とか、自由にシフトを組めるんですよ」と、テレビ出演に意気込んでいるわけではなく、気軽なバイト感覚だと説明した。

気負いがないせいだろうか、サッカーのワールドカップ直前には、フジテレビが中継をするにもかかわらず、同番組で「僕は、ワールドカップは見ない」と発言し、話題を呼んだ。

テレビでは、どうしてもMCの意向に沿った発言をすることが求められるため、古市氏は空気が読めないかのような印象を与える。しかし、トータルで考えると、古市氏の発言がネットニュースになれば、本人や番組の名前があちこち拡散される。また、芸能人でないことを考えると、ギャラもそこまで高くないだろうし、芸能人ではないわけだから、芸能界のしがらみにとらわれなくて済む。となると、古市氏は、安い投資で番組を宣伝してくれ、かつ安全という、ある意味、一番の番組思いの青年と言えるのではないだろうか。

また、古市氏がリア充志向でないのも、時代に即している。かつて古市氏は『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、「子どもも性行為も汚いから、嫌い」と発言して物議を醸したことがある。学者がテレビに出て、芸能人の彼女でも作ろうものなら、調子に乗ったリア充扱いされて、叩かれそうだが、この発言が本当なら、女性との交際は無理だろう。古市氏に好感を持つ若者の視聴者は多そうだ。

さらに、古市氏の魅力の1つとなっているのが、彼が男性であることではないだろうか。古市氏は『保育園教育義務化』(小学館)という書籍を出版している。日本には三歳児神話があるため、「子どもが3歳になるまで、母親がずっとそばにいるべき」という主張が蔓延し、そのせいか保育園に子どもを預けることを、いまだに「かわいそう」とみなす人はいる。そういった主張に、女性の学者やママタレントたちが異議を唱えてきたが、男性の学者がこのエリアに立ち入るのは、非常に珍しいことではないだろうか。研究者の古市氏は、データをもとに、保育園での良質な教育が子どもに充実した人生をもたらすと著書で繰り返し書いており、単なる個人の意見でないことに救われた女性は多いだろう。

男性と女性がまったく同じ主張をしても、受け止められ方は同じとは限らない。例えば、日本は料理などの家事を女性がすべきものという刷り込みが強い国だが、「女性だからといって、料理をしなくていい」と女性が言うのと、男性が言うのでは、女性からの好感度が高いのは、後者ではないだろうか。女性が「女性だからとって、料理をしなくていい」と言った場合、その発言を聞いた女性は「この人はそういう意見なんだな」と受け止める。しかし、男性が「女性だからといって、料理をしなくていい」と言った場合、それは単なる意見を超えて、「自分は女性に料理などの家事の献身を求めない、フラットでリベラルな人間である」という人格のアピールにもなるからである。

■視聴者を暗くさせない、古市氏の“若さゆえの甘さ”

しかし、古市氏の最大の魅力は、別のところにあると思う。

古市氏は元日放送の『今夜くらべてみましたSP』(日本テレビ系)に出演し、HKT・指原莉乃、フリーアナウンサー・羽鳥慎一と「いくらお金があったら、安心か」について話していた。羽鳥アナはお金に頓着がなく、「ないなら、ないなりに生活できる」と将来に不安はない様子。指原は旅行や物に興味はなく、実家を新築したことと、60歳から10万円もらえる保険にお金を使っていると語った。一方の古市氏は、「結局、友達がいるかじゃないですか?」「助けてくれる友達がいるかどうか」と最終的に頼れるのは、カネではなくヒトであると結論づけた。カネがあれば安心できると言われたら、芸能人より低収入であろう一般人は、下を向くしかないため、この発言に好感を抱いた視聴者は多いだろう。

が、私の感想は「若いな」である。ここで言う若さとは、年齢ではない。変化についての想像力がないという意味である。中瀬ゆかり氏は、ウェブサイト「AERA.dot」の連載「50代ボツイチ再生工場」で、古市氏について「得意技はお金持ちのジジババを転がすこと」と書いている。古市氏は、LINEをやっていないジジババ世代に、アプリをインストールしてあげることでホットラインを築き、食事にこぎつけて、ごちそうしてもらっているそうだ。『今夜くらべてみましたSP』での「助けてくれる友達」とは、こういうお金持ちのことを指すのかもしれない。確かにお金持ちと友達でいれば、有形無形の支援が望めるだろう。

しかし、問題は古市氏が助けを求めるくらいの窮地に陥った時、そのお金持ちが今と同じように古市氏と交際してくれるか、という点ではないだろうか。古市氏は「メリットのない人とは、付き合わない」と公言しているが、「相手も自分と同じように、メリットを感じない人とは付き合わないかもしれない」という想像力を持たないようだ。相手の視点で物を考えないあたりに、未熟という意味の若さを感じずにいられない。元光GENJI・諸星和己といった、社会現象を巻き起こすほどのスーパースターたちは「売れなくなったら、1人残らず人がいなくなった」と一様に話すが、カネと友情はある程度連動している。カネがある(いい仕事をする)と友達も多くなるが、カネがなくなると友情もやせ細るのが世の中というものではないだろうか。

けれども、この若さゆえの甘さが、古市氏最大の魅力でもあると思う。あまりに現実的すぎるコメントでは、視聴者が暗い気持ちになってテレビを見たくなくなってしまうのだ。

チョコレートが大好きで、家の冷蔵庫にはチョコレートしかないと『ワイドナショー』で発言していた古市氏。人生のほろ苦さを無視したセミスイートなコメントが、彼の持ち味なのかもしれない。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
ブログ「もさ子の女たるもの」

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