元カレにとって「忘れられない女」になる唯一の方法

少女マンガ研究家の和久井香菜子さんが、マンガの登場人物にフォーカスし、恋愛を読み解いていくこの連載。
イケメンキャラや恋愛模様に萌えつつ、ちょっぴり自分の人生を一緒に見つめていきましょう。

第9回目のテーマは『僕等がいた』の矢野元晴と高橋七美です。

ひとりの人と添い遂げたい?多くの人と恋愛したい?

みなさん、「忘れられない人」っていますか?

残念ながら私はいないです。良くも悪くも、はい。別れたあとに「クソだったなあ」と思ってもすぐ忘れちゃいます。名前すら覚えてない人も何人かいます。

昔、バイト先のお姉さんが、大学で初めて付き合ったカレと結婚することになりました。その時、「失恋とかしたことないんで、泣きながら失恋ソングとか聴いてみたかった」などと贅沢なこと言っていたんですよ。

初めての人と結婚することになっても、他の男性との恋愛を経験していないことに思いを残したりするんですね。まあ結婚した後に失恋する可能性もあるので、あれからチャンスはあったかもしれないですけどね。

最初からひとりの人と人生を添い遂げるのが幸せか、多くの恋愛を経験するのが幸せか、それが問題だ……。

最初っから大当たり引けばいいけど、そんなの宝くじ並みの確率だと思うんです。自分にどんな人が合うのかも分からないし、自分がどんな道を歩むかも分からない。結局、いろんな人と関わって探していけばいいんじゃないかな。

……とは言うものの、あんまり辛い思いはしたくないから、少女マンガ脳としては「最初にいきなり素敵な王子様と出会って添い遂げたい」んですよ。というわけで、高校でめちゃくちゃ気が効いてて女子モテする男子に出会っちゃったお話が『僕等がいた』です。

 

とにかく魅力的な矢野

・あらすじ
主人公・七美が高校に進学したところから物語は始まります。同じクラスで出会ったのが、矢野元晴。なんとクラスの女子の3分の2が一度は好きになったことがあるほどのモテ男だそうな。矢野はお調子者で軽く嘘つき。でも、話が面白くて、気遣いもできる。こりゃモテるに決まってるでしょ!

最初は矢野にいいイメージを抱いていなかった七美だけど、彼と関わっていくうちに、実はいざというとき頼れる人だということがわかってきます。

七美が文化祭の準備でミスをしたときは

「大丈夫 何かあったらオレが責任取るから おまえは何も心配すんな」
(責任を感じてどうしようか悩んでいる七美に矢野がかけたセリフ・1巻より)

とか言って、ホントに解決してくれちゃう。こんな頼れる彼氏がいたら、浮気しませんよ!矢野、かっこよすぎです。

いつも明るくみんなから頼りにされている人気者の矢野。だけど、実はめっちゃでっかいトラウマ抱えてます。

得てして大道から外れることなく、失敗や傷を負ったことがない人は、人の痛みが分からないもの。痛みを抱えた上で明るく装う矢野は、人間として奥深そうで、ちょっとメンヘラ気味ともとれるけど、めっちゃくちゃ少女マンガ脳を刺激してくれますね!

しかし、少女マンガでは許されない展開に

さて、文化祭の告白タイムで無事に七美とくっついた矢野。しかし、その後矢野は親の離婚が理由で転校することに。結局七美と矢野は離ればなれになってしまいます。

しかも、このあとに矢野はなぜかプッツリと七美と縁を切ってしまうんです。嗚呼遠距離の末に行方不明って、いったい矢野になにがあったのでしょう……?

読んでいると、「矢野が七美に冷めたわけじゃない」ことはなんとなく想像がつきます。
なぜかというと、心変わりした、もっといい女が現れた、若気の至りの遊びだったという展開は少女マンガでは許されないからです。「転校して離ればなれになって音信不通になった」のには何か事情があるに違いないんですよね。「現地に彼女が出来て毎日楽しくてヤッホー」とかじゃお話にならない。

何かのっぴきならない事情があるからこそ、音信不通なんて悲しい事件が許されるんです。

で、矢野にはやっぱりそれなりの理由があったみたい。

七美と矢野がお互い「忘れられない人」である理由

それにしても「別れた相手が自分を忘れられずに待っている」なんて少女マンガ脳がビンビン刺激されますね。相手にとって「忘れられない人」になるとか、ちょっと勲章ものじゃないですか。矢野と七美は、そんな関係だったようです。嗚呼羨ましい。

だけどご存じでしょうか、実はこれを実現する方法があるんです。一度別れた相手とヨリを戻しやすくする方法。

それは、「別れるときにいい顔をする」です。泣いたり叫んだり、怒ったりして相手をウンザリさせず、いい思い出にしておく。たったこれだけです。別れ際にいい印象を残しておく、ということ。

七美も、転校する矢野を引き留めなかったし、音信不通になったときも探そうと思えば探せたけれど、していないですよね。

つまり、七美と矢野はいい思い出ばかりが残っているわけです。引き際で取り乱さずに余裕ぶっこいてると、男は「また戻れるかな」って思うことが多いみたいですよ。

知り合いに、何人もの男性を手玉に取ってる女性がいます。彼女の恋愛スタンスは「来る者拒まず、去る者負わず」。去って行く男を笑顔で見送るんだそうです。「あら、他の女の子が好きなの? そう、じゃあ行っていらっしゃい」って。

そうやって都合のいい女を装っていると、相手はその居心地の良さが忘れられず、また帰ってくるそうです。

和久井も付き合っていた男性と別れる際に「楽しかった、ありがとう」といい人ぶってみたら、いけしゃあしゃあとその後連絡が来たことがあります。

一方で「二度と私に関わるな」と言った相手からは絶対に連絡が来ないです。男性も出来ればイヤな思いはしたくないでしょうから、別れ際にいい印象を残すと、相手を追いかけたくなるのでしょう。

そう、相手を引きずらせてモテる気分になりたいときや、本当に好きな相手とは、にっこり笑って別れるに限るんです。辛かったり苦しかったりする気持ちは、ほかで晴らします。七美も同級生だった竹内くんと上手くやってましたもんね。

……というのは、かなりうがった考えだけど、矢野と七美みたいにお互いが「この人」って思える相手と巡り会えたらいいですよね。そのためのほんのりした小細工は大目にみてもらいましょう。

WRITER

  • 和久井香菜子
  •        

  • 大学の社会学系卒論で「少女漫画の女性像」を執筆、以来少女マンガ解説を生業にする。少女マンガの萌えを解説した『少女マンガで読み解く乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。視覚障害者によるテープ起こし事業「ブラインドライターズ」運営。

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