テレビ東京プロデューサーが明かす、『家、ついて行ってイイですか?』がおもしろい理由


1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』(高橋弘樹著、ダイヤモンド社)の著者は、大学卒業後に入社したテレビ東京で、13年にわたりドキュメント・バラエティーなどを制作し続けている人物。

現在は、人気バラエティ『家、ついて行ってイイですか?』のプロデューサー・演出を担当しているそうです。

ご存知の方も多いと思いますが、これは終電を逃した人に「タクシー代をお支払いするので、家、ついて行っていいですか?」と声をかけ、OKがもらえたら家までついて行って話を聞くという番組。

実は個人的にも大好きなのですが、その魅力は、「市井(しせい)の人」のなかにある真実を映し出してくれるところにあります。

つまり、誰にも知られていない「普通の人」のなかから、驚くようなトピックやドラマが引き出されるからこそおもしろいのです。

そのため当然のことながら、著者は「どうやったら魅力的に描けるか」ということを、ひたすら考え続けているのだといいます。

ところが、入社するまで映像をつくった経験はなく、入社後にマーケティングを勉強したこともないのだというのですから意外。

そのため、「人々にまったく知られていないおもしろさ」を発見し、それをより多くの人に観てもらうために企画書を書き続け、番組をつくり続けてきたというのです。

そうした経験に基づくエッセンスが詰め込まれた本書が目指すのは、「圧倒的実用力」。読んだあと「やる気が出た」「変わった気がする」などと思ってもらうことではなく、「リアルに強力な武器を得た」という状態になってもらいたいという思いが根底にあるわけです。

「1秒たりとも、飽きないで観てもらいたい」

テレビマンはいつも、そう思ってテレビ番組を作っています。 なぜなら、テレビとは、世の中でもっともいらない業種。 常々、そう思っているからです。なくなっても誰も困らないからです。

米や電気と違って、テレビがなくなっても、お腹が空いたり、体調が悪くなったりして、生命の危機にさらされるようになるわけではないからです。とりわけ、テレビ局のバラエティ制作部門というのは、世界でいちばんいらない職業なんです。

しかし、だからこそ、常に「おもしろくするためにはどうしたらいいのか」、そのプロフェッショナルになろうと努力します。 だから、「1秒」にこだわる。

どの業界よりもシビアに、1秒単位で「興味をもってもらう」「飽きさせない」ことに徹底的にこだわって突き詰められた技術は、本来そこまで突き詰める必要がない「テレビ以外のコンテンツに導入すれば、圧倒的に差別化する武器になります。(「はじめに」より)

しかもその技術は、低予算で知られるテレビ東京に勤めながら著者が生み出したもの。いわば、デメリットをメリットに転化させてきた実績がベースになっているのです。

そのためここに書かれていることは、予算の有無に関係なく、あらゆる業種に応用することが可能だといいます。

きょうは「伝え方」に焦点を当てた第4章「1秒も離さず常に興味を持ってもらう12の技術」のなかから、「設定力」に関するポイントを引き出してみましょう。
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1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術
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「市井の人」を見たい理由


著者はここでまず、『家、ついて行ってイイですか』に出てくる「市井の人」を見たい理由を述べています。さまざまな番組のロケを通じ、「誰にでも人生ドラマがあり、それを胸に抱えて生きているものだ」と感じた経験がベースになっているというのです。

納得できる話ではありますが、とはいえ、それを視聴者が同じように「見たい」と思うとは限りません。だとすればまず必要になるのは、「見たい」と思わせる「設定」だということになります。

逆にいえば、ここさえ押さえておけば、まずは第一段階をクリアしたことになるということ。この設定が「ないコンテンツ」と「あるコンテンツ」とでは、おもしろさが明らかに違うのだといいます。

『家、ついて行ってイイですか』でいえば、その設定は「終電を逃して、まだ街にいる人」

・「人の家を見せてもらう番組」

・「終電を逃した人の家を見せてもらう番組」

(228ページより)

どちらも同じ「市井の人」ですが、その「市井の人」の「どの瞬間」を切り取るかによって、視聴者が抱く興味の度合いがまったく異なってくるということ。

さらには「方法」も、設定をつくり込む手段のひとつ。たとえば、この番組のルールのひとつが「即興」なのだそうです。

・「終電を逃した人の家を見せてもらう番組」

・「終電を逃した人の家を、いますぐ見せてもらう番組」

(228ページより)

こうして見てみると、後者のほうが緊迫感に満ちていることがわかります。同じ市井の人でも、「どの瞬間」「どういう手段」で切り取るかによって、興味の高まり方が違ってくるわけです。

まずはこれが、「まったく知られていないものの魅力」を描く際の、もっとも大切な武器のひとつ。対象そのものにはじめから食いつけなくても、設定がつくり出した「状況」に興味を持ってもらうという、フィクションではごく普通に用いられる技術だといいます。

たとえば、無職の女と、他人に構われることが嫌いなサラリーマンが、従業員と雇用主という肩書きの契約結婚をして同棲を開始。

しかし、次第にその女性の優しさと気配りに心を動かされ、結果彼女いない歴36年にして男に恋愛感情が芽生え、本当の夫婦として暮らすことに。

11歳年下という設定のみくり役・新垣結衣が可愛すぎるでおなじみの『逃げるは恥だが役に立つ』。 タイムラグのある世界を生きる男女の体が、ある日突然入れ替わり、巨大な彗星が落ちるでおなじみの『君の名は。』。

軍事政権が支配している日本で、海に囲まれた無人島に閉じ込められた中学生42人が、最後のひとりになるまで殺し合いを強要されるという、胸糞の悪さでおなじみの『バトル・ロワイヤル』。

ドラマ・マンガ、アニメ、小説・映画、とさまざまな分野で近年ヒットした作品ばかりですが、「さりげなく萌え」だったり「SF的」だったり「恐怖」だったり、物語において、単純な日常ではなく、「非日常へと誘う設定」が重要な役割を果たしています。

『家、ついて行ってイイですか?』の「終電後」もこれです。(229~230ページより)

「設定力」が武器になる


とはいえ日本におけるノンフィクションのドキュメンタリーの場合、こうした「設定」を用いる手法はあまり使われないのだそうです。

なぜなら日本のテレビ局のドキュメンタリーの担い手は、ほとんどが報道畑だから。著者が所属する「制作局」という部署で、ドキュメンタリー的な番組を制作することはまれだというのです。

しかし、だからこそ、この「設定」という手法が、ドキュメンタリーにとっての大きな武器になるということ。

ドキュメンタリー番組だけではありません。「まったく知られていないものの魅力」を描くという場合、ドキュメンタリー以外のノンフィクション的要素の強いバラエティ番組でも、ネット記事でも、PR企画でも、「設定」は興味を持つ人を広げてくれる、強烈な武器です。(233ページより)

ただしノンフィクションの場合はフィクションとは異なり、すべての「設定」を自由に駆使できるわけではないのだそうです。

特に『家、ついて行ってイイですか?』のように即興性と偶然性を大きな演出の柱としている番組において、使える「設定」の武器は「シチュエーションの設定」「手段の設定」のみ。

しかも常に視聴率という結果を求められるゴールデンという時間帯では、「まったく知られていない市井の人の魅力」を描くだけでなく、ちゃんと数百万の人々に、しかも毎週観てもらう必要があります。

だとすればそのために、なんらかの武器が必要となることは当然の話。

そんななか、制作局という部署にいて「設定」という武器の使い方を学んだバラエティの経験が大きく役立ったというわけです。(226ページより)

「シチュエーション設定」も重要


ちなみに、当初は「深夜に終電を逃した人」という設定だった『家、ついて行ってイイですか?』には、その後「祭りの後」や「銭湯から出てきた風呂あがりの人」「昼に居酒屋で飲んでいる人」という「シチュエーション設定」も加わりました。

著者によれば、そのすべてに共通しているのは、日常と非日常の「間」をつくる力のある瞬間を切り取るということ。これらの「瞬間」はどれも、「人の心が開放的になっている瞬間」を狙ったものだというのです。

「祭り」はアドレナリンが大量に分泌され、普段とは違う高揚感を得られる時間。「風呂あがり」は逆に、副交感神経が優位となってリラックスしている、日常のなかのちょっとした非日常的な瞬間。

昼から居酒屋で飲んでいる人も、「昼に飲む」という解放感やアルコールも手伝って、ちょっとした「非日常」気分にあるときだということです。

いきなり出会ったテレビカメラに、すぐになんでも明け透けに話せる人など、そうそういるものではないでしょう。視聴者にしても、なんでもない場所でインタビューされている人が「なにかを赤裸々にしゃべってくれそうだ」などとは期待しないはず。

しかし程度の差こそあれ、日常のなかにある「非日常」を丹念に見つけ出し、その「シチュエーション」「設定」として武器にすることによって、普段ならなかなか語ってもらえないことを話してもらえるようになるというわけです。

「見たことないおもしろいもの」を描くために「ストーリーづくり」に苦心したとしても、誰にも見てもらえず、ただ自己満足しているだけでは無意味。より多くの人に見てもらおうとするのであれば、「設定がすべて」だということです。(234ページより)


本書は、テレビマンのためだけに書かれたものではありません。動画コンテンツをつくっている人、ネットで文章を書いている人、商品のPRや広報の方、営業や企画職に就いている方、プレゼン力を磨きたい方など、それぞれのニーズに合わせて書かれていると著者は言うのです。

必要な章から読むことも可能なので、興味を持ったページを開いてみれば、そこから新たななにかをつかむことができるかもしれません。
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Photo: 印南敦史

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