エンパシーがダイバーシティへの第一歩になる/佐久間裕美子さん[インタビュー]

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2018年11月29日・30日、トランクホテルで開催されたビジネスカンファレンスMASHING UP。1日目、ヤフーの西田修一さんとともに「ダイバーシティをブームで終わらせない方法」を語り合ったのは、ニューヨークを拠点とするライターの佐久間裕美子さんです。日本のダイバーシティに感じる問題点や、アメリカ中間選挙を経て思うことについて、セッション終了後にお話を伺いました。

「みんな特殊だよね」と思えたら


———セッションでは「自分はマイノリティなのでは? と感じた経験が、ダイバーシティを自分事として考えるきっかけになる」という佐久間さんの言葉がとても印象的でした。日本ではダイバーシティというと、セクシャリティの問題として捉えがちだともおっしゃっていましたね。

佐久間さん:宗教的・人種的ダイバーシティがほとんど目に見えない日本ならではだと思いますが、ダイバーシティの推進がなぜ必要かというと、マジョリティに合わせられない人がいる、という前提で、誰もが幸せに生きていける社会を作るため。それがセクシャリティに限られてしまうと、おおかたの人が「自分とは関係ない」と思ってしまう気がして、そこは問題かなと思っています。

アメリカでは白人の男性、日本の場合は“スーツのおじさん”たちが社会のルールを書いてきたことを考えると、「自分は多数派ではない」「大多数のやり方に合わせられない」という経験は、みんな何かしらあると思うんです。女性であることはもちろん、いじめられたことがあるとか、難病を抱えている、家族が闘病しているといったことで、マイノリティ性を感じることもあると思います。
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私自身も「#metoo」が起こるまで、あまりダイバーシティを意識せずにきてしまいました。わかっていなかった人間が、だんだんわかってきたなかで思うのは、誰もがみんな違うし、ダイバーシティの一員なのだということです。

どうしてもセクシャリティの問題は、「特殊な」人の問題として、他人事と捉えられがち。でも「みんな少しずつ違うよね」と思えたら、もうちょっとダイバーシティが進むんじゃないかなと思うんです。

ダイバーシティとエンパシー


———ダイバーシティを推進するために、セッションでは「ダイバーシティが経済的にプラスになる」と示すことで企業を動かすという、ヤフーの西田さんの取り組みを紹介されていました。ダイバーシティを自分ごとにする原動力として、ほかにはどんなものがあると思われますか?

佐久間さん:アメリカでは最近よく「empathy(エンパシー)」という言葉がキーワードになっています。すごく日本語にしづらいんですけど、共感とか同情とか、そういう訳し方しかできないんだけれども、「人の痛みを想像する」ということだと思うんですよね。

たとえば隣に住んでいる人がマイノリティ性を持つ人だったら、その人の置かれている立場や、社会における疎外感みたいなものが、ちょっと想像できるかもしれません。
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MASHING UPのセッションでは、ヤフーの西田 修一さんとともにダイバーシティについて語り合った。

私がこんなふうに考えるようになったのも、親しい友人にゲイがいたとか、そういうことの積み重ねでしたから。そこは生身の人間との触れあいが力を持ちます

結局「多様性」の逆に何があるかというと、「偏見」じゃないかと。たとえば女性同士が愛し合うことについて、特殊なことで自分とは関係ないと思っている人は多いけれど、そういう人はみんなが思うより近くに存在するし、たくさんいます。そういうことが鍵なのかな、と思うんです。

中間選挙で起きた確かな変化


———佐久間さんの前作『ピンヒールははかない』には、ニューヨークで自分らしい生き方を探す女性たちの姿が生き生きと描かれていました。佐久間さんがおっしゃる“生身の触れあい”のような、友達の友達の話を聞いているような感覚があって、ダイバーシティをリアルに感じた方も多かったのではないかと思います。

そして新著『My Little New York Times』には、2017年7月5日から365日間にわたる佐久間さんの日記がまとめられています。11月には中間選挙もありましたが、この激動の1年をどうご覧になりましたか。
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佐久間さん:考えてみると「#metoo」が始まったのが2017年の秋なんですよね。ある日ボストン・グローブを読んでいたら、友達のモデルの女の子が「#metoo」を告発していて、びっくりして。彼女はそれを今までひとりで抱えて、誰にも言えずに生きてきたのかと思ったら、本当に悲しくて、つらかったです。

彼女のように勇気ある女性たちが立ち上がり、その過程で男女の賃金格差であるとか、色々な問題が明らかになった。トランプのような人が大統領になったことや、苦しんできた女性たちの存在があったからこそ、中間選挙でもあれだけの女性が選ばれたのだと思います。

史上初のネイティブ・アメリカンの下院議員、初のゲイ知事、初のイスラム教徒女性の下院議員、女性最年少の下院議員(29歳のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス)、初のレズビアン市長も誕生して、「#metoo」はセクハラを超えた運動に進化しています。

思いの積み重ねが社会を動かす


佐久間さん:『ピンヒールははかない』も今回の『My Little New York Times』も、直接ダイバーシティだったり、トランプや「#metoo」の動きだったり、社会的なことを伝えようと思って書いたわけではないんです。身近な人たちの面白い話や、自分の日常で起きたことを書いたら、じつはそれが社会や政治につながっていて……なんていうのかな、「みんなの苦労があったからこそ書けている」というか。それぞれが勇気を持って言葉にするつらい思いの積み重ねが大きなストーリーになっていって、だんだん社会が変わっていくということがあるから、なんとなく前には進んでいるよね、という気持ちでいます。
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生きるって、やっぱりけっこう大変だから、つらいことはシェアしたほうが楽だとは思う。ただ「#metoo」やセクシャリティについては、声を上げた人がいる一方で、言えないと思っている人もたくさんいます。それをオープンにすることでどういうことが起きるのか、他人には想像することはできても、感じてあげることはできないから。本当に難しいですよね。

でも、そういう人がいるのだということを、みんなが想像すること。そして、もう少しアイデンティティのことを、みんなが言いやすい社会になったらいいなと。それがダイバーシティの第一歩になると思っています。

佐久間裕美子さん(sakumag.com ライター)
1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。著書に「My Little New York Times」(NUMABOOKS)、「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社) 。慶應大学卒業。イェール大学修士号を取得。


撮影/野澤朋代、間部百合(セッション写真)

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