ゴールデン・グローブ賞授賞式直前!是枝&キュアロン監督も参加したシンポジウムで潮流を読む

Movie Walker

2019/1/6 21:45

今年のアメリカ映画界の賞レース動向を占う上で最も重要な賞であるゴールデン・グローブ賞の授賞式を控え、ハリウッド外国人記者協会主催の外国語映画賞シンポジウムが開催された。シンポジウムには、日本から『万引き家族』(公開中)の是枝裕和監督、メキシコから『ROMA/ローマ』(Netflixにて配信中)のアルフォンソ・キュアロン監督、ドイツから『Never Look Away(英題)』のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督、レバノンから『Capernaum(原題)』のナディーン・ラバキー、そしてベルギーから『Girl(原題)』(初夏公開予定)のルーカス・ドン監督の5監督が登壇した。

満席の会場から大きな拍手で迎えられた監督たちは、司会者からそれぞれ質問を受けた。『ROMA/ローマ』のキュアロン監督には「どうしていま、自らの家族の物語を描いたのか」という質問が寄せられ、「“家族”というのは現在の世の中で唯一機能している組織だから」と答え、いまこの題材を選んだ理由は、「年齢的なこと」であり、「自分が何者であるか、どこからきたかを悟り、自分自身の物語に向き合うことができた。物語の80%~90%は私とリボ(主人公クリオのモデルになった実在の家政婦)の記憶から作られているけれど、この映画はストーリーが重要な作品ではなく、思い出やテーマを描く作品だとはっきりしていたので、この時代の状況に合うように創作している部分もある。だが、いいかな。思い出とは最大の嘘だ(場内笑)。少なくとも、これらの嘘はリボと姉たちとは共有されていたものだ。だから、実際に起きたことそのものとは言わないよ」と、今作は自伝ではなく、半自伝的作品であり、史実を語ることに重きを置いていたわけではないと述べた。

同じ家族の物語でも、“疑似家族”を扱った『万引き家族』については、司会者から「どうしてこのような物語を描きたいと思ったのか」という質問が寄せられた。是枝監督は、「この10年間ファミリードラマをやってきた中で、血縁を越えて繋がろうとする人たちの物語をやってみたいと思った。血縁以外で繋がるとしたら何だろうかと自分なりに考えたことがスタートでした」と答え、「彼らが報道という形で世間に知られるようになったときに、おそらく私たちは『あんなもの家族ではない』と批判し、劇中同様に家族は解体されていくと思う。では、私たちが彼ら以上に深い繋がりを持っているのか、と映画の登場人物から逆に問いかけられるような作品を目指した」と続けた。

また、リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林らのアンサンブルキャストに賞賛を送り、彼らとの映画づくりについての質問が寄せられた。是枝監督は、「普通は時間軸に沿って撮影しますが、実は海のシーンがキャストが揃って撮った最初のシーンだったんです。その時に撮ったシーンの役者の演技を観てイマジネーションを膨らませて脚本を書くという特別なやり方をしています」と制作秘話を明かした。この回答に満場の会場からは大きな拍手が起きた。続けて、「その映像を繰り返し観ながら、演出するというよりは“発見していく”作業がありました。海のシーンともうひとつ、土砂降りのシーンもそうで、子どもたち2人と『とりあえず走ろう』と雨の中を走って帰った時に、家で親たちがなにをしていたらおもしろいだろうかということを、走るシーンを撮ってから考えました。こういう撮り方を許してくれる役者とプロデューサー陣に支えられてできた方法でした」と明かした。

質問が樹木希林の醸し出す家族の暖かさに及ぶと、「希林さんの話をすると長くなってしまうのですが」と前置きしたうえで、「台本を読んで現場に来られる前に、『この映画はあなたが人間の肉体を撮ろうと思っている映画だということがわかったから、私の役割としては老いた肉体を晒す必要がある。入れ歯を外すことと、髪の毛を洗わずに伸ばしたい』と提案があり、そのまま役作りに反映していただきました。僕以上に僕がこの映画でやろうとしていることを鋭く把握して、それを自分の役作りだけでなく作品全体の演出に関してもフィードバックしてくれる役者がいるというのは、監督にとって幸せな環境だと思います。その彼女が昨年の9月に亡くなってしまい、喪失感からどうやって次の作品を撮っていくかということをこの先考えなくてはいけない。とても良い、役者と監督の関係を超えた共同作業がこの作品では実現できたと思います」と一気に語った。

この会話を聞いていたキュアロン監督は、「最初の撮影の時から希林さんは、彼女の役が死ぬことを知っていたの?」と質問。「海辺のシーンが、彼女が登場する最後のシーンになるということは知っていました。海辺で口元が微かに動くんですが、僕はセリフを書いていませんでした。『ありがとうございました』と、海辺で遊んでいる血のつながらない家族を見ながら呟くのは、希林さんのアドリブです。撮影中も気づかなくて、編集の時に『なんて言っているんだろう』と探ってみたら、感謝の言葉を呟いていた。そこから逆算して、家族の物語を考えていきました。脚本を書いてはいましたが、希林さんが脚本を完成させてくれたという感じです」と是枝監督は静かに語った。

カンヌ国際映画祭にてカメラドール(最優秀新人賞)ほか4冠を受賞している『Girl』は、バレリーナを目指す少年と父親の関係を描いている。ルーカス・ドン監督は「09年に会ったある親子が強い印象を与え、この映画を作りました。苦悩の中に幸せを求める彼女だけでなく、彼女のアイデンティティがどうであれ心から子どもの幸せを願う父親のあり方に、感銘を受けました。今まで映画やメディアで描かれてきた父親像は問題を抱えたものが多かったけれど、この映画の中の主人公と協力的な父親の関係が、実在する親子の関係、そして僕自身と父親の関係へのオマージュになっています。そして、LGBTQ映画で描かれる親子関係が問題を含むものばかりでないことに、大きな喜びを感じています」と語り、会場からは大きな拍手が贈られた。

今年の候補作にはプロの役者を使わずにフィクションを描いた作品が多く選ばれた。『万引き家族』の子どもたち、『ROMA/ローマ』で家政婦のクリオを演じたヤリッツァ・アパリシオは中学校教師、そしてバレリーナになることを夢見る少年と家族を描いた『Girl』の主人公は、役者ではなくプロのダンサーだ。レバノンの貧困地域で生きる少年が両親を相手取り、自分を生んだ罪で訴訟を起こす『Capernaum』の主人公は、シリア難民で演技初心者の12歳の少年が演じている。ナディーン・ラバキー監督は、「主人公の少年だけでなく、この映画に出てくる登場人物すべてが役者ではありません。すべての人が、それぞれの物語や悩み、表現方法を持って参加してくれました。私たちは撮影においてお互いを認め合う作業をし、監督の私が物語を作るのではなく、それぞれのやり方で表現できるよう監督が手助けしたまでだと思っています。私たちは全員が映画を撮るというミッションの一員で、全員がコラボレーターでした」と、リアリティを追求した演出方法について語った。

ゴールデン・グローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会は、ハリウッド映画を世界に伝えるために尽力してきた外国人記者たちによる組織だ。彼らが自国やその他の国から逆輸入でハリウッドに観て欲しい、知って欲しいと願う作品を候補作として選んでいるとすると、世界の映画業界で起きている変化の潮流を最も早く掴んだ作品だと言えるだろう。昨年のカンヌ映画祭でケイト・ブランシェットが総評で語った“Invisible”(可視化されない)というキーワードは、ここハリウッドにも届いている。ラバギー監督の言葉にあるように、それぞれの人生を背負い、それぞれの表現方法を持つ人々が彼らの体験をもって役柄を演じることによって、監督やプロデューサーが想像した物語は思いもよらないところに着地し、誰も観たことのない独特な作品となる。華やかな賞レースは勝者を選ぶだけではなく、映画という世界の現在を写すメディアの潮流を読む、格好な機会でもある。このシンポジウムからは各監督の演出意図や映画への真摯な思いがあふれ、連日のパーティで浮き足立ったハリウッドに映画の存在意義をいま一度突きつけたような気がした。

第76回ゴールデン・グローブ賞授賞式はロサンゼルス現地時間1月6日に行われる。(Movie Walker・取材・文/平井伊都子)

https://news.walkerplus.com/article/174960/

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