AIやロボティクスは、食べ物と相性がいい/菊池紳さん[中編]

カフェグローブ

2018/12/22 07:45

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2045年、人工知能(AI)と人間の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えたら、私たちの仕事や暮らしはどう変わる?

ビジネス・デザイナーの菊池紳さんを迎え、前編では「食とAIの現状」についてフォーカス。中編となる今回は「食とAIがつくる未来」を伺いました。

未来人は「食べ物づくり」に回帰する!?


——前回の最後で「AIの発達で仕事やライフスタイルが激変した結果、もしも一般大衆の大半が肉体労働から解放されたとしたら、その代わりにヒトは何を始めるか?」という問いが出てきました。菊池さんはそこで「たぶんヒトは、今以上に“作ること”をやり始めるのではないか」と話されましたが、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

菊池紳(以下、菊池):陶芸をやるんでも、農業をやるんでもいいんです。人はきっと、広い意味での“クリエイティブな作業”に時間を使うようになる。時間を持て余した人が好んでやることって、恐らくは「何かを育てる」とか「何かを作り出す」ことだと思います。

対価として収穫物を得られることも魅力的ですが、それ以上に「作り手の思い通りにならない」という不確定さを伴う試行錯誤や、できたときの達成感や、創作や表現していることに人は快感を感じるように思います。

——「何かを育てる」! まさにそういう傾向の先駆けが、昨今「小農」とか「家族農」と呼ばれているトレンドワードなのかもしれませんね。
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菊池:国際的に、小規模農や家族農の支援は、食料生産の持続性や環境と人との持続的な関わりをデザインする上で、その重要性が再認識されていますね。私は、大がかりな専業農家である必要はなく、個人レベルで「農業のすすめ」を広めたいと思っています。移住して畑をやることだけではありません。家庭菜園、家の中、ベランダや屋上、近所の公園や街中でも……どこでも、気軽に食べ物を作る人が増えていったらいいなと思います。

こういうことを言うと、「素人に農業なんて簡単にできません」という反論もあるでしょう。だけど、今後もAIが順調に発達していけば、「あなたの住んでいる土地にはこの時期、この作物が向いていますよ」とか、「今週、肥料をあげてくださいね」みたいなアドバイスも実現可能になる。精度はまだまだですが、すでに近い技術は存在します。素人がひとりで食料を作ることも不可能ではなくなると、ある程度の自給自足が成り立ってくるわけで、食料を大量生産して、都市部に運搬する需要も低下します。

そうやって一般大衆のレベルで「食べ物を作る側」に参加したくなれば、そもそも都市部で生活する必然性も薄くなってゆく。最終的には、「より人が分散的に生活する社会」に変わっていくというビジョンを描いています。

個々が何かを育てたり、分散化する社会に変わるのでは?

——「特定の生産地で大量生産したものを都市に運んで大量消費して」ではなくて、「半分くらい作って、半分くらい買って」といった感じのライフスタイルでしょうか?

菊池:たとえば、普段はデザイナーやエンジニアとして働いている人が、生活時間の半分くらいを使って、自分で食べたい野菜を畑で作る。できたものは、他の人と交換しても良いですね。もともと食べ物って物々交換で取引されていましたし、非貨幣経済圏が広まれば良いと思います。

そういうライフスタイルを求めた場合、都市から離れて地方に行く人も増えます。地方で住むのは不便だ、かえってコストが高いと言われていますが、AIやロボティクスがその課題も解決していきます。

歴史上、都市の発展は「効率の追求」に尽きます。輸送に適した場所に街道ができ、中継地点に宿場町ができ、商売や雇用が生まれ、人が住む街ができあがってきました。一方で、AIとロボティクスの進化は、今までは非効率とされていたことのコストをほぼゼロにする可能性がある。つまり、住居を地方に構えても別に不便ではなくなる、大きな都市を形成する必要がなくなる可能性がある、ということです。

景色がきれいなところで食物を育てながら、教育的な環境も含めて充実した暮らしを選ぶ人も増えるでしょう。今までの都市の概念自体が溶けてゆく、と思っています。

——人間がより人間らしく、根源的なヒトの欲望を叶えながら生きられるし、そのサポートをAIがしてくれる、というわけですね。

次なるステップ「FOOD5.0」の実現に向かって


菊池:ちなみに私は、こうした未来の状況を「FOOD5.0」と初めて定義し、提唱しています。
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まず、現在は「FOOD 4.0」に相当します。「大量生産と均質化」の時代。つまり、どこでも、誰でも、比較的均質な食料が安価で手に入るようになったことを示しています。緑の革命(1940年代~60年代にかけて、高収量品種の導入や化学肥料の大量投入などにより、穀物の生産性が向上。穀物の大量増産を達成したこと)などの影響で、農業技術の進化とともに、生産場所をあまり選ばずに、一定の作物が作れるようになったことも人口増加を支え、この時代の形成を後押ししました。

その前の「FOOD 3.0」は、「交易・物流の時代」です。いわゆる輸送・保管手段の発展により、貿易が急速に発達した時代で、様々な食料が国境や地域を越えてやり取りされるようになりました。種苗や生産技術も移転されて、生産のローカライゼーション(現地化)も進んでいきました。わかりやすい例を出せば、ジャガイモの原産地はもともと南米だったのが、16世紀にポルトガル船によって日本に伝えられ、国内でも育てられるようになりました。

さらに、その前段階である「FOOD2.0」は、「保存と加工の時代」です。乾燥技術や発酵技術が生まれ、食品の保存や加工が自由にできるようになったおかげで、遠くまで運ぶことも可能になる。

その前の、「FOOD1.0」はもちろん「農耕・生産」の時代。食料を自分たちで作って自分たちで消費したり、交換していた状態です。

もっとも原始的なものは、「FOOD0.0」という状態です。それは「狩猟・漁」の時代。獲物や果実を野山で捕ったり採ったりして、小さい単位の家族で分け合って食べていた状態です。

しかし、ハンティングには危険がつきものだし、獲物を他の動物とも奪い合うケースもあったでしょう。家族やコロニーを飢えさせないように食料を安定的に確保する手段を考えたら、植物や動物は育てて増やせるということに気づきはじめて、生産をするようになる(FOOD1.0)。さらに加工・保存すれば、冬場や食料が採れない時期でも食料が確保できることがわかる(FOOD2.0)。そうすると、食べ物が持ち運びできるようになるので、交易が生まれ、産地から離れても食料が確保できることが都市の発展を加速させる(FOOD3.0)。さらに大量生産技術は、多くの人が比較的均質な食料を手に入れられるようになり、人口増加を助ける(FOOD4.0)。各々のバージョンが地層のように折り重なって、今の食べ物の世界を作っています。

狩猟・漁 → 農耕・生産 → 加工・保存 → 交易・物流 → 大量生産 → ?

——では、次なる段階に相当する「FOOD5.0」とは、何がどうなるのですか?

菊池:現代の大量生産・均質化の「FOOD4.0」の次に来る時代、私はそれを「分散化・全員参加の時代」と考えています。生産者と消費者、産地と都市との境界線が溶けていく。自分が食べたいものを自分で作ったり、欲しいものが欲しいタイミングで手に入れられるようになる。

定住・生産中心の「FOOD1.0」との違いは、誰でも、どこにいても作れること。季節ごとに移動しながら、食べ物を作る人が現れるでしょう。さらに、どこにいても、誰とでも交換や売買ができ、いつでも届くようになること。夢物語だと思われるかもしれませんが、AIやロボティクスの進展で、モノや人の移動のコストが劇的に低下し、食料生産のハードルも下げることができれば、「FOOD5.0」は実現する。その入り口に、私たちはもう立っています。

量産化の時代から、分散化・適地化の時代へ

現状の「FOOD4.0」は、限界を迎えています。大量生産を支えられる土地と作物は、やはりごく一部に絞られてしまう。大量生産によるコスト削減効果はありますが、その産地が天候でやられれば価格が高騰したり、飢える人も出るというのは、実はとても不安定なことです。あらゆる場所で、適した作物が分散的に作れて、それがちゃんと交換され届くようになれば、食べ物の多様性や安定性も増します。

AIが、何がこの土地・時期に適しているのか、どうすればよく育つのかなど、そういう判断やサポートをしてくれることで、「食べ物がちゃんと作られ、届く」社会に向かっていくと思います。食べ物については、「集約の時代」から「分散化・全員参加の時代」へのシフトチェンジを、シンギュラリティがもたらすと、私は期待しています。

——それって、もはや食のレベルに収まらない、文明規模でのシフトチェンジですね!

ヒトとAI/ロボットの“棲み分け”こそが重要

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菊池:文明が進展するにつれ、都市化が進み、便利な場所に人が集まってくる。だけど、その結果として、食に関わる大きな歪みが発生してきました。 今でも「先進国は(食べ物を十分に)食べられるけれど、途上国は必ずしもそうじゃない」、あるいは、「生産者が(農畜水産業では)生計が立たない」という状況になっていて、しかもそれが限界を迎えつつある。都市生活者にとって「いつでも、何でも、廉価に食べられる」ことのコストやリスクを、生産者側が負う形になっている。これでは本当に、生産者がいなくなってしまう。

かといって、生産者の代わりにロボットが農業を全部やれるようになるまでには、かなり時間がかかるように思います。というのも実は、農業や食料産業って、かなり複雑なプロセスをこなさなければいけないんです。

まず何を作るかを決め、種を購入し、苗床を用意して苗を植え、育ったらそれを畑に植え替える。もちろん土作りもするし、畑を見回り、必要な資材や農薬をまき、収穫し、形を整えて梱包し、物流に乗せ、代金を請求する……作業の一つ一つに最適化されたAIやロボットの開発は可能でしょうが、一連の作業を複合的にやれるロボットを実現させようとしたら、ヒトがそれらを処理しているコストを遥かに超えてしまう。したがって、生産者の替わりをAIやロボットにさせるのではなく、まずは生産者になりたい人を増やせるよう、AIやロボティクスがサポートする方が近道、と私は考えています。

この点において、大事なことを一つ。普段私が農家さんと仕事していて感じるのは、生産者さんが「(作物を)作りたくて作っている」「作ることは、楽しいと思っている」ということ。もちろん苦労もあるけれど、それらを全部ロボットに丸投げして、売り上げだけ入ってくればいいという企業的な考え方ではない方が多いんですね。野菜や食べ物を自分の手で作ることはやりがいがあるだろうと思っていて、生産者になりたいと思っている人も潜在的には多いとも思います。

だから、まずAIやロボティクスを活かすのは、人が「できればやりたくない」、あるいは、人では対処することが困難な部分をロボットに代替することに注力したい。人がやりたいこと、やるべきことは人がやる。それ以外はロボット。人と機械の役割分担と共存、協調デザインを、私はしっかりとやっていきたい

人に向かないことからまず、ロボットで代替する

たとえば、「農家さんが夜、寝ている間の獣害被害」とかは、AIやロボティクスで解決しましょう。なにしろ動物は、私たちよりもはるかに鼻が利く。つまり、人間よりセンサーの能力が高いので、収穫期ほど鹿やイノシシが絶妙なタイミングで畑に来て、作物を人より先に食べてしまいます。

そうした「獣を追い払う行動」はロボットにサポートしてもらい、「収穫する喜び」は人間がキープする。AIやロボティクスは感情がないし、食欲もないから、「収穫の喜び」を人間と奪い合わないでしょう。そんな棲み分けができれば最高で、私たちの研究開発の重要課題でもあります。 <後編に続く>

菊池紳(きくち しん)さん/起業家、ビジネス・デザイナー
1979年生。大学卒業後、金融機関や投資ファンド等を経て、2013年に官民ファンドの創立に参画し、農畜水産業や食分野の支援に従事。2014年にプラネット・テーブルを設立。“食べる未来”をテーマに、デザイン/テクノロジー/サイエンスを活用し、未来への提案となる事業を生み出している。


聞き手/木村重樹  撮影/中山実華  構成/カフェグローブ編集部

当記事はカフェグローブの提供記事です。

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