モンスターを生み出したのは18歳の少女だった!! “怪物たち”が目覚めた夜『メアリーの総て』

日刊サイゾー

2018/12/21 20:00


 フランケンシュタイン・コンプレックスという言葉がある。神のような創造主になることに憧れた人間が科学の力で新しい生命を創造するが、生まれてきた新しい生命体に恐怖を覚えてしまうという屈折した心理を現わしている。イギリスの古典的ホラー小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』から生まれた言葉であり、ロボット・遺伝子操作・原子力エネルギーといった現代科学の産物は、どれもフランケンシュタインの怪物の末裔たちと言えるだろう。創造主の愛情を感じることなく、この世に生命を授かった怪物たちはそれでも生きていかなくてはならない。

1818年に刊行された『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』の著者はメアリー・シェリー。執筆時18歳の女性であり、その処女作の内容があまりにも衝撃的すぎたため、彼女の名前は初版本にクレジットされることが許されなかった。エル・ファニング主演作『メアリーの総て』(原題『MARY SHELLEY』)はメアリー・シェリーの生涯を追うことで、彼女が産み落したフランケンシュタインの怪物の正体を解き明かしている。

映画『メアリーの総て』の主人公であるメアリー(エル・ファニング)は、墓場を愛する少女だった。メアリーが墓場好きなのには理由があった。人影の少ない墓場は、静かで思索するには最適な場所だった。また、メアリーの母親ウルストンクラフトはフェミニズムの先駆者として知られていたが、メアリーを産んですぐに亡くなった。記憶にない母親への思慕からメアリーはしばし墓場に佇み、現実世界と異界との狭間を漂うことを楽しんだ。

メアリーの父親ウィリアム・ゴドウィンも著名な作家だったが、妻ウルストンクラフトが亡くなった後は、再婚して書店を営んでいた。メアリーは継母とは折り合いが悪く、家の中に居場所のないメアリーはますます墓場で過ごす時間が長くなっていく。

そんな墓場好きなメアリーは墓場で恋に墜ちる。スコットランドで知り合ったロマン派の若き詩人パーシー・シェリー(ダグラス・ブース)が、メアリーを追ってロンドンまで訪ねてきたのだ。墓場で愛を確かめ合うパーシーとシェリーだったが、3歳年上のパーシーには妻と子どもがいた。しかし、障害があればあるほど恋愛は燃えるもの。16歳だったメアリーは父親の家を飛び出し、パーシーと駆け落ち。若い2人は世間のモラルに従うよりも、情熱に身を捧げる人生を選んだ。シェリーの奔放な生き方に共感する、継母の連れ子クレア(ベル・パウリー)も2人と行動を共にする。

恋の炎が激しく燃え上がるのは、当然ながら最初だけ。一緒に暮らし始めると詩人であるパーシーには経済力がなく、裕福な実家からの資金援助に頼る身だったことが分かる。さらに“自由恋愛”を謳うパーシーと義妹クレアとの関係がどうも怪しい。夢見た甘い新婚家庭とはまるで異なる現実生活だったが、そんな中でシェリーは長女を出産。愛情を一途に注ぐ対象を見つけたシェリーだったが、長女は生後間もなく病死してしまう。借金取りに追われるパーシーにせっつかれ、冷たい雨の中を夜逃げしたことが原因だった。メアリーは18歳ながら、身も心もすっかりボロボロとなる。

メアリーが作家になる大きな転機が訪れた。各国を渡り歩く流浪の生活を送っていたパーシーとメアリーは、スイスのレマン湖に滞在中だった詩人バイロン卿(トム・スターリッジ)の別荘で世話になることに。義妹クレアは、このときバイロンの愛人となっていた。血の繋がりのないクレアだが、シェリーの人生に影響を与え続ける不思議な存在だ。別荘にはバイロンの他に、彼の侍医であるジョン・ポリドリ(ベン・ハーディ)もいた。

暇を持て余していたバイロンはメアリーたちを集め、「百物語」よろしく一人ひとりが恐怖物語を披露する創作ゲームを持ち掛ける。ホラー文学史上名高い「ディオダディ荘の怪奇談義」だ。この夜に語られた恐怖のイメージの断片が組み合わさり、異界への扉が開くことになる。この夜以降、メアリーは見世物小屋で見た怪しい生体電気実験をベースにした『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を1年がかりで執筆。また、ポリドリは『吸血鬼』(『The Vampyre』)を書き上げる。モンスター界の人気アイコンであるフランケンシュタインの怪物と吸血紳士は同じ夜に、それぞれメアリーとボリドリの頭の中に生命の種を宿していたのだ。

フランケンシュタインの怪物は、幾つもの死体を繋ぎ合わせた人造人間だが、本作を観るとその正体がよく分かる。メアリーを産んだ直後に亡くなった母親への思慕と母の命を奪ってしまったことへの罪悪感、作家である父親への敬意と反発心、責任感のない夫への不信感と断ち切れない情、そして生後すぐに亡くなった長女をもう一度蘇らせたいという強い母性と倫理を犯す背徳感……。相反するそれらの要素が組み合わさることで、人造人間フランケンシュタンの怪物はこの世に誕生することになった。

ポリドリが創作した『吸血鬼』も、ポリドリとバイロン卿との関係性を反映させたものだった。自由奔放な性生活を送ったバイロン卿の侍医を務めたポリドリだが、彼は同性愛者として日陰の人生を歩んでいた。吸血鬼が闇の世界でしか生きられないという設定には、性的マイノリティーには市民権が認められていなかった時代の社会背景が大きく影響していた。

本作を撮ったのはハイファ・アル=マンスール監督。サウジアラビア生まれの初の女性監督だ。長編デビュー作『少女は自転車にのって』(12)は、厳格なイスラム社会で暮らす少女が自由と自立の象徴である自転車を手に入れようと奮闘する物語だった。19世紀初頭の欧州ではすでに産業革命が始まっていたが、科学の進歩に比べて社会はまだまだ保守的だった。自分が自分らしくいられる居場所を求め続けたメアリーとポリドリに、ハイファ監督は寄り添うように本作を撮り上げている。フェミニズム視点、LBGT視点による怪物誕生譚だと言えるだろう。

親の愛情を知らずに産まれた不遇の子という、フランケンシュタンの怪物に与えられた属性は、手塚治虫の人気漫画『鉄腕アトム』やリドリー・スコット監督のヒット作『エイリアン』(79)の前日談『プロメテウス』(12)など数多くの作品に受け継がれていく。ポリドリが書き上げた『吸血鬼』も、ベラ・ルゴシ主演作『魔人ドラキュラ』(31)からスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)まで世界中で大増殖していく。

人間が抱える孤独感がモンスターを産み落し、自分の分身であるモンスターに人間は怯えることになる。フランケンシュタイン・コンプレックスは人類が存続する限り、永劫的に続くことだろう。
(文=長野辰次)

『メアリーの総て』
監督/ハイファ・アル=マンスール 脚本/エマ・ジェンセン
出演/エル・ファニング、ダグラス・ブース、ベル・パウリー、トム・スターリッジ、スティーヴン・ディレイン
配給/ギャガ PG12 12月15日よりシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
(c) Parallel FilmsStorm) Limited / Juliette Films SA / ParallelStorm) Limited / The British Film Institute 2017
https://gaga.ne.jp/maryshelley/

当記事は日刊サイゾーの提供記事です。

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