少女マンガ研究家が「逃げ恥」を通して伝えたい大事なこと

『少女マンガ研究家の和久井香菜子さんが、マンガの登場人物にフォーカスし、恋愛を読み解いていくこの連載。

イケメンキャラや恋愛模様に萌えつつ、ちょっぴり自分の人生を一緒に見つめていきましょう。

第6回目のテーマは『逃げるは恥だが役に立つ』の、土屋百合と風見涼太です。

前回:「逃げ恥」で、人生を考えてみたら最高に理想のカップル像がわかった話

 

親子ほどの年の差カップルにシビれる……!

『逃げ恥』には、さまざまなカップルが登場します。
年上男性×年下女性、年上女性×年下男性に加えて同性同士まで。固定観念にとらわれない結婚観や恋愛模様が描かれていました。
物語のメインカップルは平匡さんとみくりですが、個人的には百合ちゃんと風見くんにビンビンきてます。

百合ちゃんは、みくりのおばさん(母の姉)。バリキャリのアラフィフ美人。未婚の処女でシングルライフを満喫してます。
風見くんは平匡さんの会社の後輩。高身長高学歴(たぶん)、細身でクールっていうイケメン要素をゴロゴロ兼ね備えているため、いろんな女性に狙われてます。

風見くんは29歳、百合ちゃんは54歳。この2人がお互い惹かれ会う中になるのだから、ああ、本当にいい話だなあ……。年齢にこだわって何かの扉を閉ざしたり関係を否定するなんてもったいないでしょう?

 

実はイケメンにも悩みはある

風見くんは、イケメンであることがむしろ彼にとって足かせのようです。自分と他人との溝を作るきっかけになったり、相手の弱さに対する言い訳にされたりしていて、彼はその見た目をメリットとして享受できていません。鏡を見ながらうっとりしたり、いい気なって図々しくもならないんですよ、めっちゃ魅力的じゃないですか。

それなのに、彼に群がってくる女性たちは、見た目と肩書きに釣られてくる。彼自身は結婚に何のメリットがあるんだろうと懐疑的なのに、周囲の女子たちは自分に対してひたすら結婚攻撃を仕掛けてくる。

だから風見くんは、彼の見た目に惹かれないみくりや百合ちゃんを好意的に感じるんですね。

和久井は昔、「東大生には『馬鹿』って言いなさい、言われなれてないからコロッと来るわよ」と言われたことがあります。それもどうかと思うけど、自分の望まない部分ばかりを目当てに人が寄ってきたら、鬱陶しいですよね。東大生であることも、イケメンであることも、そればかりがフィーチャーされたらウンザリする人もいるかもしれません。ってか、そういう人はかっこいい!

リアルな男女の関係って、邪推したり思いこんだりして面倒くさくないですか。
「こんなことを言ったら狙ってるって思われそう」とか、
「飲みに誘われたってことは狙われてるのかな?」とか。

でも百合ちゃんと風見くんは、付き合うとか、ねらい目とか、結婚とか、変な邪推が一切いらない関係として出会ってるんですよね。それが恋愛に発展するとか、超夢があるじゃないですか!

加えて、ちょっと“誰か”と話したいときに気軽に誘える相手っていいですよね。百合ちゃんと風見さんは、ちょくちょく一緒に飲みに行って意見を交わして、愚痴を聞いてもらってる。めっちゃいい関係なんです、こんな異性の友だちいたらホントに楽しそう。

 

老化にお金を出しますか?の問いに、百合ちゃんが返した言葉が深い

マンガやドラマで「アラサーになって焦ってる」みたいな話がよくあるけど、「アラサーごときが何言ってるんだ」と思ってしまいます。ていうか、年取ったからってなんだ?

「アンチエイジングにお金を出しても老化にお金を出しますか?やっぱり若さというのは価値の一つだと思うんです」

(ポジティブモンスター五十嵐が百合を呼び出し、風見との仲を邪魔するために発したセリフ・9巻より)

 

まあそうかもね。でも若さは価値のひとつであっても、歳を取ること=老化ではないし、年齢を経ることの価値はたくさんありますよ。

和久井は、若い頃は知らないことだらけ、分からないことだらけで不安だらけだったし、自分の感情をコントロールもできなかった。自分や周囲に腹が立ってイライラが止まらなかったり、無性に悲しくなって誰にも会いたくなくなったり。単なるメンヘラじゃないですか自分!その上、なりたい自分になれていない焦りもあった。ニキビにも悩んだし、単純に若いことがメリットばかりだったとは思えないんです。

引き換え、今はめちゃくちゃ楽になりました。たいていの感情はコントロールできるし、多くの人と付き合えるようになった。嫌だと思う人はグッと減ったし、もともと無茶をあまりしないタイプなので体力が落ちたとかも思わない。努力してきたことはそこそこ実を結んでいるし、これからやってみたいこともたくさんある。20代の自分と40代の自分と、比べてマイナスだとは思わないんです。

だけど若さに価値の比重を置くと、自分が向かっていくのはひたすら下り坂

百合ちゃんは言います。

「あなたが価値がないと思っているのは この先 自分が向かっていく未来よ」(同じく9巻より)

 

百合ちゃんはこうも言います。

「自分が馬鹿にしていたものに自分がなるのはつらいわよ。『かつての自分みたいに 今 周りは自分を馬鹿にしてる』と思いながら生きていくわけでしょ」

(歳を重ねることを障害のように思っている五十嵐に対して百合が発したセリフ・9巻より)

 

そう、年上の女性を年齢でバカにしていると、それはすぐに自分に返ってきます。

人間って、生まれた環境も、持てる能力も、何もかもが違う。めちゃくちゃ不平等です。いいものをたくさん持っている人もいれば、ない人もいる。だけど唯一、時間だけは公平です。和久井が今40代なのは、何か悪いことをしたからでも、生まれてからずっと40代なのでもない。誰だって20代の頃はあるし、生きていれば年を取る。そこにどうして負い目を感じなきゃいけないんでしょうか。

 

百合ちゃんの魅力は、年齢で相手を見下さないこと

 

大人の女性として達観している百合ちゃんだけど、彼女の魅力はそこだけじゃない。
百合ちゃんって相手の年齢問わず本音を言って相談するんですよ。めっちゃかわいくないですか。
年上だからって偉そうにしたり、相手を見くびったりしない。悩み事があれば相談するし、相手に距離を置かない。だからこそ歳の違う人たちと仲良くできるんですね。じゃなかったら風見くんもみくりも、親ほど歳の違う人と一緒に遊びに行くとか面倒くさくてないでしょ!

それでも百合ちゃんは自分が年齢や世間体の呪いに囚われていたことに気付いたわけです。

この前和久井は、18歳年下の男子に猛アプローチされました。自慢話じゃないんでもう少し聞いてくださいね。年下大好きの和久井ですが、彼とは話も合わなかったし、前歯の虫歯が気になっておつきあいしたい対象ではなかったんです。で、お断りをしたら、こう言われました。

「年齢のことなら、僕は気にしません!」

おい、ちょっと待て。
それってあなた、お断りした理由を年齢のせいにしてませんか。なんなら和久井は、自分の年齢を卑下して彼とつり合わないと思って断った的な感じじゃないですか?なんておこがましいヤツなんだ。そして失礼だなあ。

とまあでも、これが一般社会の感覚なのだなと思いました。

百合ちゃんと風見さんの関係は、こんなふうに世の中にはびこる呪いを解いてくれる、ひとつの魔法なんじゃないかなと思うんです。
年齢を理由に恋愛あるなしを考えるなんてもったいない。選択肢は広い方が幸せを見つけやすいじゃないですか。最後に呪いが解けた百合ちゃんは、この先もっと人生を豊かに過ごせるのだろうなと思うんです。

WRITER

  • 和久井香菜子
  •        

  • 大学の社会学系卒論で「少女漫画の女性像」を執筆、以来少女マンガ解説を生業にする。少女マンガの萌えを解説した『少女マンガで読み解く乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。視覚障害者によるテープ起こし事業「ブラインドライターズ」運営。

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