セクハラだと放送中止にされたX'mas定番曲、“問題の歌詞”とバカらしい批判

日刊SPA!

2018/12/7 08:51



クリスマスに向けて多くのラブソングが流れるこの時期に、耳を疑うニュースが飛び込んできた。

トニー・ベネット(92)とレディー・ガガ(32)もデュエットした往年のヒット曲「Baby It’s Cold Outside」が放送中止の憂き目にあっているのだ。リスナーからの苦情を受け、アメリカやカナダのラジオ局がこの曲を選曲リストから外す動きが出始めているという。

セクハラだと問題にされた歌詞は…

理由は、歌詞の内容。ストーリーは、男性が“外は寒いからウチにおいでよ”と女性を誘う軽妙なやり取り。その中の、<飲み物に何か入れたの?>と女性が冗談めかして疑うフレーズや、<早く帰らなきゃ>と誘いを断ろうとする女性を、<ホントは一緒にいたいんだろ?>と引き留める男性のパートが、“セクハラにあたり、不適切だ”というのである。

この曲については数年前から問題を指摘する声もあり、実際に歌詞を書き換える男女ペアのミュージシャンも現れた。たとえば、“ちゃんと断らなきゃ”と歌う女性パートに対して、男性が“そう、君にはNOを言う権利があるんだよ”と返すといった具合だ。

こうした流れもあり、Me Too運動の影響から今年再燃したのだろう。

◆それは男女の駆け引きだってば

もちろん、決してセクハラ被害を軽んじるべきではないし、この一件をもってフェミニズムそのものに疑問を投げかけるのもナンセンスだ。

だが一方で、「Baby It’s Cold Outside」でのやり取りが、ジョークでありユーモアであり駆け引きであることを押さえておかなければならない。まず、曲中の女性は本気で嫌がっているわけではない。<飲み物に何か入れたの?>も、男性がそんなことをしていないのをわかって、あえてからかっているだけなのだ(ていねいに解説するのもアホらしい話ではあるのだが)。

女性が簡単には“Yes”と言わないのを承知のうえで、男性もあれこれ理由をこじつける。そうしたお遊びが生むバカバカしい必死さから、いつしか2人の間に妙な信頼感が育まれていく。白黒では割り切れない粋(いき)を楽しむ曲なのである。

というわけで、今回の放送中止騒動は、過剰に燃えたぎる正義感が、曲を純粋に味わう耳を塞いでしまった悲劇だと考えるのが妥当なところだろう。

◆男尊女卑と批判される曲、女性作者の考えは

このように、創作物を政治的な正しさに引き寄せて解釈する動きが当たり前になった場合、これからは放送禁止だらけになってしまわないだろうかと心配になる。

たとえば、ウーマンリブ運動当時から“反フェミニズム”だと攻撃にさらされてきた「Stand By Your Man」(タミー・ウィネット 1942-1998)も、再び注目を集めそうだ。

<時に受け入れがたいことが起きたとしても、彼を愛する限り、許してあげなさい>とのフレーズが、男尊女卑的だと激しい批判を受け続けてきたのである。もちろん、文字を額面通りに受け取り、平等の定義を極限まで単純化すれば、理解できないこともないだろう。

これに対して、生前ウィネットはこう語ったそうだ。

「女性でもできることに関しては、男女平等であるべきだと思う。けど、体力的に女性にはどうしようもないこともたくさんあるわよね。(中略)だから、タバコに火をつけてもらったり、ドアを開けてもらったり、椅子を引いてもらったりするような、女性ならではのささやかな特権は失いたくないの。きっと私は女性であることを楽しんでいるのね」

(Smooth Radio より 筆者訳)

つまり、「女性であることを楽しむ」ことの影の表現だと理解しなければ、「Stand By Your Man」の<許す>の意味を掴み損ねてしまうのだ。ウィネットの考えが時代遅れだという指摘はもっともだ。だが、「Stand By Your Man」が、時代を超えて愛されている事実も軽視すべきではない。

◆言葉を額面どおりにしか受け取らない危うさ

繰り返しになるが、政治的、道徳的な潔癖さは、語句の持つ重層的な表現にフタをしてしまいかねない。その風潮こそが危ういのだ。

さて、幸か不幸か、今のところMe Too運動が盛り上がらない日本だが、これからも名曲がくだらない批判の対象にならないことを祈るばかりだ。念のため、80年代中期にテレサ・テンが歌った5つの大名曲「つぐない」「愛人」「時の流れに身をまかせ」「スキャンダル」「別れの予感」なんかは、今から保護を準備しておくべきなのかもしれない。

<文/音楽批評・石黒隆之>

あなたにおすすめ

ランキング

もっとよむ

注目ニュース

もっとよむ

あなたにおすすめ