shelfがシンメルプフェニヒの戯曲「AN UND AUS|つく、きえる」を上演~東日本大震災と福島第一原発事故の記憶

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2018/12/6 13:50



shelfがローラント・シンメルプフェニヒの戯曲「AN UND AUS|つく、きえる」を2018年12月14日~17日にThe 8th Gallery(CLASKA, 学芸大学)で上演する。戯曲は、2013年に新国立劇場の委嘱によりシンメルプフェニヒが書き下ろした本作は、東日本大震災と福島第一原発事故に関する詩的な作品だ。シンメルプフェニヒ作品をshelfが取り上げるのは、「アラビアの夜」に続き2作目となる。

以下に演出ノート、ドラマトゥルクによるメモを紹介する。


■矢野靖人演出によるノート

大規模な災害や、戦争などの災悪が起きたときのその災悪の記憶の仕方に関心がある。記憶の仕方、あるいは記憶のされ方について。現実(リアル)の確かな手触り(リアリティ)を、それがふとした瞬間に失われて分からなくなることがある。それは大きな災害や災悪に出会ったときに起きやすい事象だと思う。

一見すると何とも不可思議で奇形的といって差し支えないような人物描写から始まるシンメルプフェニヒのこの戯曲は、しかし詩的で美しく、寓意的な物語だ。そしてそのように事物から適切な距離を取って物語ることだけが、不条理で、普通の感覚では受け止め切れない、感情の落としどころのない災悪の記憶の仕方、歴史に対しての人類の落とし前の付け方として最も適した方法なのかもしれない。

アウシュビッツ以降、詩を書くことは野蛮である、と言ったのはアドルノだった。

詩は、無意識の記憶に似ている。そして詩は、無意識の発露たる夢に似ている。

人間はそれがリアル(現実)だからリアリティを感じるんじゃない。リアリティを感じるからそれをリアル(現実)だと思うのだ。

詩的でカタストロフ的とも思えるようなシンメルプフェニヒのこの戯曲を出来るだけリアルに、即ち現実(リアル)の不可解さをそのままに舞台の上に上げてみたいと思う。そしてそこからの恢復の手段としてのリアリティとしての物語(フィクション)の在り方を突き詰めてみたい。
矢野靖人
矢野靖人

■ドラマトゥルク、仁科太一のメモ

ドイツの作家であるシンメルプフェニヒによって書かれた『つく、きえる』は2013年に日本の新国立劇場で世界初演、2016年にドイツ初演となりました。この作品は作家が自ら行った東日本大震災の取材をもとに書かれたものです。私はちょうど2016年にドイツに留学していたため、マンハイム劇場での上演を観劇することができましたが、とても詩的な作品だと感じました。

人は東日本大震災のような圧倒的な出来事と出くわしたとき、そのことをどのように受け止めるでしょうか? それが未曽有の大災害だったことを、私はニュースを通して知ったわけですが、まさにその真っただ中にいた人びとは? おそらく何が起きたのか理解するのも困難だったのではないでしょうか。

シンメルプフェニヒのテクストは一見すると、ナンセンスなイメージの羅列のようです。そのイメージの断片からぼんやりと何が起こったのかを想像することはできますが、明白な情報、筋の通った話は書かれていません。でも考えてみれば、私たちの世界というものも、そもそも雑多な知覚の寄せ集めでしかなく、はっきりとした情報や物語というものは後から作られたものでしかありません。そうした情報以前の知覚のようなものが、この戯曲では詩的に描かれています。


■劇作家紹介|ローラント・シンメルプフェニヒ(Roland Schimmelpfennig):
1967年、旧西ドイツ・ゲッティンゲン生まれ。ドイツ語圏で最も頻繁に上演される現代劇作家で、自作の演出を手掛ける場合もある。また、近年は自作がオペラ化されることもあり、小説家としても注目を集めつつある。ベルリン演劇祭・ミュルハイム劇作祭などの招聘・受賞、多数。イスタンブールでフリージャーナリスト兼作家として活動したのち帰国、ミュンヘンの演劇学校にて演出を学び、ミュンヘンカンマーシュピーレ劇場・ウィーンブルク劇場・ベルリンドイツ座などで研鑽を積み、現在に至る。日本での上演歴として、2009年『昔の女』(新国立劇場)、2011年『イドメネウス』(国際演劇協会・ドイツ文化センター)、2013年『つく、きえる』(新国立劇場)、2017年『アラビアの夜』(shelf)が挙げられる。
ローラント・シンメルプフェニヒ(Roland Schimmelpfennig)
ローラント・シンメルプフェニヒ(Roland Schimmelpfennig)

■shelfについて:
"shelf"はbook shelf(本棚)の意。沢山のテキストが堆積・混在する書架をモチーフに活動を展開。俳優の「語り」に力点をおきつつ、古典、近代戯曲を主な題材として舞台作品を制作し続けている。2016年4月法人(一般社団法人)化。演劇や舞台芸術一般を、すべて個人とコミュニティとの接点で起こる事象(コミュニケーション)であり、と同時にそのコミュニケーションの様態を追求し、関わり方を検証し続けてきたメディアであると考えて活動を展開。2008年8月『Little Eyolf ―ちいさなエイヨルフ―』(作/ヘンリック・イプセン )利賀公演にて、所属俳優の川渕優子が、利賀演劇人コンクール2008<最優秀演劇人賞>を受賞。同年、同作品名古屋公演(会場・七ツ寺共同スタジオ)にて名古屋市民芸術祭2008<審査委員特別賞>受賞。2011年10月、『構成・イプセン― Composition/Ibsen(『幽霊』より)』(会場:七ツ寺共同スタジオ)にて、名古屋市民芸術祭2011<名古屋市民芸術祭賞>受賞。2014年9月、ノルウェー国立劇場・アンフィシェンにて、「GHOSTS-COMPOSITION/IBSEN」が、国際イプセンフェスティバル2014 (主催/ノルウェー国立劇場) 正式プログラムとして招聘。2015年11月、タイ・バンコクにて開催されたLow Fat Art Festに招聘。バンコクにて滞在制作、現地アーティストとの共同制作を行った作品[deprived]は、バンコクシアターフェスティバルにて”Best Script of a Play”にノミネート。2018年代表作「Hedda Gabler」にて中国5都市村(武漢、南京、上海、北京、方峪村)ツアー実施。




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