「逃げ恥」で、人生を考えてみたら最高に理想のカップル像がわかった話




少女マンガ研究家の和久井香菜子さんが、マンガの登場人物にフォーカスし、恋愛を読み解いていくこの連載。

イケメンキャラや恋愛模様に萌えつつ、ちょっぴり自分の人生を一緒に見つめていきましょう。

第5回目のテーマは『逃げるは恥だが役に立つ』の津崎平匡と森山みくりです。

結婚は公的なビジネス?それともプライベート?


ドラマが社会現象になった『逃げるは恥だが役に立つ』通称「逃げ恥」。ドラマもよかったけど、原作はまた格別でした。現代の問題や考えるべきことを余すところなく伝えてくれる、大好きな作品です。

ひとつは、女や男が結婚に対して感じているモヤモヤを登場人物たちの言葉に置き換えて言語化してくれたこと。和久井は現在やんわり婚活してますが、正直、自分の「結婚観」がよく分かりません。若い頃はなんとなく専業主婦になるもんだと思っていたので、当時は疑いもせずに結婚して仕事を辞めました。

しかし、夢の専業主婦生活のはずなのに、なぜかすごく辛かった。夫に負い目があるような気分や、楽だったけど夢や目標もなかった。意外でした。

そんなこんなで結婚からそうそう半年後に離婚になったんですが、そのときに思ったんです。

「結婚って、きっかけは惚れた腫れたで超絶プライベートなのに、実際はプライベートなのかビジネスなのか、すごく難しいな」って。

「逃げ恥」は、単なる女の妄想ではない、すごくリアルで、だけど理想の夫婦像を見せてくれたと思います。

労働はすべて時給計算な結婚生活、実はめっちゃアリ!?




大学院まで出ながら就職に失敗したみくりは、父の紹介で30代独身プログラマー平匡さんの家の家事代行をすることになります。そのうち偽装結婚して一緒に住むことになり、だんだんお互いが惹かれあっていき、ホントのラブラブカップルに……というストーリー。

「どうせこのふたりはくっつくんだろ?」という予測は立ちます。でもそのお約束以上に「逃げ恥」は私たちが抱えている問題点を浮き彫りにしています。
元々「仕事」として家事をみくりが担当していたことで、いろんなことがクリアです。平匡さんの実家に行くのも、平匡さんの友人が遊びに来たときに付き合うのも「仕事」。

そう、そのビジネスライクなところが通常の夫婦が抱える問題を浮き彫りにしているんです……。

夫の実家に行くのって、めっちゃおっくうです。夫には馴染みのある場所かもしれないけど、妻には他人の家、全然くつろげません。夫はのんびり、妻は早く帰りたい……めっちゃケンカのタネですよ。でもこれが仕事で、きっちり時給が出るなら、いっくらだっていい嫁プレイしますよね。

夫が「妻の手料理食わせてやるよ」なんていって後輩を呼んできて自慢するのもありそうですよね。夫は満足げだけど妻は面倒くさいだけ、みたいな。これも仕事だったらいっくらだってゴージャス手料理つくってやりますよ。

これまで女は、結婚生活でこうしたサービス残業をめちゃくちゃこなしてきたと思うんです。でも、もうそろそろそのことに気付いてもいいですよね、「それ、サービス残業だよ!」って。

好きな相手と一緒にいると、なんだかんだラブラブなことしちゃえばなんとなくうまくいくような気がする。でもそれじゃモヤモヤは消せないんです。このあたりは、ラブラブでごまかそうとしている平匡さんと、ごまかされないみくりの葛藤で表現されていました。

みくりはこれまで、このモヤモヤをパートナーに話して解決しようとすると「小賢しい」と言われてしまっていました。
相手に自分を理解してもらいたいと思い、理論的に説明しようとすると、みくりのように非難されてしまう。つまり女は今まで、男にとって面倒なことをいうと「小賢しい」「生意気だ」という言葉で対象外とされてしまっていたんです。

実は〇〇ができるカップルは天然記念物並みに珍しい


たいていのカップルって相手に不満があるじゃないですか。それをどう解決するかと言ったら、ホントもう「話し合い」しかないです。

平匡さんとみくりは、始まりがビジネスだったことで、細かいことまでものすごくよく話し合っているんですよね。これがめっちゃ羨ましいです。和久井は、パートナーとしっかり話し合えた経験って、今までないんですよ。

自分が相手を尊重していなかったこともあるし、相手が私を見下していたこともあるし、なんとなくなあなあになっちゃったこともあるし。

「きちんと話し合いができるカップル」って、そんなに多くないと思うんです。なんなら天然記念物くらい?そもそも、自分の気持ちを言葉にするのって簡単じゃない。それに相手にも根気よく相手の言葉に耳を傾けて言わんとすることを考える優しさや尊重が必要です。お互いがこのふたつの能力を持っていないと成り立たないんです。確率超低そう!

平匡さん、女性経験が全然なかったのに、女に対する変な先入観はほとんどないし、自分の意見を押しつけることも、決めつけることもない。こんな人、どこに余ってるんですか教えてくださいよ!

そしてまた経験不足の平匡さんをガッツリカバーしている、みくりの心理学の素養。博士号を取っているだけあって、平匡さんがつたないことをしても、その理由を想像して、うまく立ち回ってる。なんともベストカップルじゃないですか!

いいなー、いいなーと指をくわえて読んでた作品なわけですが、それだけじゃもったいない。「平匡さんみたいな男性、どこにいるのかなー」って探すのはもちろん、夢がありますが、「ちゃんと思っていることを伝わるように伝える」って技術も身につけたいですよね。そうしたらうまく行く相手の範囲がグッと広がりそうです。

WRITER和久井香菜子

  • 大学の社会学系卒論で「少女漫画の女性像」を執筆、以来少女マンガ解説を生業にする。少女マンガの萌えを解説した『少女マンガで読み解く乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。視覚障害者によるテープ起こし事業「ブラインドライターズ」運営。Twitter:@kanawaku124

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