なぜ中高年は、『ボヘミアン・ラプソディ』のラストシーンで涙するのか

wezzy

2018/12/6 13:05

「勝ちに不思議の勝ちあり」は本当か?
 映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしている。映画のヒットは、ラッキーパンチか? 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。江戸時代の大名である松浦静山の言葉だが、元プロ野球監督の野村克也氏の名言としても知られている。

この名言の真意は、「勝利にはラッキーがつきものだが、敗北には原因がある。そこを教訓として学びなさい」ということだろう。勝負師の言葉の重さには唸るしかないが、勝利にはラッキーだけではない、勝因も必ずある。そこを見過ごせば本質を見逃してしまう。最新例として映画『ボヘミアン・ラプソディ』のヒットを掘り下げてみよう。
クイーンと『ボヘミアン・ラプソディ』の共通点
 まだ観ていない諸氏にネタバレにならない程度に紹介すると、これは1970年代から1980年代に活躍したイギリスの伝説的バンドQueen(クイーン)の半生記映画だ。“伝説的”といわれる由縁は、日本を含め世界的に大ヒット曲を連発したこともあるが、4人組の中心的存在であるボーカル、フレディ・マーキュリーのカリスマ性にある。同性愛者として知られる彼が、エイズにより45歳の若さで急逝してしまったこともカリスマ性を際立たせている。

映画タイトルの『ボヘミアン・ラプソディ』は、6分におよぶクイーンの代表的長編曲のタイトルから来ている。

その「クイーン」というバンド、そして『ボヘミアン・ラプソディ』という映画には共通点がある。

両者ともに、世に出る前の“評論”は散々だったが、世に出た後の“評判”は上々という点だ。つまり、予想を覆したということだ。

実際、映画封切り前はプロ評論家たちからの酷評を受けながらも、公開後はSNSが評判で持ち切りとなり、興行収入を伸ばし続けている。鑑賞後の感想として、「クライマックスで感涙した」という投稿も相次いでいる。

なぜ酷評されたのに大ヒットしたのか?
 映画ヒットの要因は何か? なぜ観客は涙するのか?

「そりゃ、クイーンが伝説的バンドだからさ」「クイーンそっくりの俳優たちが演じたからだよ」

こんなコメントで片付けてしまっては、本質が見えてこない。「勝ちに不思議の勝ちあり」の通り、不思議なラッキーパンチで終わってしまう。

大衆=マーケットに支えられた要因が必ずあるはずだ。

拙著『最強のコピーライティングバイブル』(ダイヤモンド社)では、マーケティング戦略の公式を次のように紹介している。

マーケティング戦略=ターゲット×提供価値

その公式から、ヒットの要因を探してみよう。
酷評された3つの理由
 映画封切り前は、プロ評論家から酷評されたが、考えてみれば無理もない。「敗北」するための素材はごまんとある。まず「新しさ」がない点だ。

第一に、タイトルとなったクイーンの代表曲『ボヘミアン・ラプソディ』が、そのリリースされたのは1975年。実に43年前、半世紀前の曲だ。懐メロと言われても仕方がないくらい過去の曲だ。

第二に、メンバーの年齢である。すでにこの世を去ったフレディ・マーキュリーを除いた3人のメンバーは、70代に差し掛かるおじいちゃんである。45歳で逝去したフレディ・マーキュリー(1946年9月6日生まれ)が、もし生きていたら “マチャアキ”こと堺正章(1946年6月6日)と同じ年だ。

“マチャアキ”だって、1970年代にはグループサウンズで大衆を熱狂させていたことはある。けれども、当時の熱狂を再び観たいというファンは少ないだろう。比較対象が少々乱暴かもしれないが、封切り前に「金まで出してまで、カリスマおじいちゃんの若い頃を観たいものかね?」と問い詰められたら、スゴスゴと企画を引っ込めたくならないだろうか。

第三に、ストーリーに新しさがないことだ。フレディ・マーキュリーがエイズで亡くなったことは、ファンなら誰もが知っている。映画のクライマックスのライブエイドの映像は、YouTubeでタダで観ることができる。「新規性がない既知のストーリーに対して、映画館に足を運ぶ人はいるか」と問われれば、こちらも下を向いてしまいそうだ。

上記は筆者の推測にしか過ぎないが、封切り前にこんな反対意見もあったであろう。しかし、映画はそれらの障害を乗り越えて、大ヒットという成果を残した。

勝因は「NEW&OLD」
 果たして、その勝因は何か? 観客を感涙させた要因は何か?  マーケティング戦略の公式を再掲し、筆者の仮説を展開してみよう。

マーケティング戦略=ターゲット×提供価値

マーケティングの一丁目一番地、最優先事項、決め手は「ターゲティング」だ。つまり対象を決めると、後はすべて決まってくる。まずは「ターゲット」。メインターゲットは、一言で言うと「2018年現在の中高年世代」。言い換えれば、クイーン最盛期にアルバムを聴いていた世代だ。

クイーンの最盛期が1980年代とすると、その時代にティーンエイジャーだった世代は、現在40代~60代に相当する。ここの世代は、日本では1973年(現在45歳)をピークとするベビーブームピークとも重なっているため、人口が多い。

10代に聴いた音楽は耳にも残りやすい。巨大なマーケットに受け入れられる素地がある。

次に「提供価値」。

「ターゲット」に向けて、「何を提供価値」にするか?

筆者は、本映画の提供価値は、「NEW&OLD」だと分析する。「NEW(知られざる舞台裏)+OLD(懐かしい楽曲)」がターゲットに突き刺さっているのだ。

NEWとしての舞台裏は、次の3点だ。

1)“マイノリティ”としての苦悩

イギリスでは少数派の出自、同性愛者としての苦悩。

2)“バンドメンバー”との苦悩

カリスマであるフレディと3人のメンバーの対立と融和。

3)“残された命”としての苦悩

エイズによる余命の短さとボーカリストとしての限界

これらは、ターゲットがすでに知っている点だが、同行取材のような形で、知られざる苦悩(舞台裏)を覗き見ることができる。これが、新しさ「NEW(知られざる舞台裏)」につながっている。

そして、「NEW(舞台裏)」進行の脇役として、「OLD(懐かしい楽曲)」が伴奏される。観客が若い頃耳にした楽曲でノスタルジー(郷愁)を掻き立てられながら、フレディの苦悩を理解できる中高年として、クイーンの同行取材に立ち会っている気分になれる。
勝利の裏には、巧みなマーケティング戦略がある
 筆者は、鑑賞前に同世代の知人が「最後のライブステージシーンで涙した」とSNS投稿したのを見て、疑念が消えなかった。友人が泣いたと言っているライブステージは、YouTubeで何度も観ているからだ。

ところが、実際に映画を観ると、YouTubeとはまるで景色が異なって観えた。いや、映画のステージは、YouTubeの実写映像をほぼ完全に再現している。それなのに、まったく異なって見える。それは演者たるクイーンに感情移入しているからだ。フレディ、そしてクイーンメンバーの苦悩に寄り添い、ステージの横から、前から、後ろから圧巻のパフォーマンスに付き添ったからにほかならない。

その戦略に華を添えたのが、クイーンのメンバーに瓜二つの俳優たちである。大きな幹となるマーケティング戦略に、俳優たちが見事な華を咲かせたのである。主役のフレディも話題となっているが、ギターのブライアン・メイは本人そのものだ。

勝利の裏には、巧みなマーケティング戦略がある。それを見ずして、不思議なラッキーパンチとして片付けてしまっては、オトナの仕事スタヰルとしてはもったいない。

理性的に映画を分析してみたが、映画のほうは直感的にガツンと来る。これから観る方はIMAX劇場をオススメする。IMAXにして良かったと思える数少ない作品だ。

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