ピアニストのマシュー・ローと鈴木隆太郎が紡いだ、異なる個性が生む相乗効果の輝く音楽世界

SPICE

2018/12/6 13:00

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.10.7ライブレポート


クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。10月7日に登場したのは、ピアニストのマシュー・ローと、鈴木隆太郎だ。

桐朋高等学校音楽科に特待生として入学し、ピアノ科を首席卒業後、桐朋学園大学音楽学部を経て渡仏。パリ国立高等音楽院のピアノ科および修士課程を、審査員満場一致の最優秀および首席で卒業したマシュー・ローは、2012年第8回ルーマニア国際音楽コンクールで第1位とグランプリ(最優秀賞)受賞をはじめ、国内外のコンクールで数多くの受賞歴を誇り、ヨーロッパ各地でのリサイタル、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン丸の内コンサートにも出演するなど、幅広い活動を行っている。また、シンガーソングライターとしても活動を展開させ、オリジナルの作品を披露するなど人気を集めており、メディアへの楽曲提供やタイアップも多数行っている。

一方、2008年に栄光学園高等学校を卒業後、渡仏。同年、パリ国立高等音楽院に首席で入学し、ブルーノ・リグット、オルタンス・カルティエ=ブレッソン、ミシェル・ダルベルトとミシェル・ベロフというクラシック界の巨星に師事した鈴木隆太郎は、2015年イル・ド・フランス国際ピアノ・コンクール第1位をはじめ、多数の国際コンクールで優秀な成績を収め、現在は、イタリアのフィレンツェでエリソ・ヴィルサラーゼのもと研鑽を積みつつ、パリを拠点に演奏活動を行っている。また、2017年、クラヴェス・レーベルよりデビューアルバムをリリース。ヨーロッパのみならず、日本での演奏活動にも意欲的だ。
(左から)鈴木隆太郎、マシュー・ロー
(左から)鈴木隆太郎、マシュー・ロー

共通の学校と共通の師から学んだ音楽言語と、異なる個性


そんなそれぞれの活躍を続けている二人のピアニストが揃って登場したサンデー・ブランチ・クラシックは、まずモーツァルトの「4手のためのピアノ・ソナタ ニ長調 K381 より 第1楽章」からスタート。モーツァルトの音楽の個性でもある、作曲家が音で遊んでいるかのような軽快なイメージが、二人の掛け合いによってさらに増していく。そこにデュオならではの迫力が加わり、オープニングに相応しい華やかな演奏になった。

ここで改めて二人が自己紹介。二人は学校、師事する先生も同じで、それぞれの個性は全く異なりつつも、同じ音楽の共通言語を持っている。デュオとしての演奏会が2回目となる今日に臨むにあたって、ますます息が合ってきたのを感じると語り合い、コンサートへの期待が高まる中続いたのはドビュッシーのピアノ4手連弾の為の組曲「小曲集」より。フランス音楽に思い入れのある二人であり、今年はドビュッシーの没後150年の記念イヤーでもあるので、皆様にお届けしたい、さらに、二人の音色が違うことを聴いてもらいたいので、途中でパートを交代します、という粋な趣向で繰り広げられる。
(左から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎
(左から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎

1曲目の「小舟にて」はファースト(上)が鈴木、セカンド(下)がマシュー。鈴木の澄んだ音色が美しく、マシューの奏でる分散和音がまろやかな中に迫力も。近現代の音楽のファンタジックさが広がり、躍動感を増したあと、精緻に美しく終わる演奏が美しい。

2曲目にはファーストをマシュー、セカンドを鈴木に交代して「メヌエット」が。古典を思わせるシンプルなメヌエットの旋律が多彩に展開されていく楽曲だが、マシューが高いパートを演奏することによって、一気にきらびやかさが噴出してくるのが、二人がパートを替えて目指したものを如実に示してくれる、物語性に満ちた1曲になった。

3曲目の「バレエ」はどこかコケティッシュで洒落た、粋な雰囲気が前面に出る。二人が互いにやりたいことを瞬時に受け渡して、共有しているのが伝わる、デュオでいながらどこか即興的な遊び心も感じられ演奏の妙味が際立った。
(手前から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎
(手前から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎

それぞれの目指す音楽世界が際立つソロ演奏


ここから、それぞれのソロのコーナーで、まず鈴木がショパンのポロネーズ 第6番 変イ長調 op.53「英雄」を。ショパンのとしてだけでなく、ピアノ曲全体でも著名中の著名な1曲だが、鈴木の演奏はたっぷりと間をとった壮大で力強さが漲るもの。演奏者が楽曲の中に入り込んでいるのが伝わり、非常に正攻法で折り目正しい、堂々した「英雄ポロネーズ」の世界が広がった。
鈴木隆太郎
鈴木隆太郎

入れ替わりにマシューが舞台に登場して、まずピアノソロでウクライナの作曲家カプースチンの「トッカティーナ」ジャズとクラシックを融合させた作曲家として知られるカプースチンらしいテクニカルでありながらも、自由度を感じさせる楽曲が、マシューの歌心とピッタリと合う。個性の際立つ非常に興趣に満ちた演奏になった。
マシュー・ロー
マシュー・ロー

続いてもう1曲マシューが弾き歌いでガーシュウィンの「サマータイム」を。2019年日本コロムビアよりCDデビューも決まっているマシューの歌声は、高音域でありつつまろやかな豊かさがあり、自身のピアノ演奏の音色と通じるものがあるのが面白い。「夏のバカンスの思い出に」との言葉通りの、哀愁もありけだるい憂いもある歌声が、 LIVING ROOM CAFE & DININGを包み込み、大きな拍手が湧き起こった。
マシュー・ロー
マシュー・ロー

この喝采に応えて、ステージに戻ってきた鈴木との「プチアンコールの位置づけで」と披露されたのは、カプースチンの連弾曲「シンフォニエッタ」。すでに楽譜も絶版になってしまっているということだったが、ファーストはマシュー、セカンドは鈴木で披露された演奏は、鈴木が正確に刻むリズムにマシューが自由にメロディーを歌い、曲のカッコよさが一気に伝わってくる。後半に進むほどにスピード感と勢いが増して、楽しさも増し、華麗なフィニッシュに歓声が飛びかった。
(手前から)鈴木隆太郎、マシュー・ロー
(手前から)鈴木隆太郎、マシュー・ロー
(左から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎
(左から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎

異なる個性を持つ二人のピアニストが紡ぐ、音楽の相乗効果を感じさせる45分間だった。

共に演奏することで刺激と学びを感じながら


演奏を終えたお二人にお話しを伺った。

ーー今日の演奏で感じられた会場の雰囲気や、手応えなどから教えてください。

鈴木:皆様がご飯を食べたりドリンクを飲みながらという環境なので、もちろん緊張もしますが会場の空気がとても新鮮で面白かったです。

マシュー:僕は2年前に1度演奏させていただいていて、その時もデュオで奇しくも同じカプースチンを弾いたので、僕としては色々な意味で楽しかったです。帰ってきたという気持ちもありましたし、お客様も笑顔で聴いてくださっているのも見えましたし、反応が近いので。ホールですと自分の世界には入りやすいのですが、お客様のお顔とかは直接はね。

鈴木:表情も含めてここは伝わるからね。

マシュー:そうそう。ですからやっぱりここでの演奏は新鮮な気持ちになります。

ーーその中でデュオあり、ソロあり歌もありというプログラムを聴かせていただきましたが、今日の選曲についてはどんな工夫を?

鈴木:お互いがやりたいことをまず持ち寄ってから、二人で詰めていきました。モーツァルトで明るくはじまって、カプースチンで締めるということを決めて、また今年はドビュッシーのメモリアルイヤーなので。

マシュー:ドビュッシーをメインに入れようということにしたよね。ソロはそこからのバランスで折角カプースチンをやったり、弾き歌いもやるということだったので、僕のソロはクラシックの曲だけれどもジャズの要素が入っているものをと。さらに折角今日はこういう短いステージにも関わらずクラシック1曲と歌1曲と、両者を平等の配分で持ってくることが可能な舞台だったので、どうせならと思って2曲続けて弾くという試みをさせていただきました。

鈴木:僕もドビュッシーからの続きということだったので、フランスでつながるショパンで、かつ華々しく終わるということで「英雄」を選びました。
鈴木隆太郎
鈴木隆太郎

ーークラシック音楽の中でも皆さんがご存知という有名なものの後に、新しいものという流れで本当にバラエティーに富んだ内容でしたね。

マシュー:二人の持っているレパートリーが全然違っていて(笑)、音楽性や捉え方、奏法も違う二人なので、それを30分のプログラムでどう出すか? を考えてギュッと詰め込んだので、目指したものは出来たのかな? と思います。

鈴木:リハーサルの時にも違うアイディアがお互いから次々に出てくるので、それを家に持ち帰って練習していると「なるほどこういう弾き方もあるのか!」と勉強にもなってなかなか面白かったです。

マシュー:連弾ってそこがやっぱり魅力的だよね。

鈴木:同じ楽器なだけにね。

マシュー:そう、同じ楽器で隣同士で音を出しているから、例えば和音のタイミングを合わせないといけない時には、お互いがテクニック的にも歩み寄らないといけないところがあるのですが、それが逆に新しい奏法への気づきになっています。お互いの技術が隣にいるだけによくわかります。

鈴木:刺激し合えるよね。

マシュー:それが2台ピアノとは違う醍醐味ですね。難しいのですが発見も多いです。

ーー途中でパートを交代されたのも、お二人の音色の違いなどが鮮明にわかって聴かせていただいていてもとても興味深かったのですが、こうして伺っているとお二人がお互いの個性を尊重しておられるのだなと感じます。

鈴木:同じ先生に師事していて、その先生がとても個性を大切にされる先生なのですが、その中でも教え方にはひとつの柱があるので、そこを介してお互いが理解し合えるところが大きいので。

マシュー:そうだね。もし先生が同じでなかったり、国も違ったらもっと混ざり合わないところもあったのかも知れないのですが、それがお互いの間に同じ先生がいらっしゃることでバランスが良くとれていると思います。
(左から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎
(左から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎

ーーそれが「同じ音楽の共通言語を持っている」というお話につながるのですね。そんな違いのあるお二人ということですが、演奏されていて感じるお互いの魅力はどうですか?

鈴木:たぶん僕らくらいの年齢になると自分自身の演奏というのはある程度確立していて、そこから揺れ動くことはあまりないんですね。もちろん大きな流れで見れば変化はあるのですが、今日の明日で変わるということはない。その上で彼の音楽が魅力的だなと思うのは、音の捉え方がとても色彩的なんです。

マシュー:おぉ~!

鈴木:うん、僕はそう思う(笑)。僕も和声的にはそういう捉え方をしますが、和音の聴き方が違うんです。もちろんドミソなら同じドミソなんだけれども、彼の音は虹色に聴こえて、あぁこういう聴き方をしているのか! という気づきにつながるんです。まさにそれが1番の魅力ですね。

マシュー:ありがとうございます! 僕はある意味逆の感じになるかも知れないのですが、音楽へのアプローチが僕は結構感覚的なんです。もちろん理論も混ぜてはいますが、元来が感覚的で。一方隆太郎君も感覚も優れていらっしゃるのですが、演奏家に必要不可欠な冷静な部分や知性に優れていて、全体をコントロールできる。ですから一緒に弾いていると、僕が感情的に走り出してしまっても、良い感じに引き戻してくれるのでありがたいです。それは古典や、ショパンのような時代のものを弾く上で必要不可欠な要素なので、本当にお互いに1+1=2以上のものになるのかな? と思っていて、素晴らしいなと感じます。

鈴木:相乗効果が生まれているよね。

ーーお二人の活動もさらに広がっていかれているところですが、今後の活動への夢やビジョンなどは?

マシュー:僕はクラシックピアニストとしての活動の傍ら、シンガーソングライターとしての活動もしています。クラシックの方ではピアノを4歳からはじめて、音楽高校、大学、さらに留学先のパリでも勉強しましたが、ポップスの方は自分の中で温めてきていました。実は10歳頃から曲は書いて、自分で歌ってはきたのですが、世には出していなかったというか、試験やコンクールに追われている頃はその時間がなかったんです。でも僕の中のポップスは、所謂クロスオーバーと言うか、クラシックのピアニストがちょっとポップスも弾くよ、というようなものではなくて、クラシックピアニストとしてさらなる高みを目指していますし、片手間にやっているというものではなくて、ちゃんとしたレベルの二本柱としてやる、というのが自分の長年の夢でした。もちろん今後ずっと長いスパンの中ではどちらかに比重がかかっていくこともあると思いますが、今はポップスでもデビューさせていただけることになったのもあって、自分としての基盤が出来たという気持ちでいます。やっとスタートラインに立てたので、これから日本の音楽業界で頑張らせていただきたいと思っています。どう活動していくかを悩んでいた時期が長かっただけに、今はここからのスタートだという想いがありますね。

ーーピアノの高音の音色が金属的ではなくまろやかだなぁ、と思って聴かせていただいていたのですが、歌うお声もまさに同じ音色で、同じ方から紡がれる音楽というのはこうしてつながっていくのかと。

マシュー:そういう風に聴いていただけると本当に嬉しいです。なかなかこんな風に同じプログラムで入れられることがないですし、両方の活動をされている方もあまりいなくて、ある意味前例があまりないので、手探りでやっているので、そうした共通点を見つけていただきつつ良いものは良い、と垣根を取り払ってやっていけたらと思っています。
マシュー・ロー
マシュー・ロー

鈴木:僕は歌う才能はありませんが(爆笑)、僕のビジョンとしてはフランスを中心としたヨーロッパでの活動と、日本での活動を両輪のようにして段々に広げていけたら良いなと思っています。

ーーでは、海外での活動と日本での活動も共に重視されて。

鈴木 そうですね。それぞれを大切に演奏活動を続けていきたいです。

ーー絶版になっているカプースチンの演奏など、貴重な楽曲の披露もしてくださいましたが、デュオとしての活動も視野に?

鈴木:それもすでに決まっているんです。

マシュー:ちょっと先で2020年なのですが、デュオリサイタルの予定があります。

鈴木:そちらは時間的にももっとたっぷりとってね。

マシュー:ソロも入れたりしながらまた創っていくので、今日のLIVING ROOM CAFE & DININGの演奏を通じて、お互いに意見を交わした経験がとても活きていくと思っています。

ーーお二人の活動がますます広がっていかれるのを楽しみにしています。またぜひサンデー・ブランチ・クラシックにもいらしてください!

鈴木:ありがとうございます! その為にも頑張っていきたいと思います。 
(左から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎
(左から)マシュー・ロー、鈴木隆太郎

取材・文=橘涼香 撮影=荒川 潤

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