フラリーマンの流儀 第13回 ブラック企業を体験してきた


近年、働き方改革が叫ばれる中、すっかり定着したワード「ブラック企業」。呑気に楽しく日々を暮らしたい我々フラリーマンにとってまさに敵、といった感じだが、そんなブラック企業を実際に体験してみよう! という本気なのか冗談なのかわからないイベントがあると聞き、恐る恐る申し込んでみた。そこで見たものはトラウマレベルでリアルに恐ろしかったのでここに報告したい。

○参加型の「ブラック企業」イベント

このイベントは、広告やイベントの企画・制作を行う株式会社人間(所在地:大阪市西区)が主催するもので、「ブラック企業」をテーマにした参加型イベント「THE BLACK HOLIDAY(ザ・ブラックホリデー)」として11月23日の勤労感謝の日に都内で行われたもの。筆者は開催前日22日の報道関係者向け体験会に参加。

参加人数の関係で実際に自分が体験するのではなく、体験者の様子を眺めつつ取材する側に回ったのだが、前日に主催者側から事前に確認の電話が入り、「取材陣が多く席数が少ないので早めにきてください」というアナウンスが。早めに来いって、始まる前からなんだかリアルにブラックっぽいんだけど。

ということで、当日めちゃめちゃ早めに入室すると「欠員が出たので、体験されますか?」と主催者に勧められた。一瞬どうするか迷ったものの、ここで筆者の野生の勘が働いた。「いや、結構です」。体験取材記者としてはあるまじき姿勢なのはわかっている。しかし、結果その判断は間違っていなかった。だって、本当に怖かったんだもの!
○憂鬱すぎる朝礼から一日がスタート

参加者は、架空の健康器具販売会社「スーパーミラクルハッピー」の新入社員として初日の研修を受けるという設定。開始時間を待っていると、いきなり入り口から「遅いよ~!」などと叱責する声が。「新入社員は30分前に来て掃除するのが当たり前」的なことを言われている。まあ、そこまでじゃないにしろ始業時間にはしっかり間に合わないといけないよね。と、思って時計を見たら、まだ予定時刻の15分くらい前だった。いきなり理不尽なスタート。というか、予告もなくイベントが始まっていたことに戸惑っている間に、新入社員は続々と出社(全員怒られながら)。

「おはようございます!」と、新入社員を迎える上司の声が超デカい。全員揃うまで、一斉に清掃をさせられる新入社員たち。「携帯はロッカーに入れておくように」とのお達しも。「ちゃきちゃき動けよー!」と声デカ先輩社員。うるせ~な~と思いつつ、雑巾がけをしている新入社員を眺めていると、唐突に大音量でワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れ出した。どうやら朝礼の合図のようだ。

全員直立し、上司に促されるまま、「私たちは人類の健康に寄与します」などの社訓を読みあげる。声が小さいと「おまえらそんなんで健康に寄与できるのか!?」と怒鳴られる。さらに社名の「スーパーミラクルハッピー」をみんなの前で大声で叫ばされる社員も。こんなん絶対やだー!

また、徹夜続きだったという社員の1人が先輩社員から「おまえ、今寝てただろ?」と目をつけられて詰め寄られる場面も。う~ん、見ているだけなのに始業開始わずか10分でもう帰りたくなってきた。朝礼が終わると、女性社員が「じゃあ、今からタイムカード押しますねー」と、ここまでのくだりは業務時間に入っていないことも発覚。ぐぬぬ……なんだこの会社、ひでぇ。

○凄まじいパワハラのオンパレード

本格的に業務が始まると、健康器具を独居老人に巧みに売りつけるための方法をロールプレイング。営業成績の良い社員は「神~!」と絶賛される一方で、成績の悪い社員は先輩社員に命じられた新入社員に罵倒されるという、なんともいたたまれない場面も。また、親に電話させて商品を買わせるという人でなしな指令も出されるなど、このあたりは結構リアルに営業職の人はいや~な気分になりそう。

そんなところにやってきたのは派手なヒョウ柄の服を着た中年女性。どうやら社長夫人らしい。髪を切ったことに気付かない社員たち全員にいきなりブチ切れる夫人さま。こんな人を嫁にもらっている社長っていったい……と新入社員の身を案じつつ、社長室に入って行く新入社員たちについていくと、自らの企画を社長にプレゼンした新入社員の案を先輩が横取り。企画書をビリビリに破られたあげく、社長自ら先頭に立っての「スーパーミラクルハッピー!!」の大合唱でうやむやに。

また、「占いが得意」な社長夫人が女性社員を占った結果、「最悪の星回り」とのことで、運気を改善すべく水晶で作ったお守りを渡す。感謝する女性社員に「いいのいいの、4万円ね。給料から天引きしておくから」と社長夫人。「ありがとうございます」とさらに感謝する女性社員。いかん、すっかり洗脳されつつある!

でも、ここまで怪しいインチキ宗教団体みたいな企業って本当にあるのかな? さすがにちょっとありえないのでは? と思ったものの、このイベントで演じられているパワハラ、セクハラ、モラハラはすべて実際にブラック企業で体験した人々のエピソードから作られているのだそうだ。なんと恐ろしいことだろう。

○パワハラによって心を奪われていく恐怖

その後、労働基準監督署が立ち入りをすることになり、慌てて壁の張り紙を剥がしたり、口裏合わせを強要したりする先輩社員たち。労基が去ると、「この中にチクったやつがいるな! ? 」と犯人捜しを始める。

ここで、勇気を持って立ち上がり自分が通報したことを告白して、会社のやり方に異を唱える女性社員が。女性は退職を願い出るものの、「ノルマ未達成分の罰金300万円と迷惑料200万円を払えば辞めさせてやる」と非道なひと言。一方で「一緒に頑張ろう」と甘い声でささやきかけ、結果的に女性は会社に残ることを決めた。しかしながら「迷惑料200万円は払ってね」と、さらなる沼にハマることに。あぁ……。こんなことが現実にあると思うと、見ているだけでつらい気持ちになってくる。

最後は全員が研修の反省文を書かされて、1人ずつ前に出て読み上げることに。「何もわからない我々のために先輩社員の方々が丁寧に教えてくださったにも関わらず、私たちの未熟さからご迷惑をおかけしました」などなど、1日ですっかり洗脳されてしまった様子の新入社員たち。さらに、サービス残業と称して大量のDMを手書きで書くことを命令して、上司、先輩社員たちは会社を後にするのだった。

正直、荒唐無稽にも感じるシーンも多々あったのだが、そう感じてしまうほど、現実的にあり得ないことが、実際に行われている事実が逆にリアルに恐ろしさを感じさせた。また、自分に向けられているものではないとわかっていても、大声で怒鳴られたり詰め寄られたりすることで、どんどん人間性が失われ、いつしか自分も「そっち側」に行くことで楽になろうとしてしまうような気がした。

「こんな会社すぐ辞めればいいじゃん」とも思うが、パワハラを受け、巧みにマインドコントロールされて自分自身の至らなさを責められるうちに、どんどん抜け出せなくなってしまうのかもしれない、とも思った。

この日表現されたブラック企業のエピソードは、ほんの一部に違いない。パワハラする側、される側双方に人間の弱さを痛烈に感じただけに、人間が人間らしく働き、豊かな生活を送れるような社会になることを切に願わざるを得ないイベントだった。

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