投資・保険・不動産の専門家の話を鵜呑みにすると、「不利益」を被るワケ


 この連載のタイトルは「全体最適マネー術」なのだが、「全体最適」の意味がピンとこない人も少なくないだろう。「全体最適」とは経営用語ではあるが、その考え方は家計管理でも応用でき、かつ非常に効果的だと私は考えている。

「全体最適」とは、一部分の生産性・効率性の向上ではなく、組織やシステム全体として、生産性・効率性の向上を重視する思考プロセスのこと。ある部分だけに着目して最適化しても、必ずしも全体が最適になるわけではなく、むしろ全体の不利益になることさえあるのだ。

●ボトルネックを認識することが重要

「家計」は、実に広い分野に関わっている。資産運用、生命保険、損害保険、住宅ローン、税金、社会保険など、それぞれの分野で細分化された専門家がいる。ある分野の専門家は、当然、その分野での最適を考えたプランを顧客に提案する。ところが、部分での最適は、ライフプラン全体を考えると、むしろ不利益になることが結構あるのだ。

典型的な例を挙げてみよう。標準的なサラリーマン家庭が、資産運用の専門家の意見に基づき、当面使わないお金を投資信託に分散投資するとしよう。子どもが大学生の時期は手元のお金が少なくなり、投資信託を売却して学費を払う必要に迫られるかもしれない。そのタイミングでたまたま投資信託の評価額が低ければ、大きく損をしてしまうことになる。子どもが私立中学や私立高校に入学することになり、最初の想像以上に短期間で手元のお金がなくなってしまい、投資信託などを売却する、あるいは教育ローンを借りて、高い金利を払うことになることも考えられる。

投資信託の購入時は余裕資金を充てたつもりでも、何年先までそのお金を使わないですむのかは、キャッシュフロー表(以下、CF表)と呼ばれる、手元のお金の数十年先までの残高シミュレーションをしないとわからない。上述の状態を避けるには、CF表を作成して、その結果に基づいて投資額を決める、あるいは運用期間が短くなりそうであればリスクのある商品への投資を避けるといった判断が必要だ。しかし、資産運用の専門家でそれを行う人は一部である。

私は毎日のように相談者のためにCF表を作成しているが、過半数の人は子が高校・大学に行くタイミングで手元のお金がなくなってしまう。すなわち、子どもが高校生・大学生のときの手元のお金の急減が、他の分野を制約する、つまりボトルネックになる可能性が高いことを認識する必要がある。

●分野の境界が崩れてきている

家計で部分最適と全体最適が一致しない、もう一つの大きな要素は、分野の境界があいまいになってきていることだ。

一つ例を挙げてみよう。超低金利が長期化し金利での明確な差別化を図るのは困難になっている住宅ローンにおいて、各金融機関は金利以外での差別化を模索している。そこで広がりを見せているのが、疾病保障の充実だ。

住宅ローンでは、団体信用生命保険(団信)と呼ばれる死亡保障に加入することが借り入れの条件になっていることが多く、その費用は金利に含まれていて別途請求されないのが一般的。しかし、それにとどまらず、例えば、じぶん銀行やソニー銀行は、がんと診断確定されるとローン残高が2分の1になる「がん50%保障団信」を金利の上乗せなど追加の負担なしで提供している。

また、住信SBIネット銀行と楽天銀行は、精神障がい等を除くすべての病気・ケガを保障する「全疾病保障」を無料付帯している。所定の就業不能状態により月々の返済額が保障され、その状態が所定の期間、継続した場合は、ローン残高が0円になるという内容だ。

例えば保険の専門家が、顧客の必要な保障内容・金額を算出し過不足なく保険商品の提案を行ったとしても、顧客の住宅ローンにこのような疾病保障が付帯している場合、それを考慮して必要な保障内容・金額を判断していなければ適切な提案にならない。また、顧客の住宅ローンにこのような疾病保障がなければ、疾病保障付きのローンへの借り換えによる支払額削減メリットもシミュレーションすべきである。メリットがあれば借り換えを前提として、生命保険で確保すべき保障内容・金額の算出も行った上で、住宅ローンと保険の提案を行うのが、「全体最適」の提案ということになるだろう。

投資や保険、不動産の専門家から提案を受けても、一般の人にとって、それが「全体最適」と一致しているかどうかを判断するのは困難だ。この判断を助ける方法は、例えば次の2つがある。

・CF表を作成する(ファイナンシャルプランナーなどに作成してもらってもよい)
・幅広い分野に精通するファイナンシャルプランナーにセカンドオピニオンを依頼する

専門家の提案には、メリット、デメリットが必ずあり、それだけで聞くとメリットばかりのように思えることもあるが、ライフプラン全体で考えると小さく思えたデメリットが実は大きな問題になることもある。「全体最適」をぜひ意識してほしい。
(文=平野雅章/横浜FP事務所代表、CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士)

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