市販カーナビ、需要蒸発で“叩き売り”状態…スマホ地図の普及が追い打ち


 日立製作所は、カーエレクトロニクスの老舗で子会社のクラリオンを仏自動車部品大手、フォルシア・エス・エーに売却する。フォルシアの子会社が行うTOB(株式公開買い付け)に、日立は保有する63.80%のクラリオン株式をすべて応募する。公開買い付け価格は1株2500円。2019年1月下旬に実施の予定だ。

売却が完了した場合、日立は19年3月期決算(日立単体)で780億円の特別利益を計上、連結決算では事業再編等利益650億円を計上する。

クラリオンは日立の連結子会社から外れる。フォルシアはクラリオンを完全子会社にする計画で、クラリオンは上場廃止になる見通しだ。

日立の自動車関連部門である日立オートモティブシステムズは、18年4月にスイスの多国籍企業ABB出身のブリス・コッホ氏を代表取締役 社長執行役員&CEOとして起用、事業分野の全面的な見直しを進めている。

日立は自動車に求められる安全、環境、保全のすべての分野で、システムや製品を持つことを武器にしてきた。直近では、自動運転と電動化を注力する部門に掲げる。

しかし、「全方位を自前でやることは難しい」(西山光秋執行役専務CFOの10月26日の決算発表での発言)ことから、事業の選択と集中を決めた。今後は、先進運転支援システムに集中する。

日立は18年4~9月期に7.7%だった営業利益率を22年3月期には10%まで高めることを目指している。日立オートモティブの19年3月期の売上高は9900億円、営業利益は500億円を計画。営業利益率は5.0%。クラリオンは売上高が1650億円、営業利益は30億円の見込みで、営業利益率は1.8%にとどまる。クラリオンが思うように利益を出せないことが、売却する最大の理由だ。

一方、フォルシアはクラリオンに高い期待を寄せる。クラリオンの買収によって20年には全社売上高で210億ユーロ(約2.6兆円)を見込む。17年のフォルシアの売上高169億ユーロ(約2.1兆円)の2割以上の成長を目指す。

フォルシアはコックピット(操縦席)事業を統括する新会社、フォルシア クラリオン  エレクトロニクスシステムを日本に設立。新会社では9200人の従業員、1650人以上のソフトウェアエンジニアを雇用し、22年に売上高20億ユーロ(約2500億円)の目標を掲げる。クラリオンはフランス企業へと生まれ変わる。

●カーナビの収益悪化で売却を決める

クラリオンは日本初のカーステレオを開発し、老舗カーエレクトロニクス(カーエレ)メーカーの一角を占めてきた。クラリオン、パイオニア、アルパイン、JVケンウッドの4社は「カーエレ4兄弟」と呼ばれる。

日立は06年10月、クラリオンの株式をTOBにより追加取得。1株230円で231億円を投じ、出資比率を1割強から6割超まで高めて子会社に組み入れた。クラリオンがカーナビゲーション(カーナビ)の地デジ対応に遅れ業績が振るわず、成長の曲がり角にさしかかっていたことが背景にあった。

採算の悪い市販品が少ない点が強みだったが、カーナビは全地球測位システム(GPS)や加速度センサーを備え、地図機能も充実するスマートフォン(スマホ)に需要を奪われた。

クラリオンの経営難が表面化したのは18年3月期の連結決算(国際会計基準)だった。売上高に当たる売上収益は17年同期に比べて6.0%減の1830億円。営業利益は35%減の73億円、最終利益は73%減の20億円に激減した。カーナビ、カーオーディオの販売が苦戦したのが原因だ。

18年4~9月期決算は業績悪化に拍車がかかった。売上収益は前年同期比13%減の787億円、営業利益は56%減の16億円、最終利益は85%減の3億円に落ち込んだ。そこで日立は、カーエレの先行きが見えないクラリオンを切り離すことにした。

●カーナビ業界は再編ラッシュ

カーナビ業界は、スマホの普及による販売の伸び悩みに加え価格競争が激化し、自動運転技術の開発費の増加など三重苦の状態だ。

17年10月、トヨタ自動車系のデンソーが、富士通が55%出資する富士通テン(現デンソーテン)を168億円で取得して子会社にした。アルプス電気が経営統合を打ち出した子会社のアルパインは、今年12月5日に開催する臨時株主総会で統合を正式決定する。パイオニアは香港の投資ファンド、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア傘下のファンドに500~600億円規模の第三者割当増資を計画。11月以降に正式決定する。

そして今回、日立はクラリオンを仏ファルシアに売却する。この数カ月の間にカーナビ会社の再編が相次いだことになる。

電子情報技術産業協会の統計によると、17年(暦年)のカーナビの国内出荷台数は5%増の582万台。2年連続で増えた。18年1~9月までの累計でも、前年より4%増えて459万台だ。カーナビの販売が落ちているわけではない。

カーナビは売れているのに、カーナビメーカーはなぜ叩き売られるのか。市場構造の変化が起こった。かつてカーナビはカー用品店で購入するのが普通だったが、自動車メーカーが組み立てラインのなかで装着したり、ディーラーが取り付けて販売するケースが増えてきた。

そのため、カー用品店などで売る市販用は、この5年間で2割ほど減った。市場が縮小したため安売り競争が激化し、市販用カーナビの平均価格は半分になった。カーナビメーカーは、自動車メーカー向けより利益率が高いカー用品店向けの市販で稼いできたが、ここでも利益が出なくなった。

これがカーナビメーカーの叩き売りが始まった原因である。今後は、海外のカーナビメーカーを巻き込んだ再編によって勢力地図が激変しそうだ。
(文=編集部)

あなたにおすすめ

ランキング

もっとよむ

注目ニュース

もっとよむ

あなたにおすすめ