20年の沈黙を破りエイフマン・バレエ来日、その真の姿を見逃すな!

SPICE

2018/12/5 06:00



稀代の天才振付家ボリス・エイフマンが率いるエイフマン・バレエが2019年夏、ついに来日する。かつて「レニングラード・バレエシアター」として来日したバレエ団は20年の間に「エイフマン・バレエ」と名を変え、人物の深層心理まで抉り出すような鋭い解釈と、それを具現化する長身のダンサーたちのパフォーマンスによって、世界中で絶賛を浴びてきた。そして、日本の観客に「もう一度日本で」「一度は生の舞台を目にしたい」と、様々な思いを抱かせ続けたエイフマン・バレエのその姿を、いよいよ目にすることができる機会が訪れたのだ。

The Art of Eifman Ballet


■初来日時の衝撃!「小説」と「伝記」を題材にエイフマンの世界を展開


エイフマンの初来日は1990年。当時「レニングラード・バレエシアター」という名で来日したボリス・エイフマン率いるバレエ団の公演演目は、シェイクスピアの戯曲『十二夜』、ドストエフスキーの小説『白痴』、ブルガーコフの小説『巨匠とマルガリータ』を題材にエイフマン自身が振り付けたもので、日本では初めて目にする演目であった。とくに『巨匠とマルガリータ』はソ連時代に体制批判により発禁となっていたブルガーコフの小説のバレエ化作品である。これを題材に選んだということもさることながら、単に小説のストーリーをなぞるものではなく、要点を抽出し煮詰めながら1つの舞台にまとめ上げるその手腕は、確かに「鬼才」であり「天才」であると思わせるに充分であった。
『ロダン』  (C) Souheil Michael Khoury
『ロダン』 (C) Souheil Michael Khoury

さらに1994年に日本で初演した『チャイコフスキー』は、小説を題材に濃厚な世界を展開するエイフマンの世界に、さらに「伝記」という新たなフィールドを開拓したものだった。お断りしておけば、「伝記」という言葉は厳密には正しくない。エイフマンの作品は対象人物の人生を辿るものではなく、その人物の精神的な「核」を捉え、心の苦悩や時代性を描き出しているからだ。

『チャイコフスキー』では当時明るみにさらされた偉大な音楽家の「事実」を交えながら、世界の芸術界に偉大な足跡を残した偉大な芸術家の姿と苦悩を赤裸々に描き、1998年に日本初演された『赤いジゼル』は実在のバレリーナ、オルガ・スペシフツェワの人生を通し、共産主義のソ連という一つの時代と、翻弄された人物の悲劇を浮き彫りにした。

このほか古典バレエ『ドン・キホーテ』を題材にした『ドン・キホーテ~あるいは狂人のファンタジー』は精神病院を舞台に人間の存在やアイデンティティを問い、ドストエフスキーの未完の小説を原作とした『カラマーゾフ』では、描かれなかった小説の顛末を彷彿させる内容で客席を唸らせたのである。

日本での「エイフマン不在」の20年の間にも、2010年にはデイヴィッド・ビントレー監督時代の新国立劇場バレエ団が『アンナ・カレーニナ』を上演し、2011年ベルリン国立バレエの来日公演では当時芸術監督でもあったウラジーミル・マラーホフが『チャイコフスキー 光と影』でチャイコフスキーを熱演する。折しもインターネット上でトレイラー動画や画像を目にする機会が増え、フォトジェニックで芸術的な舞台写真の数々は、かつてエイフマン・バレエのパフォーマンスに酔い痺れたファンの心と記憶を刺激し、またそのパフォーマンスを実際に目にしたことがない人にとっても期待を抱かせ、想像を掻き立てるには十分であった。
『アンナ・カレーニナ』  (C) Souheil Michael Khoury
『アンナ・カレーニナ』 (C) Souheil Michael Khoury

■エイフマン・バレエを代表する2大作品『アンナ・カレーニナ』『ロダン』


前置きが長くなったが、2019年夏、「ボリス・エイフマン・バレエ団」として初めて来日するカンパニーが、満を持して上演するのはバレエ団の作品の中でも特に評価が高い『アンナ・カレーニナ』『ロダン』の2作だ。「小説」や「伝記」を題材とするエイフマンの、その両雄ともいえる作品である。

『アンナ・カレーニナ』はレフ・トルストイの同名の小説を題材にしたもので、社交界の中で精神を病み、心を壊していくアンナの心理描写に焦点を絞って物語を描き出す。主人公の深層心理の奥深くまで入り込み、物語の核を抽出し、2幕物の舞台にまとめ上げるという、エイフマンならではの構成・技法が存分に発揮されている傑作である。クライマックスの汽車への投身シーンはエイフマン自身が「群舞により機関車を表現したかった」という、こだわりの名シーンだ。
『アンナ・カレーニナ』  (C) Souheil Michael Khoury
『アンナ・カレーニナ』 (C) Souheil Michael Khoury

一方『ロダン』はフランスの有名な彫刻家オーギュスト・ロダンの、創造への情熱と生き様を描いたものだ。物語の軸になるのはロダンの“ミューズ”であったカミーユ・クローデルとの愛憎である。

さらにこの演目はエイフマン作品の特徴の一つであるアクロバティックでスピーディーな「動」とは対照的に、「静」の動きにより彫刻を表現する肉体表現にも注目だ。人の塊から『カレーの市民』『地獄の門』などの彫刻が生み出されていく様は、ただただ、唸る。
『ロダン』  (C) Yulia Kudryashova
『ロダン』 (C) Yulia Kudryashova

エイフマンのバレエではその音楽にもぜひ、注視していただきたい。新たに作曲されたものではなく、『アンナ・カレーニナ』ではチャイコフスキーを、『ロダン』では同時代のサン・サーンスやドビュッシー、ラヴェルの曲を使うが、あたかもそのために作曲されたのかと思うほどに絶妙だ。

2019年7月、ぜひその全容を目にしてほしい。
『ロダン』 (C)Souheil Michaeil Khoury
『ロダン』 (C)Souheil Michaeil Khoury

文=西原朋未

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