チョ・ソンジンのモーツァルト 磨き抜かれた音色と快刀乱麻の指さばき(Album Review)

Billboard JAPAN

2018/12/3 18:00



モーツァルトのニ短調といえばドン・ジョヴァンニかレクイエムあたりを思い浮かべる人が多かろう。モーツァルトにとって特権的だったこの調で書かれたピアノ協奏曲といえば、このディスクに刻まれている第20番のピアノ協奏曲がそれだ。

ピアノを弾くのは、2015年ショパン・コンクールの覇者、チョ・ソンジン。指揮はまたしてもヤニック・ネゼ=セガンである。ネゼ=セガンは、今年だけでバティアシヴィリ、トリフォノフに次いで、同レーベル実に3枚目となる協奏曲録音だ。

ヨーロッパ室内管は昨年、モーツァルトの第25と27協奏曲をアンデルシェフスキの弾き振りで録音したばかり(Warner)。番号が違うため単純な比較は出来ないとはいえ、ネゼ=セガンは、アンデルシェフスキが志向した繊細さと優美さとはひと味もふた味も異なる骨太なサウンドを、指示のいちいちに敏感に反応する、きびきびとしたこのオケから引き出してくる。管楽器を効果的に用いるようになったモーツァルト後期の作品ゆえ、管楽器の引き立て上手なネゼ=セガンのタクト捌きも随所で光っている。

一方、ピアノソロのチョは、もう「快活な」、とか「生彩に富んだ」などと形容したくなるほどにタイトなリズム感と粒立ちのよい硬質のタッチを軸に、楽曲の備えている緊張感を更に高め、劇的な境地にまで押し上げる。レガートも美しいが、その中に燦めくデタッシェが冴え渡り、絶妙のアクセントになっている。

第2楽章のロマンツェでは随所に装飾音を混ぜ込んで聴く者を飽きさせない。オーボエ、フルートにファゴットといった管楽器と連携を密にして音楽を聴かせる中間部、それにピアノから入る第3楽章が、このディスク最大の聞き物である。

チョのピアノは左右の手が歯切れ良くつかむ和音の音の立ち上がりは抜群で、それぞれの指が触れる鍵盤が鳴らす音がひとつずつ綺麗に分離している。フォルテの音量が度を超えないよう最大限の注意を払い、細かい休符やスフォルツァンドなどの指示には徹底的に忠実、様式感も常に意識しているが、出て来る音楽には一切の堅苦しさなく、伸び伸びとしてダイナミック、そしてまた繊細な情緒にも事欠かないのが、チョの素晴らしいところである。

ピアノソナタ第3番K.281、ピアノソナタ第12番K.332は、一部自筆譜を弾いているが、これも立派な演奏だ。しかしソロで最も成功しているのは、正確にはいつ書かれたのかわからず、モーツァルトの死後、最初は未完のまま出版され、その2年後に加筆された幻想曲K.397である。この曲をアルバムを閉じる曲として選んだのは、もちろんこの曲がニ短調だからである。ここでもチョのダイナミクスのコントロールが光っていて、フォルテで飽和してしまわぬように隅々まで気を遣ったアダージョの深謀遠慮と、まさしく天上的なアレグレットでの軽やかなタッチと、彼の魅力が短い時間のなかに凝縮されたような演奏になっている。Text:川田朔也

◎リリース情報『モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、ピアノ・ソナタ第3番・第12番』
UCCG-1826 3,024円(tax in.)

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