発達障害の子をもつ親が一番言われたくない言葉

女子SPA!

2018/12/3 15:46



【ぽんちゃんはおしゃべりができない Vol.11】

小学生5年生の娘と小学2年生の息子を持つシングルマザーの筆者が、発達障がいの息子・ぽんちゃんとのドタバタな日々を綴ります。

<前回のあらすじ>

発達障害と診断された5歳のぽんちゃん。自閉症のレイ君のママに相談したら、「よし、逆手にとろうか」と言われ、「愛の手帳」の存在を教えてもらった。

◆「仕方ない」「でも」を行ったり来たり

ぽんちゃんにコミュニケーション障害のひとつである「表出性言語障害」という障害名がついてから、「仕方ない」「でも……」という言葉が頭の中で行ったり来たりする日々が続いた。

ぽんちゃんはもう他の子とは違う、ということは医学的にわかっている。それならただ、ぽんちゃんを愛して育てればいいのだ。そう頭の中ではわかっていても、毎日ちょっとずつ、道路の段差のように、なんでもないようなことが心につっかかってしまう。

それは本当に少しのこと。例えば、「おはよう」と声をかけても、ニコッとするだけで言葉が返ってこない。「ご飯食べる?」と聞いても、全く違うところを見て、物を投げて遊び始めたりする。ぽんちゃんに知的な遅れがあることはこの時まだ明確に診断されていなかったけれど、薄々気づいていた。

さらに、5歳も終わりに近づいているのに、おむつがとれる予感がしない。それどころか、脱いだおむつを剛速球で私に投げてくる。思わず、いい肩持ってるじゃねぇか、と心の中でつぶやいてしまった。おむつを脱いで投げられるなら、トイレでしてくれよ……。

「……もう、これ以上のオプションはいりません!」

そう大声で叫びたいけど、ぽんちゃんが次から次へといろんな“オプション”をつけていくもんだから、もう受け入れるしかない。

◆売れっ子モデルになるはずだったのに…暴走する妄想

ここまでくると、私の器の大きさが試されている。いかに自分の理想の子育てを押し付けないか、が重要になってくる。むちゃくちゃにかわいくて、老眼の近所のおばあちゃんだけに「松潤にそっくりよねぇ」と言われるぽんちゃんは、私よりすらりと大きくなって、モデルスタイルで原宿に行った際にスカウトされて、イケメンの宝庫である芸能事務所、スターダストあたりからデビューするんじゃないかって生まれた時は思っていたけど、そうはいかない。

娘のみーちゃんに、「ぽんちゃんは売れっ子モデルになって私が子育て本を出すはずだったのに~!」と泣きつくと、「それ、ぽんちゃんがしゃべることができてもむりでしょ」と真顔で返してくる。ぐうの音も出ない。こういうときは、本当に冷静なみーちゃんが私の暴走を止めてくれるので、とても頼りにしている。

そんな思考の行ったり来たりを続けていると、どうしても情緒が不安定になってきてしまう。そこに追い打ちをかけてくるのが、決まって私の母親、ぽんちゃんのばぁばだ。

◆一番近い人から放たれる言葉が痛い

彼女は典型的な体裁を気にする人で、人と違った枠を受け入れない。私が離婚するときも、「旦那は単身赴任」と触れ回っていたくらいだ。そして、情報量も少ないからこそ、「発達障害は親のせい」「発達障害は治る」という間違った情報を、あたかも正義のように振りかざしてくる。そのたびに訂正しても、母と娘、両方とも感情が先立ってしまうため、いつもケンカになってしまう。基本的に、性格が合わないのだ。

対するじぃじは、ぽんちゃんとみーちゃんが生きがいで、生まれたときからべろんべろんにかわいがっている。私が離婚して出戻ってきた瞬間から煙草をやめ、ジムにも通いだした。「少しでも長生きして、俺が孫たちを支えるんだ」と言ってくれたからこそ、私はいまもこうして働いていられる。最高のイクジィだ。

ぽんちゃんの障害がわかったときも、ひっそりと泣いていたのを知っている。それからというもの、じいじの口癖は、「すこしずつ、すこしずつ」になった。「ぽんちゃんはすこしずつ、大きくなるもんなぁ」「ぽんちゃん、昨日よりオレの言うことがわかってる気がする!」と、目をキラキラさせながら報告してくれる。

そんなじぃじの存在は、ぽんちゃんにとっても大きなもので、いままでひとことも喋ることができなかったぽんちゃんは、いつのまにか「じぃじ」だけ言えるようになっていた。愛ってすごい。

あるとき、またばぁばが「この子はいつ普通になるのかねぇ」「このままじゃかわいそうだよ」と、一番言ってほしくない言葉を投げかけてきた。彼女なりに、ぽんちゃんのことを愛しているからこそ、この言葉が出てくることは理解ができる。でも、“かわいそう”ではないし、“普通”とは何なのか。その物差しを、彼女に決める権限はない。私がつらい顔をしていると、じぃじは落ち着いた声でこう言ってくれた。

「ぽんちゃんは、俺たちとは違う世界で生きているの。そこでの幸せは、俺たちの幸せと一緒とは限らない。だから、俺たちがぽんちゃんの幸せを決めるのはおこがましいことだよ」

その言葉に、思わず泣いてしまった。誰一人、他人の幸せを決める権限なんてないのだ。その人が幸せなら、それが幸せ。自分の価値観を相手に押し付けることほど、傲慢なことはない。

それ以来、ばぁばは、“普通”という言葉と、“治る”という言葉を言わなくなった。まだ完全に、とは言えないが、少しは理解してくれたのかもしれない。

<文/吉田可奈 イラスト/ワタナベチヒロ>

【登場人物の紹介】

息子・ぽんちゃん(8歳):天使の微笑みを武器に持つ天然の人たらし。表出性言語障がいのハンデをもろともせず小学校では人気者

娘・みいちゃん(10歳):しっかり者でおませな小学5年生。イケメンの判断が非常に厳しい。

ママ:80年生まれの松坂世代。フリーライターのシングルマザー。逆境にやたらと強い一家の大黒柱。

【吉田可奈】

80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@knysd1980)

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