【イマドキの仕事人】3Dプリンター職人 自室はルアー工房

 3次元(3D)のデジタルデータを樹脂などで形にする3Dプリンターが急速に普及し、モノ作りに使う人が増えている。不器用な人でも正確な造形ができる“魔法の技術”と期待の声もある。釣り具のルアーなどを作る3Dプリンター職人の工房を訪ね、モノ作りの未来を聞いた。

 デジタルルアー工房「models」は、千葉県松戸市の住宅街にある一軒家の一室。代表兼職人の斉藤弘太(47)の自室であり、ごく普通の8畳間だ。3Dプリンターが2台あるのが目に入ったが、それぞれ電子レンジを縦に2台積んだほどのサイズで大がかりなものではない。「数万円の機種でも、かなり使える」という。

 携帯電話が鳴り、斉藤が机の上のノートパソコンを開いた。「ここの膨らみが、もう少しあった方が良いってことですね」と話しながら、画面に浮かぶ「クランクベイト」という魚型ルアーの3Dデータをパソコン画面でクルクル回す。相手は釣り具メーカーの担当者。「じゃあ、2本目のラインまで太さを維持して、そこから絞って…」。担当者とルアーのイメージをすり合わせた。

 メーカーだけでなく一般ユーザーの注文もあり、月4~5件のルアーデザインを請け負う。最近ではロシアやインドネシア、米国などから問い合わせもあるという。

 これまで「いろんな仕事をしてきました」と苦笑い。絵を描くことが好きだった少年時代の夢を、アニメーターとなってかなえた時期もある。家業の鮮魚店で働いたり、企業向けの「巡回健診」のスタッフとして全国を回ったこともあった。体を壊すなど、20代は苦労も多かったようだ。

 今の仕事につながるのは、30代になってバイトで始めた釣り具メーカーでの日々。釣り竿のコンピューター設計などを任された。「当時は2Dでした」という。

 そこで感じたのが、3D設計と3Dプリンターを合わせた“3Dモデリング”の急速な普及だ。3D設計の使い勝手を飛躍的に向上させたフリーソフト「Fusion360」日本語版が登場した2015年秋以降、3Dモデリングに親しむ人が急増。「モノ作りが変わる」との予感から3Dモデリングを学び、2年前に「models」を立ち上げた。

 3Dモデリングで最も盛り上がっているジャンルの一つがルアーという。3Dプリンター製ルアーだけを使う釣り大会もあるほどだ。

 ルアーはボディー形状、とりわけ前方で水の抵抗を受ける板状の「リップ」で、潜り方が大きく変わる。内部で重りが行き来する空洞の形は、投げやすさや水中姿勢を左右する。これらの挙動は「パソコンではシミュレーションし切れない」というが、それだけに思い通りに動けば、釣れる喜びは倍増する。

 自身も「子供の頃からの釣り好き」だけに「魚が食いつくイメージから始まり、それを形にして釣り上げる一連の流れが楽しい」と目を輝かす。3Dプリンターで成形後、塗装や手作業を経て完成したルアーで試し釣りするのが一番楽しい瞬間なのかもしれない。

 3Dモデリングは「人間の手で一つ一つ作るハンドメードと、工場による大量生産の中間にある新しいモノ作り」が持論だ。ハンドメードなら一からやり直しが必要なサイズ変更や大きな修正が、自宅のパソコンでデータに手を加えるだけで可能となる。

 ただ、3Dプリンターは“何でもできる魔法の箱”ではない。あくまで「カッターや電動ドリルと同じ、道具の一つ」。モノ作りはアイデアやイメージを形にする仕事。道具はその補助のためにある。

 ルアー1つ成形するのに1~2時間かかるため量産には向かない。それでも3Dプリンターで金型を作る技術も進歩しており、個人での量産も夢物語ではない。斉藤は「モデリングできる人を増やしたい」と講座も開いている。一家に一人、日常生活で浮かぶアイデアを形にできる人がいれば、家庭が“工場”になる時代が来るのかもしれない。=敬称略=

 《1つ5万円から》modelsでは、ルアー1つ5万円からデザインを受け付けている。3Dデータの大まかな製作は「1~2日」というが“魚が釣れるルアー”とするため「テストしながら、ひたすら調整が続く」という。製作指導や、モデリング講座も請け負っており、斉藤は「Fusion360を使って最も3Dプリンターでルアーを作る男」を自任している。

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