インフラ企業の技術者教育を学ぶ 第4回 安藤ハザマは、経営戦略に応じた研修プログラムで技術者を育成


人材を採用すると、企業がまず行うのは研修。研修内容は企業により様々だが、いわゆるOJTの名目で、現場に丸投げするなど、企業によって大きく差がありそうだ。

もちろん、企業理念や経営戦略を人材の育成に反映している会社も数多くある。

今回は、「黒部ダム」「青函トンネル」など、ダム・トンネル施工で高度な技術を誇る大手ゼネコン、安藤ハザマ(安藤・間)を紹介する。
○「マネジメント」と「技術」の教育に力を入れている

安藤ハザマは従業員の教育研修などでは、どのような点に重きを置いているのか。人事部 人材開発グループ 新居秀一さんに話を聞いた。

新居さん「当社の人材教育では2つのことに力を入れています。1つ目は『マネジメント教育』で、初級、中級、上級へとレベルアップしていく『階層別研修』を採用しています。
2つ目は『職種別の技術教育』。こちらは、マネジメント教育と同じ階層別研修と、専門領域に分かれて行う『専門技術研修』があります」。

階層別研修は、「1年目」「3年目」「4~8年目の間」に実施。

専門技術研修は、トンネルやダムなどの工種別にプログラムが分かれており、キャリアに関係なく各支店で専門工種に従事する技術者が受けることができる。
○新人研修を5カ月間も実施

3月に発表した「3カ年の中期経営計画」では、人材育成という施策を打ち出し、若手の早期育成とシニア社員の支援による技術伝承を強化。

工事主任の昇格を30歳、所長昇格を35歳へと、前倒ししたキャリアパスをつくり、合わせて教育内容も見直したそうだ。

新居さん「社員の年齢構成は50代が多く、40代は非常に少ないです。今の50代が定年になった後も、施工の現場力が一定のクオリティーを保ちたい。そのため、若手の早期育成が重要な鍵になっています」。

全体研修で特に力をいれているのは、新入社員研修だという。

今まではビジネスマナーなどを習得する2週間程度の研修だったが、それでは現場に配属された後にイチからスキルを身に付けなければならないので、苦労する技術者も多かったようだ。

そこで研修で基礎的な知識・技術を習得できるように期間やプログラムを大幅に刷新。初年度は3カ月間実施した研修をさらに見直し、現在は5カ月間の新入社員研修を実施している。

新居さん「私たちは施工管理技術者として、構造物やダムなどをつくる職人さんや協力会社さんをマネジメントします。しかし、職人さんが取り組んでいることを自分で経験しないと、作業工程、原価などが管理できないため、自らも『鉄筋や型枠を組む』という職人さんの仕事を体験しています。それと合わせて、品質管理などのマネジメントやCAD実習、それに基礎的な力学なども習得します」。

職人と技術者、両方の立場を経験することで、戸惑わずに現場の業務に入っていくことができる。また研修講師は本社の技術部門に在籍するベテラン技術者と各支店の現場から選抜された若手職員なので、研修後も、仕事について相談できる関係になるそうだ。

長い研修期間を共に過ごすことで、同期生との絆も深められる。そういった副次的な効果も得られるという。

新居さん「ここ数年は、35歳所長を実現させるために、原価管理研修や主務者/次期主務者研修といった原価意識やマネジメント力を身に付ける研修の内容を強化・実施してきました。もちろん経営戦略などに合わせて、その都度研修期間や内容は見直しています」。
○学習要素のある現場で学ぶ「専門技術研修」

技術力を高めるための柱となっている「専門技術研修」は、毎年1回各技術部門が主催して実施している。

新居さん「トンネルの技術部門に関していえば、今年は熊本地震の災害復旧工事を行っている、二重峠トンネルの現場を研修場所にしました。

ここでは、新しい入札方式や新しい設計・工法を導入しており、最新の技術や山岳トンネルの現状などが学べるからです。全国から約40名近い技術者が集まり、トンネルの品質向上に向けて、意見交換を行います」。

ダム技術者、トンネル技術者、構造物などの部門ごとに、その都度学習要素のある現場が選ばれ、1泊2日で勉強会が実施される。

座学が中心ではあるが、集まった技術者同士で情報交換をしたり、ワークショップをしたりし、新たな視点や気づきが得られる機会になっている。
○習熟度を共有する社内システム

一方、OJT研修はどのように行っているのだろうか?

新居さん「若手技術者は、まず目標を立て、それに向かって1年間どういうことを取り組んでいくのか、OJT指導者と呼ばれる上司との面談ですり合わせます。

上司のもとで業務を習得しながら、半年後には、途中経過を振り返ります。そして、進捗度合いに応じて、その後の取り組みなども改めて考え直します」。

このときにベースとして使っているのが「OJTチェックシート」というもの。このシートには、年次ごとに、どういうスキル・能力を習得するべきかが土木・建築の部門別で整理されていて、半期ごとにその達成度合いを指導者と確認する。

OJTチェックシートは、社内システムで管理され、異動先でも技術者の過去の習熟度を確認できるのが大きな特長である。技術者にとっては成長の実感が得られ、OJT指導者にも指導しやすいツールだという。

新居さん「OJTチェックシートは社内に導入されて20年以上が経ち、技術者にとっては必要不可欠なツールです。OJT指導者もこれを使って成長したので、リストの長所・短所を理解し、必要に応じて項目の見直しや改善を図っています。

最近では、若手の早期育成のため、『原価管理』などの項目を早い時期からとり入れています」。
○土木と建築の職種の垣根を越えて対話を増やし、イノベーションを起こす

今後について聞いてみると、中期経営計画がスタートしたばかりだが、技術者の早期育成の他にも垣根を越えた動きも始まりつつあるようだ。

新居さん「中長期経営計画の大テーマとして『イノベーションによる成長の実現』を掲げており、社員同士の対話を増やし、研修を通じてイノベーションを起こせるような環境をつくっていきたいと思います。

その流れから、土木関連技術者と建築関連技術者で、お互いに良いところや異なる意見をもっと取り入れていこうという動きが始まります」。

経営戦略に応じて、柔軟に研修期間や内容を改良している安藤ハザマ。特に、チェックシートを使ったOJT教育は、常に本人と上司が同じ視点で技術の習熟度を把握できるので、2人3脚で技術の向上に取り組んでいける。

ジョブローテーションによる、社員の異動が多い企業には、参考となるマネジメント手法ではないだろうか。

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