BTS騒動が問う、植民地支配と原爆投下をめぐる日韓国民の歴史認識の隔たり


「原爆Tシャツ」の着用や「ナチス風パフォーマンス」の披露が問題視され、テレビ番組『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)をはじめとして音楽番組への出演が取りやめになった、韓国の男性アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」。11月13日、BTSの所属事務所が、公式ファンクラブのホームページ上に謝罪文を掲載した。米国を拠点とするユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)」と被爆者団体・日本原水爆被害者団体協議会被団協は、この謝罪を受け入れた。

今回の問題をどう見るか。上智大学文学部新聞学科の水島宏明教授から聞いた。

「『ミュージックステーション』は、『原爆Tシャツ』を着ていたからただちに出演を取りやめにしたということではなくて、BTSサイドと協議したらしいです。当事者の言い分を聞いた上での判断ということです。他の民放各局に関しては、日本特有の空気を読むという風習で、『テレ朝さんが出演取りやめにしたなら、それに倣えばいいのかな』となったのだと思います」

レイシスト団体がBTSメンバーの「原爆Tシャツ」着用に関して、『ミュージックステーション』のスポンサーに抗議行動を煽っていたということもあった。

「そういうことがあったのだとしたら、影響はあったでしょうね。フジテレビが韓流ドラマを放送していた時にデモをかけられた際、表向きは『影響は受けていない』と言いましたが、実際には打撃を受けたわけです。それが、局だけでなくスポンサーにまで迷惑をかけてしまうということになれば、だったらやめておこうという心理は働きますね。『NHK 紅白歌合戦』の出演者にBTSが入らなかったことについては、NHKは『紅白』の選考基準を明らかにしていないので、当初からBTSが有力視されていたかどうかも含めてわかりません」

●BTS問題と徴用工判決

『紅白』では、メンバーが従軍慰安婦を支援するメーカーのTシャツを着ていたということで、TWICEの出演も疑問視されていたが、出場者に選ばれた。日本国内でも議論になる際に争点になるのは強制連行の有無であり、従軍慰安婦の存在そのものを否定する声はきわめて少ない。戦時中の不幸な出来事であることには違いなく、元従軍慰安婦の方々を支援することは反日とはいえない。一方、原爆を是とする声は日本では皆無であり、反日か否かではなくヒューマニズムの問題ととらえられている。BTSが選ばれず、TWICEが選ばれたのは理に適っているという声もある。

「仮にそれが理由だとしたら私もそう思いますけど、NHKが何も言わないのでわかりません。BTSはものすごく人気がありますから、入れてもいいじゃないかという気持ちもわかります。ただ、『紅白』というのは忖度の象徴みたいな番組です。本番で非難を浴びる可能性のある衣装を着てしまうのではないかとか、『なんでそんな原爆のTシャツを着た奴らを出すんだ』みたいな声がどこかの議員から上がるとか、そういうリスクがちょっとでもあるんだったら、やめようという話にはなるでしょうね」

BTSの一連の番組出演取り消しに関して、韓国大法院の徴用工判決に対する文化的報復だとする批判も、韓国では広がった。

「それは、ありえないですね。テレビ朝日は一民間企業であり、『ミュージックステーション』は、そのうちの一つの番組にしかすぎません。仮に徴用工判決をけしからんと思っているテレビ朝日のトップがいたとしても、番組に介入するということは考えられません。テレビ局の人たちは、どんなタレントを出すかという時には、どれだけ視聴率を取れるかという、ある意味とても純粋なバロメーターで行動します。今、若い人たちにとても人気のあるBTSを呼べば視聴率が上がるというのは間違いないわけですから、政治的配慮で外すということはありえない。むしろ先ほど出たようなスポンサー絡みのいろいろな不利益があるんじゃないかということで動くことは当然あると思います。民間放送ですから」

●韓国の教育、国民の考え方

今回、「原爆Tシャツ」や「ナチス帽」の着用、「ナチス風パフォーマンス」が問題となった。すでにBTS側が謝罪しているとおり、どれも問題だが、そもそも反日であるならばナチスを礼賛するのはチグハグで一貫性がない。

「簡単に言うと、軽いノリなんです。欅坂46もナチス風衣装で批判を浴びましたよね。力に対する憧れなのか、なんなのか、かっこいいものの一つとして見てしまうということなんだと思います。

原爆Tシャツにしても反日という強い意識があるわけではなくて、日本の植民地支配から解放されたのは原爆のおかげだというイメージが、韓国の国民にはとても根強いわけです。そういう教育を受けているわけですから。BTSのメンバーがあのTシャツを着ていたのはプライベートな場面だと思いますが、韓国アイドルを好きな学生に聞いてみると、他のグループでもあのTシャツを着ていたりするわけです。韓国の人たちは、原爆というものを正当化するような考え方でずっと生きてきている。そういう社会的な背景があるんだということを、いい悪いは別にして理解しないといけないでしょう。

これは何も韓国に限らず、原爆を落としたアメリカをはじめとして連合国の人々の大半は、原爆によって日本の戦争は終わったと思っているでしょう。沖縄戦が長引いているなかで、当時の日本は『国が焦土となろうと、徹底抗戦するんだ』というようなことを言っていたわけです。原爆という決定的な要因がなければ、いつどのようなかたちで戦争が終わったかというのは、なかなかわかりません。アメリカが原爆の加害の部分をどの程度認識したり反省してるのかというのは置いておいても、やっぱり事実として原爆というのは決定的な要素だったというのは、そう考えてもおかしくはない。

原爆のTシャツを着ていたことで韓国の人気グループがテレビ出演を取り消されたということで、日本と韓国の間で歪みが生まれているということは、CNNなどでも報じられましたけど、原爆に対して当事者であり、関心を持っている人が多い、しかも肯定的に受け止めている国民が多いアメリカで、ニュースになるというのは当然のことでしょう」

●「対話を通じたお互いの理解」

今回の問題で、韓国と日本の歴史認識の隔たりが浮き彫りになったかたちだが、そこから何を学ぶべきだろうか。

「原爆Tシャツを着ていようがいまいが、BTSを好きな人たちは日本にはたくさんいるわけです。韓国で結成されたTWICEには日本人や台湾人のメンバーもいます。そういう交流が増えていることは総体としてはいいことですけど、それとともに歴史認識をめぐるギクシャクはこれからも表面化するでしょう。韓国の国民には、従軍慰安婦問題とか徴用工の問題など、植民地支配のわだかまりが残っている。日本としては、そのあたりの加害責任はぴんと来てないところがある一方で、原爆はすごく傷跡の深いものとして今でもあるわけです。こうした隔たりが現れたのが今回の事件だと思うので、お互いに理解し合いましょうよということで終わっていいのではないでしょうか」

BTSの所属事務所の謝罪を受け入れた、被団協の木戸季市事務局長は「こうした表現をめぐる問題では、対決や分断を煽るのではなく、対話を通じてお互いの理解を深めるほうが望ましい。核兵器とはどういうものなのか、何が問題なのかといった点をめぐり、話し合いをしていきたい。BTS側にもそう説明し、一致した」と語った。

BTSの所属事務所は11月16日には、当時、広島や長崎にいた韓国の被爆者が多く住む、南部・慶尚南道陜川郡を訪れ謝罪した。韓国原爆被害者協会は謝罪を受け入れBTSに理解を示す一方、協会のイ・ギュヨル会長は「日本はTシャツを問題視し、戦犯、加害者として謝罪するどころか世界唯一の被爆国であるかのように振る舞っている」と批判した。

お互いの理解を深めるためには、日韓双方の努力が必要といえるだろう。
(文=深笛義也/ライター)

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