「夫は発達障害かもしれない」その気づきが夫婦を救った――光武克の「発達障害BARにようこそ」

日刊SPA!

2018/12/1 15:55



― 光武克の「発達障害BARにようこそ」第4回 ―

東京・渋谷にある発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」。ここは、マスター以下スタッフのほぼ全員が“発達障害の当事者”であるバーです。当店には毎晩、僕らと同じように発達障害の悩みを抱えたお客さんたちが数多くいらっしゃいます。そんな生きづらさを抱えた方たちが少しだけ羽を休めに立ち寄るバーの日常を、僕、マスターの光武克(みつたけ・すぐる)がご紹介します。

====【発達障害とは?】====

■自分の世界に閉じこもりがちな「自閉症スペクトラム症」(ASD)

■注意欠陥と衝動性が強い「多動性注意欠陥障害」(ADHD)

■特定分野(計算だけ異常にできないなど)の理解が困難な「学習障害」(LD)

上記の3種類が一般的に知られている。発達障害者はそれぞれ複雑な“特性”を抱えそれによって日常生活において、さまざまな支障が出る人も多い。

=================

もう12月、めっきり冷え込む日が増えてきましたね。そろそろコートを出そうかと思い、クローゼットの中を探すも、クリーニングに出しっぱなしで引っ越してしまったことに気づき、むしろ気づきたくなかったと、しばし呆然となりました。日々、こうした自分のひどすぎる(発達障害の特性の一つである)注意欠陥にあきれつつも、今日も元気に生きている光武です。皆さんこんにちは。

さて、そんな寒い時期だからこそ、今回は心温まるお話をお届けしたいと思います。とってもいい話なので、是非皆さんにお話ししておきたいんです。

今回のお客様は古賀真理子様といいます。なんとありがたいことに、この日刊SPA!での連載を見ていらっしゃったというお客様です。連載も4回目となるとちょっとはファンらしきものがついてくれているようでうれしい限りですね。より正確に言えば、僕はとっても自己評価が低いので、連載が始まる前はまったく読まれず数回で打ち切られる想像ばかりしていましたから、ちょっと恥ずかしいけど素直にうれしいというのが本音です。

また話が逸れてしまいましたね。閑話休題。古賀様がいらっしゃったのは、たしか先月のことでした。日刊SPA!の連載記事を読み、思うところがあってお店に足を運ばれたというのです。さて、彼女が抱える問題はいったいなんなのでしょうか?

◆夫婦間でのコミュニケーションに長年悩んでいた

光武「いらっしゃいませ」

古賀「はじめまして。あの、光武さんの連載を読んで相談したいことがあって来ました」

光武「それじゃあ、まず注文を伺ってから話を聞きましょうか」

古賀「えっと、じゃあジンジャーハイボールをお願いします」

光武「かしこまりました」

ちなみに、実際にお店にいらっしゃる方はご存知なのですが、僕は昼間はフリーランスとして塾講師や執筆・文章校正の仕事をしています。仕事後には着替えずにそのままお店に入ることが多いので、パーカーなどのラフな格好でカウンターに立っていることが多いです。加えて、これは発達障害の方によくあることなのですが、普段から“自由”に生きていらっしゃる方が多いからか、実際の年齢よりも若く見られる人が多いんですね。お客様のなかには自分のことを「3歳と324か月(27歳)です」と、自己紹介する猛者もいます。

ちなみに、この「BRATs(ブラッツ)」という店名もそんな“自由気まま”な感じからとっています。「BRAT」とは「うるさい・行儀の悪いがき、子ども、ちび」という意味で、それを複数系にしているんです。

古賀「連載を読んですごく感動しました。私、ずっと悩んでいたのですが、主人が発達障害なんじゃないかって思えるきっかけになったんです」

光武「ちなみにどの記事を読まれたのですか?」

古賀「すべて読んでいるんですけど。きっかけになったのは2回目の記事でした」

光武「ああ、橋本さんの(ASDの傾向があり、こだわりが強すぎて長年恋人を作れなかったという女性)。橋本さん、記事には書いていない話もたくさんあって、本当にこだわりが強い人なんですよ」

古賀「そうなんですか。実は主人もすごくこだわりが強くて。ずっと私のことをないがしろにしているように思っていたんです」

光武「それはきつかったですね。橋本さんもそうでしたが、自分で自分のこだわりの強さを自覚するまで本当に生きづらいと感じていらっしゃったみたいです。何度も自殺を考えたとおっしゃっていましたし」

古賀「では、きっと主人もきつかったんでしょうね。ずっと自分が主人からないがしろにされていて、私には関心がないんだと思っていたんです。いくらこちらから話をしても、自分のことにしか興味がないようで、どんどん会話がかみ合わなくなっていったんです。家の中でも何年もずっとそんな感じで、そんな状況に耐えれなくなって、限界を迎えてしまって。それで離婚の話を進めていたときに、記事を読んだんです。『もしかして主人は私に関心がないのではなく、人一倍こだわりが強いだけではないのか?』って思い、主人にお願いして病院に行ってもらいました」

光武「それでどうなりましたか?」

古賀「結果はまだ出ていないのですけど……。ただ、カウンセラーさんからはその傾向(自閉傾向)が強いので、可能性は高そうだといわれたみたいです」

光武「なるほど」

古賀「診察とカウンセリングの後、主人が思いつめた顔で『ごめん』ってあやまってくれたんです。それまで離婚の話をしても、私のわがままだとあまり取り合ってもらえないことが多かったんですけど……」

光武「………」

古賀「なんでしょう。その言葉を聞いて、本当にこの人悪気がなかったんだなって私も思えたんです。それで相手のことを理解してみたいなって少し思えたことが私にとって驚きでした」

光武「古賀さんご自身は大丈夫だったんですか?」

古賀「私も離婚を考えるまで思い詰めていたようで、抑うつ状態が強いので、カウンセリングを勧められました」

光武「カサンドラ症候群ですね。古賀さん、本当に大変でしたね」

簡単に説明すると、カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群がある人とのコミュニケーションがうまくいかないことによって、家族や友人など身近にいる人に心身にも不調が生じる二次障害のことです。特に妻や夫といったパートナーに起こる場合が多いと言われています。対人での関係性による障害であることから、状態として捉えられることもあります。

◆発達障害だと知ることで夫婦間のズレを正せることもある

古賀さんは自閉傾向の強い旦那さんと一緒に暮らすことで、自分が病気になるまで追い詰められてしまっていました。旦那さんの自閉傾向の強さを知ることで、自分も受診するきっかけとなったのです。まだ治療は始まったばかりでしょうけど、夫婦で是非この困難を乗り越えてほしいと思います。

古賀さんと違い、僕は自分の特性が著しく偏っていることを自覚したときにはすでに夫婦間のズレが修正不可能なほど大きなものになっていました。特に、僕は言語性に特化した脳機能を持っているため、元奥さんから言葉で言われたことを、言葉通りにしか理解することができなかったのです。

極端な例を挙げると、一度「あなたのことが好き」と言われたら、「あなたのことが嫌い」と言われるまで、相手のなかで起こっている感情の変化に目を向けられないのです。僕の脳内では、「好き」と言われたら、新しく情報がアップデートされるまでずっと「好き」という感情が持続していると考えてしまうのです。本当に機械みたいなやつだなと思います、我ながら。

光武「僕は一度離婚を経験しているので、古賀さんは離婚にいたる前にお互いに向き合う時間がつくれてよかったと思います。僕の記事がきっかけでそういってもらえるなら、なおさらです。」

古賀「本当に私たち夫婦を助けてくださってありがとうございます」

僕は自分がピエロであればいいと思って生きてきました。僕のような失敗ばかりの人間だって、その失敗を笑ってもらえたら少しくらい人の役に立てるんじゃないかなと。でも、まさかこんな形でお礼を言ってもらえるとは思ってもみませんでした。この瞬間は涙が出るほどうれしかったです。道化になる以外の方法で僕は人の役に立てるのかと。新しい自分に出会えたような気がしたのです。

「お礼を言うのはこちらのほうですよ、古賀さん」。そういいながら僕は頭を下げました。正直、嬉しくてちょっとだけ涙が出そうだったんですが……ほかのお客様からの「光武さ~ん、お酒作ってよ!」との声で現実に戻ります。

光武「はい、かしこまりました。古賀さん、ちょっと行ってきますね」

古賀「光武さん、お話聞いてくださってありがとうございました」

今日もブラッツは満員御礼です。では接客頑張りますかね。今回もご愛読ありがとうございました。それでは、またのご来店お待ちしております。

*お客側の登場人物はプライバシーの問題から情報を脚色して掲載しています。

<文/光武克 構成/姫野桂 撮影/渡辺秀之>

【光武克】

(みつたけ・すぐる) 発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP(brats.shopinfo.jp) ツイッターアカウント「@bar_brats」

あなたにおすすめ

ランキング

もっとよむ

注目ニュース

もっとよむ

あなたにおすすめ