フランスは自国経済のために「日産・ルノー経営統合」を強硬に推進する


 11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が有価証券報告書の虚偽記載の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。22日には日産が臨時の取締役会を開き、ゴーン氏の代表権と会長職を解くこと、および、グレッグ・ケリー代表取締役の代表権を解くことを決定した。

ここで重要なことは、全会一致で決議がなされたことだ。日産には、43%の日産株を保有する親会社ルノー出身の取締役が2名いる。当初、この2人の取締役はゴーン氏の会長解任に反対する可能性があると見られていた。なぜなら、ルノーの株式の15%を保有するフランス政府は、ルノーと日産および三菱自動車の経営統合をめざし、ゴーン氏の手腕を重視していたと考えられるからだ。全会一致でゴーン氏の解任などが決議されたということは、ルノーおよびフランス政府がゴーン氏の不正は見逃すことのできない重大な問題だと認識した可能性を示している。

一方、フランス政府にとって3社の経営統合を実現することの重要性には変わりがないだろう。特に、自動車産業は国内の雇用対策を進める上で大きな役割を果たすと考えられる。今後、捜査が進むなかでフランス政府やルノーが日産に何を要求するかによって、同社の経営には大きな変化があるだろう。

●ゴーン氏逮捕

ゴーン氏の容疑は具体的には、日産が作成する有価証券報告書にゴーン氏が受け取っていた報酬額が過少に記載されていたというもの。この有価証券報告書の虚偽記載が逮捕の理由である。

2010年3月期から、上場企業は年1億円以上の報酬を受け取る役員名と報酬額を個別に開示しなければならなくなった。虚偽記載を行った場合、1000万円以下の罰金もしくは10年以下の懲役、あるいはその両方が科される。有価証券報告書とは、公益および投資家保護のために事業年度ごとに企業(法人)が作成し、事業や財務状況などを記載する報告書をいう。

この定義に基づくと、ゴーン氏が逮捕された背景には、日産が当局との司法取引を行ったことがあると考えられる。19日の日産の記者会見を見る限り、ゴーン氏の権力欲と強欲さはすさまじく、どこかでそれにブレーキをかけなければならないという危機感はかなり強かったようだ。そのほかにも、日産からはゴーン氏が会社資金を不正に使用していたことが発表されている。具体的には、2010年頃に日産がオランダに設立したベンチャー投資を目的とした子会社を経由して、レバノンの首都ベイルートの高級住宅などが購入された。それをゴーンは無償で使用していたとされる。そのほかにも、ゴーン氏は会社資金を不正に流用していたようだ。

日々、ゴーン氏の不正行為に関するさまざまな情報が出てくるなか、今後の展開は事実の解明とともに考えなければならない。報道では、有価証券報告書に記載されなかった報酬額は、ゴーン氏が退任後に受け取るよう処理されていた疑いも浮上している。今後の捜査と日産社内の調査の進捗とともに、日産がどのようにしてゴーン氏に報酬を支払うよう取り決めていたか(ゴーン氏と日産の契約内容の実態)、実際にどのような処理が行われていたか、誰がそれに関与していたかなどが明らかになるだろう。

●経営統合を重視するフランス政府

日産の経営には、フランス政府の利害が密接に絡んでいる。フランス政府は日産の親会社である仏ルノーの株式を15%保有する筆頭株主だ。近年、マクロン政権はルノー・日産・三菱自の3社のアライアンス体制(資本上の提携関係を維持しつつ、各社の独自性を保つ経営体制)ではなく、経営の統合を重視してきた。

ゴーン氏が逮捕された後も、フランス政府の基本的な考えに変化はない。25日、ルメール経済・財務相が、アライアンスのトップにはフランス人が就くべきとの考えを示した。また、同氏はゴーン氏の有罪が明らかになるまでは、「推定無罪の原則(証拠に基づいて有罪であることが確定するまでは、罪を犯していないと推定されるという考え)」が働くとの立場も明確にした。その考えに基づき、ゴーン氏はルノーの会長職に留まっている。現状をまとめれば、ゴーン氏が逮捕されはしたが、その問題が3社のアライアンスの運営に影響を与えることはないというのがフランス政府の立場だ。

その背景には、マクロン政権の経済政策が影響している。同政権が経済対策で成果を上げるためには、国内の雇用を増加できればよい。そのために、自動車企業の役割は重要だ。なぜなら、自動車産業は豊富な労働力を必要とする組立型産業の代名詞といえるからである。足許、マクロン大統領の支持率は低下している。点数稼ぎの意味でも、3社の経営統合が実現する意義は大きい。マクロン政権が易々と経営統合を諦めるとは考えづらい。

その上、フランス政府は国内自動車産業の競争力も引き上げたい。足許では自動運転技術やEV(電気自動車)の開発など、世界の自動車業界は100年に一度ともいわれる大きな変化に直面している。経営統合は、ルノーが経営規模を拡大するだけでなく、より効率的に新しいテクノロジー開発を進めることを可能にするだろう。

●不透明感高まるアライアンス体制

今後、3社のアライアンス体制がどのように運営されていくかは読みづらい。捜査などを受けて、さらなる問題が明らかになる可能性も否定はできない。先行きが読みづらいなか、当面は、日産自動車がどのようにして関係者の納得を獲得し、ゴーン氏の後任を選ぶかに注目が集まるだろう。

特に、全会一致でゴーン氏の会長解任などが決議されたことは重要だ。記者会見での西川(さいかわ)廣人社長の発言を基に考えると、日産の社内にはトップ一人に大きな権限が集まることへの危機感が蓄積されてきた。全会一致で解任が決議できたということは、日産経営陣の危機感に対してルノーおよびフランス政府がそれなりの理解を示したということだ。日産はこの状況をうまく利用し、ルノーの納得を取り付けてゴーン氏の後任を取締役の中から選定する必要がある。それができれば、アライアンスを維持しつつ社内の動揺を鎮静化し、成長に向けた戦略を策定・執行することができるだろう。

反対に、日産がルノーおよびフランス政府の納得を得られない場合、両社の関係がこじれる恐れがある。そうなると、日産の組織全体において士気が低下する恐れがある。そのなかで、日産がコーポレート・ガバナンス(企業統治)の改革を進めたり、成長に向けた新しい取り組みを進めることは難しくなるだろう。

現状、日仏両国政府は日産の経営問題に関して過度の干渉を控えることを確認したと報じられており、フランス政府の意向を反映したルノーが、日産の株を買い増すことは容易ではないだろう。リーガルリスクを抱える企業の株を買い増すことに関しては、ルノーの株主からも批判が強まる可能性がある。全会一致でゴーン氏の解任が決議されたことを受けて、どのようにして日産経営陣が経営体制の立て直しを進めることができるか、それにフランス政府がどう反応するかが当面の焦点とみる。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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