八尾市さくら保育園、男性保育士による女子園児わいせつ行為を「スキンシップ」と強弁


 大事に育てている愛娘のファーストキスが、信頼して預けている保育園の男性保育士に奪われていたら……。そんなゾッとするようなことが現実に起きたのが、大阪府八尾市にある「さくら保育園」である。

同園で保育士として働いていた和田敬之被告は、女子園児の身体に触るなどしたとして、今年6月に逮捕され、起訴された。さくら保育園は来年4月から休園する方針を固めた。和田被告が行っていたのは、園児に目隠しさせ舌を出させ自分の舌で舐める、ズボンの下から手を入れて下半身を触る、プールでの着替えの際に全裸の女児に触るという、卑劣きわまりないわいせつ行為である。

保育士向け転職悩み相談サイト「ほいくのおまもり」を運営する、男性元保育士から話を聞いた。

「男性保育士による女児へのわいせつ行為というのは、そうそう起きることではありません。もしそういうことが起きれば、懲戒処分されるということになります」

平成26年の国勢調査によると、保育士登録者数は約119万人。そのうち男性保育士は約5万人で全体の4%ほどとなっている。家庭でも父親が育児に積極的に参加する時代なのだから、保育園でも男性保育士の存在は幅広い育児が可能になると歓迎する声も多い。

報道をたぐっていくと、男性保育士による女児へのわいせつ行為は稀にはあるが、職場は懲戒解雇され刑事処分も下されている。さくら保育園の件が大きなニュースになっているのは、被告の父親が園長で、母親が副園長であり、とりわけ母親が「保育士はスキンシップをするんです」「敬之は慕われていたんです」などと本人をかばっていたからだろう。

「保育園というのは血縁者で経営陣を固めている『一族経営』が他業界より多くあります。それが何代も続いていたりするんです。それがすべて悪いというわけではないですが、一族の常識が世間の非常識になってしまっている場合があるんですよ。今回の件でも、保護者から息子の行為を聞かされて『ビックリですね』なんて答えるというのは、一般の感覚とはかけ離れていますよね。先代からやっていて、その園でしか働いた経験がなくて園長や副園長になっている可能性もあります。外の世界を知らないで、自分たちのルールで運営してきて、深刻な性的虐待をスキンシップと言ってしまうというのは、いかに閉じられた世界で運営されてきたかということじゃないかと思います」(同)

●保育業界、独特のルール

被告のわいせつ行為を目撃しながら声を上げることができなかった保育士が、涙ながらに謝罪する姿も、7月の保護者説明会では見られた。

「これも一族経営と関連していますね。一般の会社にたとえてみれば、両親が経営者で、社員にその息子がいて、なにか会社で違法行為をした時に『あなた、何をしているんですか』とそうそう言えるものではありません。下手したら、言ったほうがクビになりかねませんよね。保育士さんは、子どもが好きというところから始まっている人がほとんどなので、子どもが目の前で大人の男性にわいせつなことをされているのを見て、それを指摘することができなかったというのは本当に辛いことだったと思います。それで涙ながらの証言になったんでしょう。

一族経営で外の世界を知らないという話をしましたけど、保育士さんも、その保育園しか知らないという場合が多いんですね。専門学校などを卒業して就職するわけですけど、専門学校の段階で実習があって、実習した園で気に入られると、『卒業後うちに来ないか?』って声がかかったりするんです。そのまま就職して、実習からそこしか知らないでずっと働いているっていう保育士さんも多いんです。

そうではない場合でも、保育士は一般の就職とは違うんです。他の職業だったら複数社の採用試験にエントリーして、いくつか内定をもらってそのなかから選びますよね。だけど、保育園は一本釣りなんですよ。学校に来ている求人に応募したら内定が出るまで他を受けてはならず、内定をもらったらそこに行かなければいけないということが多いんです。

保育士は転職もあまりしない傾向があるので、1つの園しか知らなかったりするんですね。一族経営で独特のルールができ上がってしまっている園に入ると、それに抗うのは難しいということはあると思います。園のなかで声が上げられなかったとしても、行政に相談するという手段はあったと思います。とにかく、外の世界を知らないということが、今回の問題の根底にありますね」(同)

今回の件で、さくら保育園で働いていた保育士30人は一斉に退職の意向を示した。収入の低さや労働環境の問題が語られることの多い保育士だが、このような一斉退職はよくあることなのだろうか。

「今年の3月に横浜市鶴見区の保育園で、園長、主任含めてごっそり11人が退職するということがありました。これは新しくできた保育園に引き抜かれたのですが、こういう例は稀です。確かに保育士の収入は低くて、だいたい年収300万円くらいで、経験を積んでもあまり昇給はしません。それでもがんばっているのは、子どもが好きだっていうことが根底にあって、それに伴って子どもへの責任を強く持っているからです。一般の仕事であれば、何か理由があったら1カ月前に辞職の意向を伝えるというのが普通だと思いますけど、保育士さんの場合は、辞めようという場合でも3月末まではがんばろうと考えますね。あるいは3歳児の担任をしていたら、この子たちが卒園するまでは面倒を見たいのでがんばろう、と考える保育士さんもいます。やはり大きな問題があったから一斉退職ということになったので、そうそう起こりうることではないですね」(同)

●必要な外部の目

さくら保育園は来年4月から休園するために、園児約160人は別の保育所などに移ることになる。さくら保育園は補助金で運営されている社会福祉法人であるから、行政の指導で第三者委員会をつくり経営者を交代させることもできるのではないか。

「経営陣を代えるというのがベストでしょう。だけど、保育園というのは、その市区町村が認可を出してるんです。経営陣のことを問題にすると、認可していた行政側も責任を追及されかねません。今回の件では、マスコミに報じられたから職員が集まりにくいということを行政側は言っていますけど、経営陣のことを責められないからマスコミのせいにしているのではないでしょうか。経営陣を代えるという方法を採らないのは、端的に、めんどくさいということもあると思います。他の保育園に移ってくださいというほうが簡単じゃないですか。こんな問題が起きた後なので、よほどしっかりとした経営者を探さないといけないけど、そう簡単には見つからないでしょうから。ただし、近年は保育園が乱立し、保育の質の低下が叫ばれています。私のサイトにも驚くほど劣悪、かつ酷い経営・運営をしている保育園に関する話が届いています。そうなると、今までは極めて稀だった保育士の一斉退職という自体が、今後は増えてくるのではないか? と懸念しています」(同)

今回の問題が、保育業界が抱えている問題に通じる部分はあるのだろうか。

「外部の目が入りづらいということがありますね。ご承知のように、保育園が足りなくて困っている親御さんたちが多い状況なので、外部の目を入れるということにインセンティブが湧かないんですね。保護者の方たちは自分が働くために、とにかく子どもを預けられる保育園がほしい。今、待機児童が本当に増えていてニーズがすごく高い。とにかく保育園をつくらなきゃいけない状態で、質より量。試験のハードルを低くする代わりに合格した地域だけで働けるという、地域限定保育士という試みが各地で今行われています。要は保育園という箱をつくっても、人がいないと困るので、何がなんでも人を増やそうということです。人を増やそうと考えるのだったら、働きやすい環境をつくるということも考えるべきでしょう。保育士の獲得という面からも、外部の目を入れて内部をきちんと公開していくべきだと思います」(同)

●八尾市は取材拒否

さくら保育園で起きた問題をどう捉えているのか、八尾市こども未来部子育て支援課に問い合わせたところ、保護者からの要請によって取材への対応は控えているとのこと、被害を受けた幼児や保護者へのケアは行っているとのことであった。当事者である、さくら保育園は現在運営がされているのかどうかも含めて、一切取材には応えられないとのことであった。

日本でも「説明責任」が問われるようになって、長い年月が経った。さまざまな取材を行っていると、たとえ不利な立場であっても、できるだけ取材に応えようとする企業、人物が今では多い。さくら保育園と八尾市の対応には、保育の世界の閉鎖性を見せつけられた感が否めない。
(文=深笛義也/ライター)

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