十代目松本幸四郎にインタビュー  ーー新開場の南座での「吉例顔見世興行」今年は高麗屋の三代襲名披露を実施

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2018/11/10 12:00

今年1月・2月、東京・歌舞伎座で始まった二代目松本白鸚、十代目松本幸四郎、八代目市川染五郎の三代襲名披露。高麗屋では37年ぶりでもあった三代同時の襲名披露興行はその後、名古屋、博多、大阪とめぐり、11月1日(木)より幕を開ける(京都の)南座での「吉例顔見世興行」で締めくくる。今年は、高麗屋三代襲名披露に加え、南座発祥四百年、南座新開場記念という慶事が重なった。昼の部に『連獅子』、夜の部に『口上』『勧進帳』『雁のたより』に出演する十代目松本幸四郎に話を聞いた。

十代目松本幸四郎 撮影=森好弘
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘

――南座での「吉例顔見世興行」が開幕まで1カ月をきりましたが、改めて新開場の南座で三代襲名披露への思いをお聞かせください。

「吉例顔見世興行」で三代襲名をさせていただくのは稀なことではありますが、3人が同じ時代に生きていなければ叶わないことでありますし、加えて父(二代目松本白鸚)が現役の役者として舞台に立っていなければできないことです。そして、息子(市川染五郎)が歌舞伎に憧れ、その道に行きたいという気持ちがなければできないことなので、いずれのことが叶ったという幸せをすごく感じてやらせていただきます。

――白鸚さんは歌舞伎も現代劇もされていますが、そのことで受ける刺激はありますか?

それはあります。僕が抱く父のイメージは“チャレンジャー”です。それこそ『勧進帳』の弁慶しかり、家に伝わるものはしっかりと受け継いでいる中で、それ以上に役者としての可能性を常に追い続けているように見えますし、そういうことが結果として、いろいろなジャンルに挑戦しているということではないかと思います。新しいこと、誰もやっていないことを探すというより、何かお話をいただいた場合は、歌舞伎役者だからやる、やらないと判断するのではなく、興味があるかないか、役者としての可能性にかけるかどうかという判断だったと思うので、その精神には刺激を受けていると思います。
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘

――三代襲名披露が1月・2月の歌舞伎座から始まり、まもなく1年が経とうとしていますが、この間、市川染五郎から松本幸四郎に変わったということに対して、気持ちの変化はありましたか?

市川染五郎は37年間、つけてきた名前でしたので、それを1年足らずで払しょくするということにはならないと思います。なので、これから何をしていくかですね。そのためには舞台に立ち続けるしかありません。三代襲名は僕自身、二度目の経験で、前回は今まで名乗っていた「金太郎」という名前は1回お休みになったのですが、今回は同時に息子が染五郎になり、僕が幸四郎になったので、そう意味では「自分は染五郎ではない」と言われ続けているような感じがしますね。また、襲名披露では「松本幸四郎です。襲名させていただきます」と毎日、お伝えしておりますが、それは皆さんへの披露であり、「自分が幸四郎である」と自分に言い聞かせているものでもあります。

――今年1月、2月に歌舞伎座で行われた襲名披露興行では、『車引』の松王丸、『勧進帳』の弁慶、『熊谷陣屋』の直実を勤められまして、その際に「大役でハードルの高い公演からスタートになると思います」というご発言のインタビューを拝読したのですが、実際はいかがでしたか?

三代での襲名披露興行は一生に一度しかありませんし、それが特別なことなのだという大きさは幕が開いてみて実感しました。どれだけ大変なことなのか、襲名披露興行の責任といいますか。お客様は襲名披露をご承知の上で観に来られるわけですので、一挙手一投足を見られているような感じがしましたね。

――新開場する南座の舞台に立たれるという心境はいかがですか?

新しいものへの気持ちよさは当然あります。また、何か責任も感じます。たまたまですが、前回の南座新装開場でも最初の月に出させていただき、それが南座初お目見えでした。その時は父の『勧進帳』でしたが、今年、また新しくなった劇場の最初の舞台に立つことができて、染五郎も初お目見えで南座に出るということで、何かとても縁を感じますね。

――今回も様々な偶然が重なって、なるべくしてこの時期になったという感じですね。

そうですね。何か狙っているわけではなく、その時期にやる意味があると思います。当時を振り返ってみて「やっぱりやるのはあの時だったんだ」ということに気づいていくのだと思います。幸いなことに今年は、名古屋の御園座もこけら落としでしたし、歌舞伎座も130年という節目の年。南座も発祥四百年です。

――それを考えると、そのために用意されたような気にもなりますが……。

狙ってできることではないですよね。襲名を決めた時点では、2018年11月に南座が再開場ということは決まっていませんでしたから。

――何か、劇場からも祝福されているような感じですね。

そうですね。本当にうれしいです。リニューアル工事中は南座がずっと真っ暗でしたから、本当に寂しかったです。なので、ここに明かりが灯るのは本当にうれしいです。
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘

――出演される演目についてお伺いします。まず、昼の部に『連獅子』に出られます。染五郎さんとの競演になりますが、この一年の染五郎さんの成長をどう感じられますか?

これが本当の始まりだと思います。これからは自分で勉強していく以外は上達のしようがありません。なので、今は「知らないことを知っていく、できないことを出来るようになる」という時期ですね。分からないこと、できないことばかりだと思いますが、もっともっと出来るようになるといいなと思いますね。お芝居の情報は手に入りやすいので知識として蓄えていくことは簡単ですが、それを体や自分の声を使って表現するとなるとまた違います。今は体に叩き込んでいくという、一番大事な時期ではないかと思いますね。

――幸四郎さんも昔を振り返った時に、情報が入ってきてもアウトプットしていくことの難しさやもどかしさは感じられていましたか?

ありましたね。やっているけど、できない、伝わらないと言われる。そのもどかしさがありました。これは一生あるものだと思いますが、頭では分かっているけど体現できないという自分を知る時期だと思います。

――『連獅子』は親子の踊り比べが見どころですが、初めて歌舞伎で踊りを観られる方は、どういうところを楽しんだら良いでしょうか。

踊りをお見せするので、その人の持っているパワーや人間の持つエネルギーを感じていただければと思います。もちろん親子の物語を踊るという設定ではありますが、長唄、お囃子に合わせて体を動かす。表情で表現するのではなく、いかに体を使ってきっちり踊るか。パワーや強さ、美しさ、激しさなど、いろんなことを表現していくので、役者そのものを見ていただくことになると思います。

――続いて『勧進帳』ですが、初役から4年が経とうしていますが、初めて弁慶で舞台に出られた時のお気持ちは覚えていらっしゃいますか?

今思うと夢だったんじゃないのかなと思いますね。初日に緊張しなかったんです。40年以上、憧れてきた役がついにできる日だったのですが、いつもよりは緊張感がないなと思っていて。自分がまさか弁慶をやっていると実感していなかったんですよね。でも、日を追うごとに実感してきて、そうするとどんどん緊張感が増してくるという、そういうひと月でした。

――いつかはやりたいお役を実際におやりになって、役に対して心境の変化などはありますか?

今年に入ってからは1月と7月にやらせていただきましたが、回を重ねるごとに大変さが増していきます。できないことがたくさんあって、演じるたびに一つ一つ課題が見つかって。だんだんこの役の大変さが分かってきました。やればやるほど「もっとこうしなきゃいけない」「ああしなきゃいけない」ということを教えていただき、自分でも反省して、大変な役なんだということを日に日に感じています。
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘

――夜の部の最後は『雁のたより』です。こちらは喜劇ということで、演じられる万屋金次郎はどういう人物でしょうか。

床屋さんに来た若旦那で、そこで世間話をするのですが、言ってみればその時代の上方の風情、生活感が感じられるものをお見せしなければならないので、逆に難しいですね。「一生懸命やりました!」では、できない役ですので、どれだけ力を抜いてその役を楽しめるかという感じだと思います。

――上方の言葉を使われるのでしょうか?

そうですね。そこが一番課題で……(笑)。上方でやるわけですので、なおさらです。

――上方の喜劇に対してどういう魅力を感じられますか。

乱暴な分け方かもしれませんが、江戸のお芝居は比較的ヒーローが多いですよね。完全に強い、完全な2枚目、いわゆる超人的なかっこよさのある人間が主人公ということが多いのですが、上方の芝居は、2枚目だけどお金がないとか、どこか欠点がある人物が主人公のものが多い気がします。そこが人間らしいといいますか、人間臭さを感じて、上方歌舞伎への魅力も感じますね。

――三代襲名披露のいずれの役も設定も個性も全く異なりますが、演目によってすぐに気持ちを切り替えられるのでしょうか?

はい。歌舞伎の場合は、そこがやっていて面白いところでもありますね。1日のうちに何役も演じることが普通ですので、そういう意味では切り替える楽しさがありますし、歌舞伎の特異性も感じます。
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘
十代目松本幸四郎 撮影=森好弘

取材・文=岩本和子 撮影=森好弘

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