草刈正雄がラジオ体操する映画、なぜ実現? 『真田丸』直後快諾の意味


●伊丹十三監督の「日本人とは何か?」
漫画や小説をもとに実写化される「原作モノ」が全盛の中、オリジナル映画に果敢に挑んだ人々を取材する連載「オリジナル映画の担い手たち」。第6回は、日本人なら誰もが知っている「ラジオ体操」を題材にした映画『体操しようよ』(11月9日公開)、その発案者である春藤忠温プロデューサーを取材した。

主演の草刈正雄が演じるのは、60歳のシングルファーザー・佐野道太郎。38年間無遅刻無欠勤だけが取り柄で無事に定年を迎えたが、会社の送別会では冷遇され、これまで家事を押し付けてきた娘・弓子(木村文乃)からは「親離れ」を宣言されてしまう。「悠々自適」とは真逆の現実に打ちのめされるが、近所のラジオ体操会がきっかけで第二の人生に変化が訪れる。

この草刈にオファーしたのは、NHK大河ドラマ『真田丸』で再ブレイクした直後のこと。春藤プロデューサーは、近所でラジオ体操会の存在を知り、同世代の漠然とした悩みや不安から道太郎という主人公像が生まれ、そこに草刈を重ね合わせた。そして、主題歌のRCサクセション「体操しようよ」との出会いとは。『体操しようよ』の“種”を拾っていく。

○『南極料理人』タイトルのドラマ性とは

――この連載を読んでくださっていたと聞きました。

『カメラを止めるな!』の社会現象は、日本の映画界で初めてのことですよね。昔、配給会社の松竹富士にいたのでよく分かるんですが、「ありえないことが起きている」というのが率直な感想でした(笑)。いろんな記事を探していたら上田慎一郎監督のインタビューを見つけて。第1回の白石和彌監督の回も読みました。

――ありがとうございます。どのようなきっかけでこの業界に入ったのでしょうか?

学生時代に8ミリをやっていたので、ずっと「映画を作りたい」という思いはあったんですが、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督みたいに人生を捧げて映画を作るような根性はありませんでした(笑)。松竹富士に就職して配属された宣伝部では、『ラストエンペラー』(88)など主に洋画を担当し、邦画では北野武監督のデビュー作『その男、凶暴につき』(89)、牧瀬里穂さん主演の市川準監督作『つぐみ』(90)をはじめ、数々の作品を宣伝しました。

でも、やっぱり制作に携わりたい……と思うようになり、映画はハードルが高い印象があったので一時はテレビ番組やCMをやっていましたが、結局は映画が恋しくなって(笑)。日本の映画界が復活の気配があった頃……スタジオジブリや『踊る大捜査線』、『世界の中心で、愛をさけぶ』など大ヒット作がいくつも生まれていた頃の2007年から映画制作に関わり、ピクニックという会社では『天然コケッコー』(07)の企画製作に携わりました。原作は、『半分、青い。』でも話題になったくらもちふさこさんです。少女漫画原作は今では当たり前になりましたが、当時のトレンドではなかったと思います。

――その後、2008年10月にパレードを設立されます。

そうですね。2009年に公開した『南極料理人』は、海上保安庁の西村淳さんが書いたエッセイ『面白南極料理人』(新潮文庫)が原作。大手映画会社が映像化に動いていなかった作品でした。2013年公開の『体脂肪計タニタの社員食堂』に至っては、料理のレシピ本を原案にして画期的だと思ったんですが、ブームになってテレビが先に再現ドラマなどを流すようになって、映画公開がその後で興行的には不利な状況になりました。

思えば、『南極料理人』というタイトルにはドラマ性がありますよね。「南極にいる料理人」の話なのか、「南極料理を作る人」の話なのか。当時はよく聞かれました(笑)。『体操しようよ』には原作がありません。あえて挙げるとすれば、「ラジオ体操第一・第二」をモチーフにしたものです。このように、大手さんが反応しないアンテナをいつも張っています(笑)。

――そのアンテナから『体操しようよ』が生まれたわけですね。

阿佐谷に30年以上住んでいます。「近所の善福寺川公園では毎朝6時半に200人ぐらいが集まってラジオ体操をしている」と聞いて、見学しに行ってみたらまさに日本の高齢化社会の縮図というか、こんなに人が集まっていることに驚きました。普段から子どもが遊んでいたり、犬の散歩に行ったり、馴染みのある公園だったんですよ。

もともとラジオ体操には興味を持っていました。子どもの頃から夏休みに神社で集まってスタンプをもらうとか、ラジオ体操を通して全国各地にそれぞれの「文化」がありますよね。たくさん文献も出ていて、「ラジオ体操を題材にした映画ができないか」と、何となくずっと頭の片隅にありました。ラジオ体操を扱った作品は、これまで作られてないと思います。

○「リタイア後に何をしようか」周囲の声

――確かにパッと思い浮かばないですね。

伊丹十三監督ならどのような作品にするか、ぼんやり考えていました。『お葬式』(84)、『マルサの女』(87)、『スーパーの女』(96)のように、日常の中にある関心事を映画化されてきた方です。そのフィルモグラフィーからは伊丹さんが考えていたこと、つまり「日本人とは何か?」が通底しているように思ったんです。その影響はすごく受けているんですが、原作がない「ラジオ体操」をどのように映画にすればいいのか分からないまま数年が経ち……2年ほど前に「自分で書いてみよう!」と思い立ちました(笑)。シナリオライターに頼むのではなく。だって、体操会のことを知っているし、ラジオ体操のことも勉強しているから。まずは第一稿を書くことにしました。

僕の同世代でも50を過ぎると定年が見えてきて、リタイヤ後に何をしようか、そんなことを話す機会が増えてきました。僕は自分が立ち上げた会社だから定年はないですが、同世代の話が記憶に残っていたので「定年退職した男」を主人公にすることにしました。仕事ばかりに追われているので、地元に友達なんてほとんどいないんですよ。妻や子どもは、たくさん知り合いや友達がいるんですけどね(笑)。定年のタイミングは、子どもが独立する前後になることが僕の周りでは多くて、定年は社会的な変化だけじゃなく、家庭内にも変化が起こる一大事です。そこをより際立たせるために、菊地健雄監督、共同脚本の和田清人さんと相談して、結果的に一人娘がいて妻に先立たれた主人公像になりました。

●大学生時代に聴いたRCサクセション「体操しようよ」

――劇中の設定は初期の段階から決まっていたんですね。

だいたいそうですね。なんとか初稿が上がりましたが、そこからはやっぱり「映画化実現」の壁が大きく立ちはだかりました。これまでご一緒した映画業界の人達に読んで貰ったのですが、「オリジナルだよね……?」と難色を示す人がほとんどで。原作がない場合は、主演を誰が務めるのかによって、そのあたりの反応は変わってきます。さて、どうしよう……そう思っていた頃に放送されていたのが『真田丸』でした。再ブレイクした草刈(正雄)さんは一躍時の人になって、ドラマ自体もすばらしいものでした。「出てくれないかな」とは思っても、きっと大手が動いているに違いない。ただ『体脂肪計タニタの社員食堂』の社長役で出てもらった縁があるので、『真田丸』が終わった頃に台本をお渡ししました。

――まさかの縁!

返事も早かったですよ。翌日にマネージャーさんからご連絡いただいて、「草刈が読んで、面白いと言っています」と。草刈さんは脚本を一番大切にする方なので、そうやって評価をしていただけたことが「これはいけるかもしれない!」という自信にも繋がりました。中身をもっと面白くしたいと思って、共同脚本で和田清人さんに入ってもらってブラッシュアップしていたので、そのおかげでもありました。それから去年の夏頃から菊地健雄監督、プロダクションのポリゴンマジック、配給の東急レクリエーションという具体的な部分が決まっていきました。

――草刈さんの存在は大きいですね。どのあたりが気に入られたんですか?

草刈さんは超二枚目で「永遠のハンサム」。かっこいい役をたくさんやってこられた方で、最近はコミカルな役もありますが、今回の「道太郎」という役はパッとしないというか、どちらかというと不器用で平凡な男。そういう役が珍しいから、やってみたいと思ってくださったんじゃないかなと。監督と草刈さんのかっこよさをどう崩していくか話し合いました。冴えない男・道太郎は物語を通して徐々に変わっていきます。「60を過ぎても変わることができる」ということが一人でも多くの人に伝わればいいなと思います。
○名盤『PLEASE』への思い

――主題歌はRCサクセションの「体操しようよ」。映画のタイトルと全く同じですが、どちらが最初に決まったんですか?

僕は学生時代から清志郎さんの大ファンなんですが、当時から今でも清志郎さんの歌声が頭の中にずっとあって。ラジオ体操を題材にした映画を作ろうと思ったときに、当然この曲が浮かびましたがあくまで仮タイトルでした。定年後に新しい仲間ができていく話なので、「新しい友だち」「人生は60から」とかメモ帳にはたくさんタイトル案を書いていました。『南極料理人』もそうですが、やっぱり映画のタイトルってすごく重要なんですよね。『体操しようよ』からは父と娘のドラマ性は連想できないし……今でもこれでいいのかなという不安はあります(笑)。

――いえいえ(笑)。とても良いタイトルだと思います。RCサクセションの「体操しようよ」は、シングルカットされてない曲で、ライブでもあまり歌われなかった曲らしいですね。

そうですそうです。主題歌にするのか挿入歌にするのか、そのあたりのことは決めないまま、台本を書きながらこの曲を聴いていました。歌詞を読んでも、ラジオ体操のことを表現しているのか、全く分からないんですよね。でも、昔からこの曲が大好きで。アルバム『PLEASE』裏面の最後の曲で、その他にも「トランジスタ・ラジオ」とか名曲揃いなので、RCファンの間では『RHAPSODY』と並んで人気のアルバムだと思います。ただ「体操しようよ」はファンでもあまり知られてない曲じゃないでしょうか。

――いつごろ聴いてたんですか?

大学生の頃です。今でも35年前の思い出が蘇ってきます。

――まさかその曲を主題歌に映画を作ることになるなんて、当時の春藤青年は想像もしなかったでしょうね。

大学生の自分が知るとびっくりするでしょうね(笑)!
○『ラストエンペラー』と『カメラを止めるな!』の興奮

――それでは最後に。あらためて、オリジナル脚本の『体操しようよ』は、なぜ映画化できたと思いますか?

映画化に重要なのは企画と脚本。そして、ビジネスの面で考えると、「どう宣伝できるか」も同じぐらい重要です。

今年の11月1日、ラジオ体操が制定90周年を迎えました。1928年にかんぽ生命の前身となる逓信省簡易保険局が放送を開始しました。90周年という節目はニュース性がありますし、「健康」や「定年後」に関係する企業から協賛してもらえるのではとか、そういった狙いもありました。実際、かんぽ生命さんが特別協賛、タニタさんと長谷工シニアホールディングスさんが協賛をしてくれています。2年前になぜ自分で脚本を書こうと決断したのか。そうしないと90周年記念の映画化に間に合わなくなるというのも、理由の1つでした。

『カメラを止めるな!』は前代未聞でした。空前絶後というか、これからあんなことはもう二度とないかもしれません。狙ってできるようなことではありませんが、理想ではあると思います。『ラストエンペラー』が公開された初日、今はなくなりましたが新宿のミラノ座で周りを取り囲むぐらい行列ができていて、「映画ってすごい」と興奮したのを思い出します。その一方で、宣伝部ではお客さんが入らない映画がどれだけ悲しいことなのか、何度も経験してきています。出資者にも悪いし、劇場の売店の方だって寂しそうにしているわけですよ。だからこそ、一人でも多くのお客さんに見てもらいたいという気持ちは強い。芸術性も大事ですが「商業映画」ですから、自分の主張が形になればいいというものでは決してないんですよね。

『体操しようよ』は、最初に自分一人が思っていたよりも豊かで素晴らしい映画になったと思います。思いついたのは僕ですが、映画はやっぱり監督のものです。菊地監督が良い作品にしてくださいました。そして、草刈さんが主演を引き受けてくださったから、木村文乃さん、和久井映見さん、きたろうさん、渡辺大知さん、小松政夫さん……豪華キャストが集まってくださいました。映画って不思議ですよね。オリジナル作品なんて、もとは何もない。小さな種からたくさんの方の協力があって少しずつ大きくなり、こうして1つの作品にすることができました。

(C)2018『体操しようよ』製作委員会

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