謎のヴェールを脱いだシンガーソングライター・eillがデビューアルバム『MAKUAKE』を語る

SPICE

2018/11/9 19:00

SKY-HIPAELLASなどのアーティストの作品に客演する謎の女性シンガー・eillが、ついにそのヴェールを脱いだ。20歳とは思えない豊かな表現力と、楽曲ごとに視点を変える多彩な歌詞で魅せるデビューアルバム『MAKUAKE』には、日本国内はもちろん韓国からも選りすぐりの面々が名を連ねる。ざまざまな地域とシーンで活躍するクリエイターたちが、彼女のもとに集まるのはなぜなのか。 --このインタビューでは、今後日本からアジア、世界へと拡散していくであろう歌声の持ち主であるeillに、音楽的ルーツや楽曲制作を始めるまでの経緯、『MAKUAKE』収録曲に込められた思いなどを語ってもらった。


ーー プロフィールによれば、eillさんはスティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、ブライアン・マックナイト、ボーイズ・II・メン、ビヨンセといったソウル・R&Bシンガーに強く影響を受けられたそうですね。こういった音楽に触れたキッカケは何なのでしょうか?

もともと母親がMotown Recordsが好きだったので、昔からブラックミュージックは聴いていたんですけど、子どもの頃はあまり興味はなかったんです。小学校6年生の頃はKARAと少女時代がブームで、私もそこから韓国の音楽に深入りしていって、韓国に行ってオーディションを受けたり、TWICEの所属事務所が日本で開催するオーディションを受けるようになりました。それから、韓国のアーティストがカヴァーしているのを聴いてクリスティーナ・アギレラやビヨンセを知って、ソウル・R&Bにハマっていって。「韓国の舞台で歌いたい」という思いから「歌を歌いたい」という思いに変わって、スクールに通い始めました。





ーー K-POPにとどまらず韓国のHIP HOPにも没頭されたそうですが、きっかけとなったラッパーはどなたなのでしょう?

Jay Park (パク・ジェボム)という、もともと2PMというグループのメンバーだったアーティストがいて。今でこそものすごく人気があるんですが、私が出会った当時はまだ人気がなかったんです。TOKYO DOME CITY HALLでライブがあったんですが、お客さんが全然いなくて。LOCOだったりほかにも韓国のラッパーが一緒に来ていて、ライブがめちゃくちゃカッコ良くて、彼らにハマっていきました。



ーー なるほど。韓国の音楽を通していろいろな音楽に触れる傍ら、15歳からジャズバーで歌っていらっしゃったのも興味深いですね。

私は2人の先生に歌を教わったのですが、1人は韓国人の方で、もう1人はジャズを歌っている方だったんです。その方にはジャズのスタンダードナンバーを教えていただいて、15歳のときにバーに連れて行かれて「歌いなさい!」と言われて、エタ・ジェイムズの「At Last」を歌ったのが人生初ライブでした。しばらくジャズバーやブルースバーで歌っていたんですけど、中学3年生のクリスマスプレゼントにオーディオインターフェイスとキーボードとマイクを買ってもらって、自宅でオリジナル楽曲を作り始めたので、それからはライブハウスで歌うようになりました。

ーー 一度のクリスマスで機材がすべて揃ったのがすごいです……! eillとしてリリースを始める前にPAELLASの作品に参加されていますが、これはどういったキッカケで実現したのでしょうか?

ENNE名義で参加したPAELLASの「P House」という曲は、もともと一緒に曲作りをしていたクリエイターの方から「PAELLASの曲を明日までに仕上げたいんだけど、スパイスが足りないから、歌ってくれない?」と言われて。深夜2時くらいに自宅でレコーディングして「仮データです」と言って渡したら、そのまま使われていました(笑)。



ーー 他にも国内のさまざまなアーティストやクリエイターと曲作りをされていますが、中でも制作過程で刺激を受けた方はいらっしゃいますか?

デビューアルバム『MAKUAKE』の中の「MAKUAKE」と「FUTURE WAVE」は、プロデューサーのEIGOさんと作ったのですが、彼が集めたバンドメンバーと一緒に夕方にスタジオに入って、翌日の朝までアレンジの作業をするんですよ。eill自体はバンドではないけど、ソロアーティストでこういう曲の作りかたをする人はなかなかいないと思います。みんな、朝方になってくるとおかしくなってきて(笑)、ハイテンションで作っていくのがすごく楽しくて。自分でも「かっこいいことやってるんじゃないかな」と思っちゃいましたね。



ーー デビューアルバム『MAKUAKE』は、6月に発表されたタイトルトラック「MAKUAKE」で華々しくスタートしますが、この楽曲はどのようにして生まれたのですか?

eillとしてデビューするまでに、いろんな楽曲を作っていたんですけど、うまくリリースできなくて。20歳になるまでにデビューしたいという思いがあって。「"作られていた自分"のマントを取り払って、自分で自分の幕を開けよう」という気持ちをこめて、2週間で作り上げた曲です。トラックは、朝に聴いて「今日もがんばろう!」思ってもらいたくて爽やかなサウンドにしました。途中トラップっぽい展開を入れたり、最後のサビの頭にカーテンを開ける音を入れたのもこだわりです。あの音は自分の部屋で録音して、「ボーカルの後ろで少し聞こえるくらいでいいかな」と思ってたんですが、最終的に一番目立つところに入っちゃいました(笑)。 J-POPK-POPとシティポップの間を意識して作りましたね。



ーー 3曲目の「ONE feat. K.vsh」は、客演に迎えたラッパーK.vshさんもプロデューサのヘソンさんも、韓国の方ですよね。

そうですね。ヘソンくんも参加してくれたK.vshくんも同世代なので、「僕らがアジアのナンバーワンだ!音楽シーンを変えていこう!」というテーマで作りました。韓国のレコーディングスタジオに行ったとき、彼らはその場で考えたコーラスなどを足していくんですけど、私たちじゃ思いつかないような、不協和音ギリギリの奇妙なコーラスなんですよ。それがハーモニーになったときにめちゃくちゃかっこよくて、毎回びっくりします。1年前くらいに「721」という曲でコラボレーションしたRHEEHABくんOCEANくんもそうですが、韓国にはメジャーだけでなくインディーズにも若くてかっこいいアーティストがたくさんいるんです。彼らは主にSoundCloudで音楽を発信してるんですけど、月に1回は新曲を出しているので、ぜひチェックしてほしいですね。



ーー チェックしたいと思います。「HUSH」はLUCKY TAPESの高橋海さんによるプロデュースですが、年上の彼をリードする積極的な女の子を描く歌詞に、ドキドキしました。

この曲は、海さんからトラックをいただいたあとに歌詞を書き直したんです。かわいさ溢れるアレンジにしていただいたので、歌詞は攻めたいなと思って、20歳の女の子があまり言わないような言葉をあえて入れました。同世代の女の子たちとごはんを食べに行ったりするとみんなが年上の男性に恋をしていて、「あの人絶対わたしのこと好きなのに、「好き」と言ってこない。でも絶対落としてみせる!」と言っていたので、このテーマで書いてみました。



ーー 「shoujo」を聴いて気になったのですが、20歳のeillさんでも「少女時代の気持ちに立ち返ろう」と思うことがあるのでしょうか?

この曲は、ミュージックビデオを撮りたくて作った曲です。あるとき、女優の佐津川愛美さんがライブを観に来てくださって、お話ししたときに「eillちゃん、誰かに操られてるみたいだね」と言われて、その通りだなと思ったんです。いろんな人の意見に飲まれて、自分自身が流されていたころだったのですが、「もし自分が少女時代に戻ったら、どんなふうに生きるんだろう?」と振り返りながら歌詞を書いて。ミュージックビデオは佐津川さんに監督していただきました。



ーー 楽曲でも、映像でも、さまざまなフィールドで活躍するかたたちとご一緒されているのですね。このアルバムで勢いよく幕を開けたeillというプロジェクトですが、これからどんなふうに展開させていきたいですか?

今後も、私の楽曲をいろんなアーティストにリミックスしていただいたものを続々発表していく予定なんです。まだ先になるかもしれませんが、将来はJay Parkや、Mura Masaと共演してみたいです。「eillといえばこういう音楽」ではなく、ダンスミュージックもやれば言葉を大切に聴かせる曲もやって、毎回違う姿を見せていきたいです。ジャンルやシーンに縛られず、国境や言葉を超えていいものを発信していきたいと思います。

取材・文=河嶋奈津実

あなたにおすすめ