私はあら汁になりたい!『忘却のサチコ』まっすぐな高畑充希もいいが、吹越満に萌える良回

日刊サイゾー

2018/11/9 19:00


 高畑充希演じる極度の堅物OL・佐々木幸子が、結婚式当日に新郎(俊吾さん=早乙女太一)に逃げられた悪夢を忘れるためグルメ道に目覚め邁進する飯テロコメディ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。今回も深夜ながら2.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と安定の視聴率。ちょい遠征での三崎を舞台に、ドラマ史上屈指の名言が飛び出した第4歩(第4話)を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■今回は編集部を飛び出し三崎へ


 ある小説家の奥さんの葬儀に参列した後、三浦半島の三崎漁港付近を喪服で歩く白井編集長(吹越満)と、その部下・佐々木幸子(高畑充希)。50年連れ添った夫妻の絆について語る白井の話を聞きながら、幸子が考えていたのはもちろん失踪した俊吾さんのこと。

2人は休憩がてら「三崎フィシャリーナ・ウォーク うらり」という産地直売センターなどの入った観光施設へ。

そこで白井が買ってきたのはマグロのマドレーヌ、その名もマグレーヌ。幸子いわく「甘くてしょっぱい」らしい。

その流れで「せっかくだからマグロ丼食いにいくか?」と誘う白井。マグレーヌを食す前に言ってほしかった気もするが、「佐々木と行きたい店を調べておいた」と観光気分で軽めに浮かれる白井が微笑ましい。

昨日から準備で何も食べていないため、疲れと空腹で目がかすむ幸子が見かけたのは漁師姿の俊吾さん。

マグロ丼の店を調べる白井を放置し、俊吾さんを探すも、その姿はもはやなく、幻覚を見たと思い込んだ幸子が出した結論は「何か食べなくちゃ」。

もはや「うまいものを食べてツラいことを忘却」という名目ではなく、ただ王道の栄養補給。

そんな幸子が構内で入手したのは、マグロの中華まん。マグレーヌとかに比べると定番のご当地グルメで、組み合わせの相性も良さそう。その名も「トロまん」として有名で、250円という手頃な値段もうれしい。

そしてもう一品、マグロコロッケ。ジャガイモの中にマグロのミンチが練り込まれてるのかと思いきや、マッシュされたイモの真ん中に大きなマグロの塊が埋め込まれているというおにぎり構造。

「下味もしっかり付いていてソースなんかいらない」らしい。

さらにマグロの串焼きを口に運ぼうとした時、「さ~さ~き~」と白井編集長が到着。部下に置いてけぼりにされたのに「もう急にいなくなるから、どうしたかと思うでしょ~」と怒らない。マグロ丼を食べ行くのを反故にされた上、自分勝手に買い食いまでしてる幸子の心配までしてくれる。

だが、またしても俊吾さんを遠目に見かけた幸子はその場からダッシュ。そして再度白井は置いてけぼり。

この直前に幸子は観光客に頼まれカメラのシャッターを押していたのだが、その時の脇の締め方や腰の落とし方が堂に入っていた。さすが大学で写真サークル所属していた高畑。高畑好きにはたまらないドラマだ。

■ミスター味っ子的演出


 そして、ついに俊吾さんと対面。今まで主に回想シーンでの「キラキラしたモヤがかった俊吾さん」としての登場ばかりだっただけに、いきなりべらんめい調でがっつり芝居する早乙女太一が新鮮。まるで自分のことを覚えていない俊吾に対し、記憶喪失を疑う幸子だが、その漁師版俊吾は俊吾で、喪服を着ていることから幸子を自殺志願者だと勘違いし、気遣う。

そんな「自殺しそうな」幸子が俊吾に連れてこられたのは「くろば亭」という地元の名店。「地魚と鮪無国籍料理」と看板にあるが、マグロ料理がやはり有名だ。

俊吾@三崎が既婚者であると知り、さらに落ち込む幸子の元に運ばれてきたのは「三崎のマグロ丼定食」。マグロの中落ちの乗った丼とあら汁のセット。

マグロ丼は、お刺身のように一切れずつ小皿の醤油に付けて食べるのが作法らしいのだが、荒くれ者のような店主(泉谷しげる)に「好きに食え」と言われた幸子は、その「作法」をあえて無視、ワサビを溶いた小皿の醤油を丼に回しかけるストロングスタイルで勝負。しかも醤油だと思っていたのは甘辛のタレで、米とよく合いそう。

そして店主がドカッとテーブルに置いたのは「マグロの兜煮」。骨から身が剥がれる「ぬちょっ」という音が、もううまそう。しかも合わせてあるのは大根や長ネギでなく玉ねぎ。自然な甘さが合うらしいが、気取ってない感じがいい。

さらに「あら汁」にはさまざまな魚の中落ちが入り、それを味噌で仕立てたお椀。

「海の幸の豪華共演、きらびやかな味が身体中に染み渡っていく、お箸が止まらない、もうどうにも止まらない。ありがとう魚たち、ありがとうマグロ、ありがとう大海原」

幸子が心の中でそう叫んだ瞬間、葛飾北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」の浮世絵を背景にマグロやスズキ・カツオなどが飛び出し、その中のひときわ大きな魚にウエスタン調の服を着た高畑がロデオのようにまたがっている。

そのまたがっている魚がマグロでなくブリだったのが気になるところだが、それはさておき、このぶっとんだ演出は古くは料理アニメ『ミスター味っ子』から受け継がれるテレ東の十八番。

そしてもはや毎回恒例となった高畑コスプレ、今回は「カウボーイ」ということなのだろう。若干ノルマをこなしてるだけな気もするが、毎回入れ込む方も大変そうだ。

■「あら汁」になりたい幸子


 食べ終わり、お会計を求める幸子に、ぶっきらぼうな店主がスポーツ新聞を片手に言う。

「俺は休憩中なんだよ、休憩中はよ、金は受け取らねーんだ」

戸惑う幸子に店主が続ける。

「さっきあんたが飲んだあら汁な、あれは毎日味が違うんだよ。その日その日に獲れたもん入れてっからよ、二度と同じ味が作れねえ、今日だけの味だい。だからさ、昨日のことなんか考えたってよ、意味ねーんだよ。人間はよ、今日のことと明日の天気のことだけ考えてりゃいいんだよ。いつまでも消えた男のことなんて気にしてたらよ、もったいねーぞ?」

そう言ってニヤリと笑う。

なんか深夜に食欲をだらしなく解放し、胃液をダラダラ垂らしてテレビ見てただけなのに、グッとくるいい言葉を放り込まれてしまった感じ。身構えてなかった分、カウンター気味に放たれるこういうのは響く。

これに対し幸子は腰を90度に折って頭を下げる「サチコお辞儀」。幸子にも当然響いている。

この店主の言葉を受け、しばしのちに再度追いかけてきた白井編集長に対し、幸子は、「私はあら汁になりたい!」と、フランキー堺のようなことを言っている。

泉谷しげるの言葉を踏まえないと、ただ頭のおかしな奴に思われてしまうから危険だが、幸子は続ける。

「今日という日は今日だけなのです。人生もあら汁も同じ日はないのです」

「早く会社に戻りましょう。読むべき原稿が私たちを待っています」

そう叫んで会社に戻るべく港を全力疾走する幸子。愚直に全力疾走する姿はコミカルだが、その目には「明日」しか映っていないように見えたし、生気に満ち満ちていた。いやもともと死ぬ気なんてなかったのだが。

■吹越満に萌える


 結局、俊吾さんだと思っていたのは目の錯覚で、よくみたらまるで別人(東京03・角田晃広)というオチ。

会えそうで会えない感じは『母をたずねて三千里』パターンなのだが、毎回妄想や錯覚だからよく考えたらまったく「会えそう」でもない。

せっかくだから吹越と角田の絡みももっと見たかったが、今回はほぼなし。この配役、逆でもいけそうだが、白井の色気のあるダメさ加減は、やはり吹越の方がマッチする。

今回、いくら幸子が自分勝手な行動をしても「さ~さ~き~」と追いかけてくる吹越の愛犬感が見事で、言い方としては「や~ま~ね~」に近い印象だが、年配の上司が若い女子に振り回されているという図式があるだけに、なんか萌える。

決して怒らないし、ネチネチ嫌味も言わないし、一見頼りなげなのにどこか包容力に溢れてるし、今回だけで吹越のリアルな「理想の上司」感が急上昇。

それでいて「ちょっと待って~俺マグロ丼食べてないしい~」とワイシャツのはみ出した喪服姿でヨタヨタと幸子を追いかける姿にときめいた女性も多かったのではないだろうか?

よく考えたら濱田岳主演のドラマ『釣りバカ日誌』(同)での吹越の役も「佐々木」(課長)だ。

今回はまるで映画を一本見終わったかのような満腹感のある回。

今回脚本の狗飼恭子は主に恋愛モノで名を上げてきた書き手。そして今回監督の根本和政は『アンフェア』(フジテレビ系)やその映画版を手がけるやり手。それぞれが得意分野からややズレた場所で力を抜いて遊んでいる感じがいい。

次回は幸子に新たな恋の予感。乞うご期待。
(文=柿田太郎)

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